強く儚い者達 8

太陽が水平線の向こうに沈み、夜の闇が訪れる。
闇を制するのは数多の星々を従えた銀に輝く美しい月。
闇は月の輝きの前に平伏すのだ。
魔女の島に相応しい幻想的な月の夜。

かつてこれ程に美しい月を見た事があっただろうか。
闇よりも夜を支配するものなど無いと思っていたのに、この島では夜を象徴するものはあの美しい月。
慎ましくも美しく輝くその様は、まるで彼女のようだ。
何にも固執せず、ただそこにあるだけだった俺の中で慎ましくも美しく輝く君。
闇の中にあってさえ、輝きを忘れないあの月は君そのものだ。
君が月なら、俺は君を包み込む夜の闇になろう。
輝き疲れたのならそっと包み込んであげる。
君という月が美しく輝き続けられるように。



月明かりの中、俺はキョーコの案内で魔女が住む黒の塔に足を踏み入れた。
小さめの戸を開け、入口をくぐれば物音一つない静かな空間が広がっていた。
キョーコの持つ小さなランタンの明かりに照らされた内部は以外な広さを保っていた。
中は吹き抜けになっていて暗闇の中では天井は見えないが響く音でかなり高い事が知れた。

キョーコが手にしたランタンの光が何かを浮かび上がらせる。

中央に何かがある。

いや……何か……いる?

そしてギョッとした。
闇の中に人の姿を見いだしたのだ。

「キョーコ!」
「大丈夫です。これは嘆きの像と呼ばれるもの。」

キョーコが明かりを近づけると白く輝く彫像が姿を見せた。
精巧出来た石像だった。
近寄って見る。
倒れた男とその男を膝の上に抱き愛しげに見つめる幼さを残した女性の像だった。

愛しげに見つめる表情の中に感じる何かがある。
目尻から頬へとかかる一筋の後は涙?

「……人間が……そのまま石になったみたいに精巧だね。」
「そうかもしれません。」
「えっ?」
「歴代の魔女なのかもしれません。人の手で作るにはあまりに精工過ぎると、以前……ェリー様がいって言ってらしたから。」
「えっ?誰?」

誰か自分の知っている人物の名を聞いた気がして、もう一度問いただす。

「今、ジェリーって言わなかった?」

それは祖母の名だ。

「ねぇ、キョーコ。もしかして、もう一人はジュリエナっていう名前だったりする?」
「ジュリエナ様……ええ、そんな気がします。」

ジュリエナは母だ。

今頃、気付かされた。
祖父が王に付き、父が王太子としてこの島から国に帰って来るまでの数年間、母との思い出が全くない事に。
父が王座に付き、王太子となった俺を母が強く抱きしめてくれた記憶は鮮明に残っているのに、それ以前の記憶がない。
あれだけ強烈にインパクトがある人なのに過去数年間、俺の記憶に存在しないなんて事があるわけがない。

「キョーコ、君と一緒にいたという二人の事だけど。俺の祖母と母の事かもしれない。」

いや、それ以外に考えられなかった。

そして一つの仮定を導き出す。
この石像の女性は魔女ではなく、キョーコや母達と同じく、ここに連れて来られた者なのかもしれないと。

男の方にも見覚えがある気がした。
……女性の方も覚えがあるような。

どこで?

………王宮だ!
王宮でこの二人に似た人間を見た事がある。

10年前、王家の末席にいた俺。
そんなに多くはないが、会ったことがある。
会話を交わしたわけでもないし、幼い時の記憶だ、確かなものかどうかもあやしいところだが。

そして気付く。
男の胸……マントで半分隠れてはいるが、紋章が見えた。
盾と剣をあしらった紋章はフワ王家のもの。

やはり、これは。

「そうよ。これはフワ家の王子とその婚約者よ。」

冷たい声が響く。
キョーコの姿でキョーコではない者が言う。

「君は誰だ?」

キョーコの中に誰かがいる。

「私はミオ。この島の魔女。」



魔女は彼女の中にいた。



彼女の中にいて俺を見ていた。







◇◆◇◆◇





ども月華です。
『強く儚いもの達』妄想です。

書く度に、時間が経つ度に、話しの流れが変化して来ています。

どうか、お許しを。



それではまた。







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強く儚い者達 7《修正版》

パラレルです。
今回はキョコさんも蓮さんも出てきません。

ではではどぞ。



◆◇◆◇◆



この島に辿り着いた夜から俺は一軒の家に身を寄せていた。
昨夜は旅の疲れもあってか、夕食を腹に納めた後急に眠気が襲ってきた為、家主に断りを入れて案内された部屋で眠りを貪った。
深い眠りから覚めたのは太陽が昼に近い時刻を示していた。
慌てて飛び起きて、物音のする階下へと足を向けた。
そこにはこの家の女主人がいて、「今、食事を準備しているからね。外で顔を洗っておいで。」と言われ、そうさせて貰った。

「すいません。夕べからろくな礼もせずに。」

非礼を詫びると女主人は気にする事はないと言ってくれた。

この島に魔女以外に人が住んでいるとは思わなかった。
予想外の事に驚き、今こうして宛てがわれている環境にさらに驚かされている。

島に着いても、魔女に会えるのは王太子だけだと言われていた。
だから、王太子が戻るまで野営するつもりでいた俺達。
危険な生き物がいないとも限らない。
島を出るまでは…あの魔の海域を越えるまでは安らぎはないと覚悟していた俺達。
なのに接岸出来る入江には、人の手が加えられた形跡があり、一隻なら大きな船も繋留出来るように整備されていた。
そこには少女が一人待っていた。
魔女かと思えばそうではないと言う。
驚いた事に、この少女も魔法の力を操れるらしく、俺達の船を守っていたのは彼女だったらしい。
なんらかの形で……この場合”魔法の力”としか思えないが、船旅中に王太子と接触していたようで、それにも心底驚かされた。
そんな彼女は”使いの者を遣すからこのまま待つように”と言い置いて、王太子を連れていってしまった。
少女が言った通り入江に男性が現れたのは、それからすぐの事。
案内人の彼に促されるまま歩いて、着いた先は集落だった。
滞在中は幾人かに別れて島の住人の世話になる事になり、今、俺が世話になっているのは中年のご夫婦の家。
二人が営む小さな食堂だ。
しかし商売をしているわけではない。
この島には通貨などなく、物々交換が主流らしい。
畑を耕す者、狩りをする者、漁をする者、この夫婦のように食事を提供する者、それぞれ役割をもってこの島に住む人々。
これがこの島の在り方なのだという。
彼らと話していると、よく”キョーコ”という名前が出て来る。
誰なのか聞いてみると王太子を迎えに来たあの少女である事が分かった。
「キョーコ様は魔女の代理人さ。」と誇らしく語る青年。
「キョーコ様はやさしいんだよ。」「怪我だって簡単に治してくれるんだよ。」「キョーコ様は何でも知ってるんだよ。」口々に言う子供達。
あの少女は島の住人達から絶大な信頼を受けているらしい。
魔女の代理人としての地位なのか、彼女の資質故なのか。
その両方なのかもしれない。
彼女を知らない俺には判断つかないが、王太子にとって悪い状況ではない事は何となく感じ取れた。
彼女が仕える魔女なら、王太子も無事だろう。
そんな気さえしてきた。



席に着いていた俺のところにトレイを持った女将さんがやってきて湯気の立つ椀を一つ置いてくれた。

「もうすぐ出来るからね。これでも飲んで少し待っていておくれ。」

女将が出してくれたスープを口にし、そのどこか懐かしい味にホッとする。
やはり船の上より、陸の方がいい。
周りを見る余裕も出た。
安心感を得た俺はそこで気になる存在を見出だしていた。
視線窓の方へやれば、月が見える窓辺に椅子を寄せ、そこに座る女性がいる。
美しい女性だった。
感情のかけらも見せない表情のまま、ただ空に浮かぶ月を見ていた。

「あの女性、どうかなさったんですか?」
「彼女かい。もう10年以上は経つねぇ。浜辺で倒れていたんだよ。ケガはないようだったけど、記憶が、全くないんだよ。」
「記憶がない?」
「この島の人間ではないのは確かだね。小さな島だから島のもんならすぐにわかるよ。どこから来たのか、何が合ってここに辿り着いたかも分からないんだよ。」
「でも、この島は……。」
「そうだね、この島の周辺に人が住む様な島は一切ない。この島に住んでいるのは歴代の魔女の子孫言われている元々島にいた住民と、後はアンタ達みたいに王太子の船で大陸からやって来て、そのまま残った人間だけさ。」
「じゃあ、あの女性は……。」
「私達にもさっぱり分からないのさ。でも魔女が得体の知れないよそ者を受け入れたりはしないからね。……魔女が認めたなら私達は彼女を受け入れるよ。ただ身寄りがないから、うちで預かってるのさ。それとね、不思議な事があるんだよ。」
「不思議な事?」
「彼女は10年前と全く変わらない。あの髪……うちで引き取ってから一度も切っていない。」
「………。」
「魔女に記憶と時間を奪われてしまったのかもしれないね。」

10年?
それってまさか……。
俺の脳裏にある仮定が浮かんだ。
10年前と言えば……。

「そういや、あんた、ヤシロさんとか言ったね。」
「はい。」
「王太子の側近なんだろう。うちの旦那……元は大陸の人間だよ。あんたを見てあの人がちょっと寂しそうにしてたんだよ。」
「えっ?」
「宮廷の料理人だったんだよ。剣の腕前もそれなりによかったんで、ローリィ様と一緒にこの島に来たんだよ。」

ローリィ前王がこの島に来たのは10年も前。
10年前と言えば俺は17だった。
宮廷の書記官だった父に連れられて宮廷に出入するようになって3年目の事だ。
父はいずれは俺を宮廷での自分の地位を引き継がせたかったらしい。
下級貴族でしかないヤシロ家にとっては宮廷での地位の高さを維持する事が必須だったからだ。
剣はからっきしダメだった父。
だから俺も、それまで剣なんか護身用程度にしか習っていなかった。
剣で勝負を挑まれても負けっぱなしで、悔しい思いばかりしていた。
悔しくて、がむしゃらに剣を振るった。
そんな型も流儀もないものでは勝てるはずもなくて……。

「食え。坊主。」

奥から現れた武骨な主人がドンとテーブルの上に料理を置いた。

『食え。坊主。いくら頭が良くても体力がねぇんじゃつとまらねぇぞ。』

昔、誰かが言った。

『剣の勝負で負けた?しかたねぇだろ。相手はお前より年長だったんだ。加えてお前は最近剣術始めたばかりだろう。今日は負けたが今度はわからねぇぞ。俺も少しは剣が使える。練習の相手くらいしてやるよ。』

俺は強くなった。
一人で強くなったわけじゃない。
その人が俺に剣を教えてくれたんだ。
その人は……。

「せ…先生?」
「バカヤロー。先生じゃねぇ。俺はただの料理人だって昔から言ってるじゃねぇか!」

俺はどうして、この人を忘れていたんだろう。
俺を強くしてくれたのはこの人だ。
王太子の側近として今は仕えているが、それは剣術も含めた能力を買われたからだ。
頭脳は負けないと自負してきたが、剣術はと言えば昔は負けっぱなしだった。
あの頃のままだったら、今の俺はない。
そう、この人がいなければ今、俺はここにはいなかった。
それなのに俺はこの人を…。

「しかたねーだろ。これが魔女との契約だ。今、お前の記憶に俺がいるのもおそらく魔女の慈悲だ。島を出てしまえば、また俺の事なんざ忘れちまうんだろうな。」
「あんた。」
「お前も、そんな顔すんな。全部承知の上だ。」

魔女とはどんな人なんだろう。

「あの女性……もしかすると。」
「多分、お前の予想通りじゃねぇか?」
「フワ家の王子が連れていた女性……?」
「おそらくな。正直、俺もあまり覚えちゃいねえ。こんな女だった気がするってとこだ。魔女の怒りをかったんだろうぜ。愛人同伴の旅なんざ前代未聞だったからな。歳をとらねぇのも魔女の力だってんなら納得がいく。」
「先生。この島はなんなんですか?」
「先生じゃねぇって言ってんだろうが。……”魔女の島”。それ以上の事は誰も知らねぇよ。」

彼女がそうなら、フワの王子は?
彼もまた、どこかで生きているのかもしれない。








久々の『強く儚い者達』です。
次はキョコさんも蓮さんも出てきます。


よろしければまたいらして下さいね。



月華


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拍手・コメントお礼

すいませーん。
ドラゴンボールに浮気中の月華でーす。

すいません。
放置してまして。

リアルがちと忙しかったのもあるんですけどね。
繁忙期からそのままイベント続きで死ぬかと思った。
帰宅、一時よ。夜中の!
もうやる気ないわ。
何も。

で、すいません。
八月にコメント頂いててほうちんぐ。
本当にすいません。

ご当人様には直接お詫びにいった方がいいだろうなぁ。
すいません。
死人花にコメ頂いてたのに。

でも、やっぱりそうっすよね?
彼岸花にあまりいいイメージないっすよね。
毒花よ。
お墓によーく咲いてるし、墓参り時期に咲いてるし、彼岸花は彼岸花だよなぁ。
あははは。

独り言……。
枯れ際もなんかなぁ。
咲いてるし時は綺麗なんだがなぁ。
茎と花弁だけの不思議な花。
わし、咲き終わった彼岸花…今年初めてじっくり見たわぁ。
花弁がグレー化してた。
花びら落ちるってのとかじゃないのね。
桜の花みたいに花びらが落ちるとかだったら少し綺麗かと思ってたら、グレーに変色して枯れてた。
確かに葉っぱ出てたわぁ。
でも………切ねー。
あまりの枯れ際の状態に、ワシの妄想脳も枯れてしまいましたわ。
ワシ……赤い花びらが、ひらりと舞い落ちるのイメージしてたから。←乙女な妄想。しかし現実違った。

花は咲いてるとこが一番綺麗なんだな。
そして、闇にユラユラ揺れてたら怖いわぁ。

そんな彼岸花についての衝撃が今年ありました。
交通安全の街頭指導で立ってたとこに彼岸花あってじーっと見てましたわぁ。

衝撃笑撃。


放置してたのに拍手もありがとうございました。
なんか、一気に読んで下さった方がいらしたようで。
感謝です。

本当にありがとうございました。
続き書かんとなぁ。
途中で投げ出したくない。

誰も読む人いなくても、評価されなくても、別にそんなのは気にしない。
だから、読みにきてほしいとも言わない。
書きたい事を書いてるだけ。
誰かと共感したりするのも特には求めてない。
私生活忙しいので、よその作品も読めてないし、そんな状況で読んでほしいとは言えないし、言わないし、思わないっす。
もー、退職者がいて、よけいな仕事増えたんだもん。趣味に時間さけないし。ゴタゴタに巻き込まれてる暇もない。
そんな暇あったら、仕事かたして、家の掃除するわ。
そう開き直った月華でした。
自分の事で精一杯だよ。マジで。

でも、息抜きはしたい。
その息抜きが二次捜索。
自由きままに私は書く。
これからも私はそうしていく。
それでいいと思ってます。

ぶっちゃけ、スキビ熱低下中だったりして。
前ほどの熱がないのが正直なところ。
だから、めんどうなのはさけたい。
ますますスキビ熱下がるわぁ。
本誌買うのもやめたしなぁ。
コミックス出るまで待つわぁ。

今はなーんのしがらみもない、繋がりもないところでドラゴンボール書いてます。
変なネタ提供者はいらしたけど、あたり触りなく返して終わり。
面倒な事なし。
何より楽しい。
人様の二次作が楽しいのも久々。
すごい楽しい漫画サイトがあるんだもん。
仕事、超はぇー。
悟空さんがかわいくてたまりません。
忙しくてもそこだけは読みにいってます。
……だって癒されるんだもん。

ドラゴンボールにはまったきっかけは「懐かしいなぁ」とドラゴンボールをYouTubeで見てから。日曜日の改を見てはまったわけではないんですわ。
そして悟空さんのお父様に惚れ、色違いのカニ頭に惚れ、悟空さんと悟天くんの可愛らしさに惚れ、脳内カニ頭フィーバーでした。
二次はほとんどがターレスさんがセクシーで、バーダックさんがワイルドで、悟空さんはかわいいんですよ。
たまらない。
BL世界にワシ逆戻り。

私は書かないけどね。BLは。←そこは最後のボーダーライン。完全には戻らない。



てなわけで、本当にお付き合いありがとうございました。


ではでは。


月華


本当にお礼にならないわ。わはっはっ。

拍手・コメントお礼

月華です。

不在中も拍手、コメントありがとうございましたm(_ _)m

夏が終わり、無事に繁忙期終了。
やっともどってこれた。

ドラゴンボールに浮気してたのもあるけど。
しかもBLと呼ばれるカテゴリーに出戻り。囧rzいや、読むだけ。書いてるのは健全もの。あはは。
比重が傾いてきてるかもと危惧しつつ、スキビに帰還。


コメントお礼です。

まずは、名前なしのオコメ様。
もう大分前にコメント頂いてました。
すいません。
いってみよーシリーズでツボって頂きありがとうございましたm(_ _)m
感謝です。


くろねこ様

すいません。しばらく放置んぐしてたので、コメントに即対応出来ず失礼しました。
いえ、私、そういうの気にしないので、大丈夫です。というか、そんな風には全く思ってないので大丈夫です。
むしろ自分がブックマークしてたサイトのマスター様からコメントきた事にあたふたしとります。
いやはやびっくり。
本当にありがとうございました。



いや、びっくり。
こりゃびっくり。
あいやーーって感じでした。

まだランキングに残ってたし。
私、もう消えてると思ってた。
ご協力ありがとうございましたm(_ _)m
感謝です。


拍手も本当にありがとうございました。
こんだけ放置してたのに。

何度も足を運んで下さった方、すいませんでした。
そしてありがとうございました。

まだしばらく、このまんまがんばります。


ではまた。


月華




そしてちょっとだけつぶやきシロー。
追記にて……

続きを読む

強く儚い者達 6《修正版》

気づけはいつもそばにいた。
王宮のそばにある花畑は私と彼の大切な場所。


うまく話せる自信が無い。
不確かな記憶をどう話せばいいというの?
カケラだけの真実をどう繋いで話せばいいの?
彼はどこまで信じてくれるだろうか。
不安は大きくなるばかりだ。
私自身にさえ確証の持てない出来事なのだ。
そう簡単に信じて貰えるはずかない。
でも確かな事がある。

「初めてここに来た時は私一人ではなかったの。」

それを糸口に少しずつ思い出していく記憶。
だけど、また少しずつ消えていく。
何かが私の記憶を削っていくのだ。
完全に消えるわけではない。
だから思い出しては、また削り取られていく。

「時々思い出すの。その方々の事。……名前も思い出すのだけど、何故かいつも忘れてしまうの。」
「みんな女性?」
「ええ。それも、以前から知っていた方々だった気がする。この島に来る前から知っていたのだと思う。」
「………。」
「いつも私をたくさんのお花で飾って下さったの。泣いている私を抱きしめて下さったのも覚えているわ。……その記憶だけは忘れないの。」

『キョーコちゃん。ごめんね。貴女まで巻き込んでしまった事を許してね。』

一人は小柄な女性だった気がする。
先に消えていったのは彼女だ。

『キョーコ。大丈夫よ。あの子が必ず貴女を……。』

一人はとても美しい人だったと思う。
私の記憶から薄れゆこうとする中、彼女の強い思いが私の心にその言葉を残した。

彼女達が残した言葉。
それが何を意味するかはあの時には分からなかったけれど、今なら分かるような気がする。

『あの子が必ず貴女を……。』

”あの子”……それがクオン様の事だと今、確信している。

「クオン様。私、クオン様が来て下さるのをずっと待っていたのだと思うの。」

それは間違いない事。

「キョーコ。帰ろう。」

ギュッと抱きしめてくれる温かい腕。
ずっと求めていたもの。
ずっと待っていた。
ずっと……。
だけど……。

「いいえ。帰れません。」

もう帰れない。
だってもう……。

「キョーコ!?」
「あの国にはもう私の居場所がない。」
「何を言ってるんだ!?君は俺の側にいてくれれば!」
「貴方には婚約者がいる。」
「俺が望んだ訳じゃない!俺と彼女は何でもないんだ!!」

何でもない。
そんな女性と貴方は……。

「クオン様、魔女は不実を許しません。」
「押し付けられたものに愛情を感じろという方がおかしいだろう!」
「婚約者には何も感じていないと?」

愛がなくても貴方は平気なの?
愛がなくても、私にも触れられるの?
涙が溢れそうになって必死にこらえた。

「キョーコ。そんな顔しないで。」

それなら私に触れないで。
必死にたえていた涙が、頬を伝い落ちた。

「泣かないで。」

それは貴方が嘘をつくから。

「俺を信じて。」

私だって信じたい。
貴方の私へ言葉が真実である事を。
でも、私は知っているの。
だって私は………。

「キョーコ。何が不安なの?俺は何でも話すよ。嘘はつかない。約束する。嘘をついた時は…俺を裁けばいい。魔女にはそれができるだろ?フワ家の王太子の様に。」

魔女は偽りを赦さない。
今、この瞬間にも魔女は貴方を見ているのよ。

「きっと魔女の方が知っているよ。俺と彼女の間には愛なんかカケラも存在しない事。俺はそういった意味で彼女には触れていない。魔女に聞いてみるといいよ。」

クオン様に押し倒されて、花の中に身を埋めた。
私を見つめる優しい眼差しが渦巻く蟠りを消し去っていく。

「女性経験がないと言ったら、それこそ嘘になる。もう何年か経つけど、そういう相手がいた事もあるよ。だけど、彼女とは何もないんだ。今は君だけだよ。信じて。ごめんね。君を忘れてしまって。」

彼の心に偽りはない?
彼と彼の婚約者は何の関係もない?
彼女の肌に触れた事がない?
じゃ、あれは何だったの?
水鏡で見たあれは何?
あれは間違いなく、彼の婚約者だった。



『黒の塔へ。』



頭の中に響く声。
魔女が呼んでいる。

”イヤ”

私の心が叫ぶ。

『黒の塔へ。』

一緒にいられるのは彼が、この島にいる間だけなの。
彼が帰ってしまったら、私はまた一人になる。
せっかく彼をわかり始めたというのに。

『黒の塔へ。』

無情な魔女からの誘い。

「キョーコ?」

心配そうに覗き込むクオン様の顔。

「君が望むなら俺は帰らないよ。」
「クオン様。」
「魔女にお願いしてみよう。」

『黒の塔へ。』

「はい。」



ゆっくりと降りてくるクオン様の口付け。
抗う事などできるはずもなく……受け止めた。









随分期間あけたなぁ。
修正しましたが、あまり変化なし。

これに懲りずにまたいらして頂けると嬉しいです。
ではまた。



月華


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