秘境にいってみよーっ!2

「さあ、行こうか。」
「それはなんですか。」
「手だけど?」

それは分かってます!

当たり前のように差し出された手。
それをどうしろというのか。

ランチタイムを終え、片付けをスタッフさん達が引き受けてくれて、私はロケ再開の準備を始めた。
同時に敦賀さんも「少し外すね。」と言って車の方へと消えた。
出発の準備を調えたところに敦賀さんも戻ってきた。
どうやら動きやすい服に着替えて来たようだ。

やっぱり同行するんですね。

それは自由ですよ。
敦賀さんがお休みをどう利用するかは敦賀さんの自由です。

だけど…この手は何?

「山道だし、迷うと大変だから。」
「地図によるとお店まで一本道ですよ。」
「女の子は気をつけなきゃダメだから。」
「慣れてますし、スタッフさん達もたくさん控えてますから。」
「途中に幽霊スポットがあるらしいよ。」
「見えなきゃ、怖くもありませんから。昼間ですし。」
「……近所で飼われていたアナコンダが逃げ出したらしいよ。」
「いやぁーーーーっ。」

大抵のものは平気な私。
唯一苦手なモノはアレだった。
名前を言うのもいやなくらい嫌いなのよ。
故に私は思わぬ話題に動揺した。

この田舎において、あんなのそうそう飼う人はいないだろう。
よく考えれば嘘だって分かるのに。

気付いたら敦賀さんにしがみついとてて、そのまましっかり手も取られてた。

「じゃ、出発だね。」

キラキラひかるその笑顔。

この似非紳士!



◆◇◆◇◆



2人、手をつないだまま坂道を歩く。

はっ…恥ずかしい。
カメラを止めて〜っ。

私はこんなに恥ずかしい思いしてるのに、どうしてこの人はこんなに上機嫌なの?

鼻歌までしてるし。

……初めて聞いたなぁ。
敦賀さんの歌。
鼻歌だけど。

「疲れてない?」

ちゃんと私の事も気にしてくれてる。

「疲れたら無理せず、言ってね。」

言いながら、キュッて強めに手を握ってくれる。

……嬉しい。

「疲れたら、お姫様抱っこして上げるからね。」

………疲れたなんて口が裂けても言うもんかぁ!!

歩いていると前から小さなトラックが来た。

「あんだら、どごまでいぐんだ?」

運転席からおじいさんが顔を覗かせる。

「この先にある、お店まで行くんですが、後どのくらいで着けそうですか?」
「兄ちゃん、テレビさ出でる人だべ。ねぇちゃんは新妻京子でねが。」
「違いますっ!」
「人妻京子な。わりわりぃ。」
「通い妻ですぅっ!」

わざと?
わざとでしょっ!

私がドロンドロンの怨念振りまく中、先輩俳優は無駄に輝かしいキランキランの笑顔を振りまいてのたまった。

「新妻京子の方が俺的にはツボだなぁ。」

この人…押したお…いえ、張り倒してもいいですか?

「兄ちゃんの言う店はかっつぁんのどごだな。そだなぁ。いずずかんはかがんでねが?」

訛りに訛った言葉から目的地まで1時間を要する事が読み取れた。

「乗ってぐが?」

いや、乗れないでしょ。
2人乗りのトラックに。

「番組の企画で、歩いて行くしか方法がないんですよ。」
「そか。しゃあねーなぁ。」
「お気遣いありがとうございます。」
「んだ。…最近なぁ、気の荒れぇイノスス出っから気付けろな。突っ込んでくっからよ。危ねど。」

イノススって………猪の事よね?
突っ込んで来るって、突進してくるってことよね?
襲ってくるの?
ウリ坊じゃなくて、デカイやつよね?

そんなのいるなんて聞いてなぁーい!!

「京子、大丈夫だよ。君の事は俺が守るから。」
「敦賀さん。」
「妻を守るのは夫の役目。」
「……。」
「おっ、いい事言うねぇ。…おっと、オラぁけんねげねんだ。かぁちゃんにおごられっつまうがらよ。ほだらば、気付けでげよ。」
「あなたもお気をつけて。奥様によろしくお伝え下さい。」
「おう。夜這い妻京子楽しみにしてっぞぉ。」

おじいさんはエンジンをふかしながら、帰って行った。

私は小さくなるトラックに向かって叫んだ。

「通い妻ですってばぁ〜っ!!」

なんて虚しい叫び。

「俺、いつでもいいよ?」
「何がですかっ!?」
「夜這いされるの?」
「はぁ?!」
「でも押し倒すならベッドにして。」
「はぁ?」
「さっき押し倒してもいいかって言いかけたよね?」
「えっ?」
「口に出てたよ。」
「いっ……いやぁあ〜〜。」

……穴があったら入りたい。
いっそ掘ろうかしら。

だけど、その穴掘り計画はずっと手を握ったまま離さない敦賀さんに阻止されて、かっつぁんさんのお店まで歩く。
足取りは酷く重い。
ついて出る言葉もじっとり湿ったものばかり。

「敦賀さんの意地悪。」
「ん。」
「敦賀さんのバカ。」
「うん。」
「敦賀さんの嘘つき。」
「うんうん。」
「敦賀さんの似非紳士。」
「そうだね。」
「敦賀さんなんか嫌い。」
「それは容認出来ません。」

うねりながらまだまだ続く坂道を半ベソかきながら敦賀さんに手を引かれて歩いてきた。

敦賀さんの手は温かい。
こんなグジグジした気持ちでもあったかいて思えるくらいにあったかい。
だから振りほどく気にすらならなくて、手はつないだまま。

……やっぱり、私は敦賀さんが好きなんだな。

「あっ、あれかな?」

行く先に建物が見えてきた。
看板もある。

もう少しだ!
やっと解放されるっ!

そう思った時…雑木林の中からガサガサという物音が聞こえた。

嫌な予感。

「ブヒッ。」

ガサガサ音を立てながら近づいてくる動物的な鳴き声。

やがて…それはふてぶてしくも、どーんと姿を現した。

これでもウリ坊だった時代もあったんだぜ〜的なデカイやつ。

私達を見た途端、鼻息を荒くして、威嚇してくる大きな猪さんだ。

ああ、どうしよう!

動揺する私の前に敦賀さんがスッと入る。

「つっ…!」
「しっ!静かにして。大丈夫、君は俺が守るから。」
「あぶないですよ。ケガしたらどうするんですか!」
「チンピラ10人の方がよっぽど危険だよ。」

…って、あなた…チンピラさんを10人も相手にした事があるんですか!?

敦賀蓮VS猪。

猪が突進してきた。
構える敦賀さん。

その結末は?

「村雨君とやり合うより楽だったね。」

敦賀さんの足元には昏倒した大きな猪。

敦賀さんは長い足を振り上げたかと思うと
突進してきた猪の脳天に渾身の一撃を食らわせていた。

「手加減してたらヤバかったから…ゴメンね?」

………敦賀さん。
あなた、きっと、 私達なんかよりずっと、この番組に向いてますよ。

定番ですけど、無人島生活とか。
それもスタイリッシュにこなしてそうですよね?

…私…出番なくなるかも。

バラエティにおいてもこの人はライバルになりえるのかと思う日が来ようとは予想もしていなかった。



◆◇◆◇◆



私達の前にはグツグツと美味しそうに煮立つぼたん鍋。

「美味しいね。」

目的のお店は天然物の食材が売りの店だった。
お店の名前もおじいさんが言っていた“かっつぁんの店”そのまま。
ご店主のかっつぁんさんが山で猟をし、山菜を採り、畑で野菜を作り、奥様が調理をしてお客様をもてなす。
そんな夫婦二人三脚のお店だった。

ぼたん鍋も美味しいけど、山菜の天ぷらが最高に美味しい!
お蕎麦も手打ちなんですって。
蕎麦畑もあって、新蕎麦の時期なら石臼で自家製粉した田舎蕎麦も味わえるとか。
いつか来たいなぁ。

奥様オススメのシチューがまたいいのっ!
お肉がよく煮込まれていて、口の中でとろけちゃうの。
……猪のお肉とは想像もつかないわ。

ちなみに……敦賀さんが格闘した猪は、タイミング良く現れたかっつぁんさんが笑顔で引き取ってくれた。
敦賀さんをも凌ぐ長身で、だるまやの大将をも凌ぐ体格の良さのご店主は大きな猪を軽々と担いでしまわれた。
猪を担いだご店主に案内されるのは何ともシュールというか……。

どんなワイルドなお店かと思いきや、お店はカフェみたいなつくりで店内には小柄で可愛らしい奥様が私達を出迎えてくれた。

メニューはその時の食材に合わせて変えるんだとか。
人気のメニューは定番化していて、それを頼んだら出てきたぼたん鍋に焦ったけど、敦賀さんが倒した猪ではないと聞いて少しだけホッとした。

でも凄い奥様だわ。

このお店、スイーツも人気なんですって。

抹茶クリームあんみつが目の前に出され、気分は幸せいっぱいだった。
食べても予想通り美味しくて。

「美味しそうだね。」
「はいっ!」
「一口ちょうだい。」

珍しいなぁ。

「はい、どうぞ。」

器から白玉と抹茶のアイスクリームをすくって敦賀さんの口元へ差し出した。
嬉しそうに口に入れる敦賀さん。

「うん、美味しい。こっちも美味しいよ。はい、どうぞ。」

敦賀さんのはこの店のもう一つの「ずんだはっと」というものだった。

「ずんだ」は聞いたことがあるけど、はっとってなんだろう?

「とにかく食べてみて。はい。」

敦賀さんの差し出すスプーンにはお花型の白いもの、その上に綺麗な黄緑色の餡が乗っている。
察するに下がはっとで、上がずんだなんだろう。
名前からすると郷土料理よね?
なのに何?
この可愛らしさは!?

「はい。あーん。」

パクッ。

モグモグ。

……美味しい。
これお餅じゃないわよね。
平たいうどんみたいな感じ?
…あっ…たぶんこれはすいとんだわ。
すいとんのスイーツ?
もちもちした食感がいいわ。
それにこの餡!
甘さ過ぎない…それだけじゃない甘さを引き立たせる為の絶妙な塩加減!
なんなのこの餡は!

ずんだって何で出来ているの?

「気に入った?はい。もう一口。」

パクっ……モグモ………………ごっ……くん………………あっ。

「俺ももう一口貰うね。」

あっ…。
ああ〜っ!
つっ敦賀さん!
そのスプーン、わっ私が食べ……。

「どうかした?」
「つ…敦賀さん、私たち…スプーン。」
「ん?スプーン?ああ、見事な間接キスだよねぇ。今日は記念すべき日だ。」

なっなんて事ぉっ!?

カメラはしっかり回っているし、ここまで同行してきたディレクターさんはOKサイン出してるし……。
……カットなんか、絶対してくれないわよねぇ。

ああ……これが全国のお茶の間にながれたら、私……敦賀さんのファンの皆さんに抹殺されてしまうんだわぁ。
どうしよう。
どうしよう。
どうしたらいいの?

……ちーん……。




◆◇◆◇◆



スタジオで編集されたVTRを見ている。
あれも、これも、どれも……カットされていない。

人生、これで終わったわ。

……と、思ったのだけど……私はその後もしぶとく生きていた。

敦賀さんはいつもより子供っぽくてかわいいとか、私の事は見ていて面白いとか。

私と敦賀さんのやり取りはモノマネ番組でも取り扱われ……。

世の中全く分からない。

分からないまま時は過ぎ。

「その節はお世話になりました。」

敦賀さんとふたり各テーブルを回っている。

「おめでとうございます。敦賀さん、京子さん!」
「良かったですねぇ。俺たちも嬉しいです。」
「京子さん綺麗ですよ。」
「敦賀さん、京子さんを幸せにして下さいよ。」

長くお世話になった番組のスタッフさん達が座る席だ。

「コーン、万歳!」

何で知ってるの?

「あの話し、もう話しても大丈夫ですよね?」
「いいですよ。」

……私も最近知ったコーンの正体。
それを彼らに話していた?

どういう事?

「敦賀さん、また京子さんとふたりで番組に出て下さいよ。」
「また、秘境?」
「もちろんです。」
「いいよ。」
「よろしくお願いします!」

何、勝手に話してるんですか!

「秘境で田舎暮らしもいいよね。サバイバルなら得意だし、彼女は料理得意だし。」
「敦賀さん、それいいっす!」
「やりましょう!!」

勝手に決めるなぁ!

「ただし、京子が復帰したらね。」

この披露宴が終わったら、私はしばらく休業する。

それというのも、これというのも、あんた達のせいよーっ!

何度も私をエサに敦賀さん引っ張り出して、秘境ロケ。
付き合い出した事をいい事に田舎だから準備出来なかったとか言って無計画にあんな事するからぁ。



秘境ロケなんて、もう絶対やらないんだからぁ!!



敦賀さんのバカーーーーーっ!









終わっちまえ。←すいません。

キョコさん、通い妻から本物の新妻になりました。

通い妻ですと叫ぶのもこれでおしまい。

書いてて楽しかった。

ちなみに披露宴で言っていた秘境で田舎暮らし生活企画は「蓮が食材を確保し、キョコが調理して、客をもてなす。秘境でおもてなし企画」です。
そんな裏設定あり。書きませんけどね。
だから裏設定。


仕事疲れのストレスを発散出来ました。



それではまた。



月華でした。
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あはは!

人妻京子だと、蓮さんが自分で言うのはオカシイし、他の男の妻みたいに聞こえて嫌ですよね。

「うちの新妻」」なら言えそうですもんね。で、新婚っぽいとか言われて喜ぶパターン。(* ̄m ̄*)


番組とタッグを組んだキョーコ妻化計画。

最後はおめでたまでプロデュースされちゃったみたいですが、彼等の全然秘めていない赤裸裸ラブラブ生活はまだま続きそうですね。

楽しいお話を有難うございました!
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蓮キョ大好きです。
駄文しか書けませんが、よろしくお願いします。

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