晴天の霹靂 3

「久遠さんなんか。」
「「パパなんか。」」

キョーコとキョーコそっくりのかわいい双子の女の子。

「「「大っ嫌い!!!」」」

俺の中を大音量で駆け巡る単語は幸せの真っ只中にいたはずの俺に、これ以上ないほどの衝撃をもたらす。
まさに、落雷だ。
直撃を受けた俺は・・・死んでしまうかもしれない。



どうしていつもこうなる?

結婚して三年。
子供が出来て………。
あれ?

なぜか引っ掛かるものを感じながら、俺は彼女達に向き合った。

「ごめん。えっと理由を教えて。」

まずは理由を聞かなくちゃ。

「ひどいです。敦賀さん。」

ちょっとキョーコ。
呼び方が以前に戻ってるよ。
敦賀さんじゃないだろう

「パパ。きらい。」
「パパ。わるいひと。だめなの。」

子供達まで。
いったい俺が何をした?

「私、子供達といっしょに京都に帰ります!!」
「ちょっと待ってくれ。」

本当に何がどうなってるんだ?

「キョーコ。お願いだから、何があったか話してくれっ!!」
「心当たりがないとでも言うんですか!?」

ないよ。
全くないと言える。
自信をもって言い切るよ。

「パパ、ひどい。」
「パパ、きらい。」

君達まで。

あれ?
・・・・・・この子達、名前なんだっけ?
あれ?
あれっ?

「パパ、ひどい。」
「パパ、きらい。」

この子達、名前は?

「ママね、泣いてるよ。」
「ママね、さびしいんだよ。」

え?
キョーコにが泣いてる?
なんで?
キョーコがさびしい?

「パパにはやくあいたいんだって。」
「ママね、パパにいいたいことがあるんだって。」

俺に言いたい事?
なんだろう?

「だから、はやくかえってきてね。」
「はやくママをぎゅっとしてね。」

もちろん。
そのつもりだよ。

「パパ。おかえりなさい。」
「もうすぐママにあえるよ。」

え?
”おかえりなさい”?
”キョーコに会えるよ”って、今までここに。
あれ?
キョーコはどこ?
キョーコもしかして、出て行っちゃった?
いや、彼女が子供達をおいてそんな事するわけないし。

そういえば、ここ、なんか変だ。
俺のマンションだけど、なんか……微妙に揺れてる?

え?
子供達までいない。
今までここにいたじゃないか?

”パパ。”
”まってるね。”

え?
姿がないのにあの子達の声がどこからかした。

……そういえば、俺、子供いたっけ?

いや、キョーコも仕事があるし、時期をみてと……。

え?
え!?




◆◇◆◇◆



「蓮。おい、蓮。悪いが起きてくれ。もうすぐ着くぞ。」
「……あれ?社さん?」
「シートベルト着用してくれ。」

あれ?
ここ、マンションじゃない。

「やっと日本だな。」

そうだ。
俺、海外ロケで。

「帰ったら、そのままオフだからな。」
海外でのロケは1ヶ月以上におよんだ。
結婚してもタレント業を続けているキョーコは忙しく日本を離れることなんかできない。
俺自身も日本に帰ってくる余裕もなかった。
結婚してからこんなに離れていた事なんてないから、正直堪えた。
彼女は俺にとってなくてはならない尊大だって思い知った。
会いたくて逢いたくて、抱きしめたくて、抱きしめてほしくて。
このロケが終ったら二人でいっしょに旅行に行こうって約束してた。
俺はそれを糧にがんばったんだ。
二人だけでゆっくり過ごすんだ。

あれ?
二人?
でもさっき……。
あれ?

あれは夢?

え?

俺は夢を見ていたのか。

どうも夢と現実の境目が混濁しているようだ。

でも、良かった。

俺、君に嫌いだなって言われたら、生きていけないから。

でも、でも……あの子達かわいかったな。

夢だったのか。
あの子達が夢の中での存在だという事が残念でならない。

子供か。
そろそろ、いいよな。
帰ったらキョーコに相談してみよう。

あの子達にまた会いたいよ。



近づく地上の様子を眺めながら、思いは彼女の元へ。




◆◇◆◇◆



マンションに辿り着いたのは日が落ちてからの事。

君に逢いたい。
逢って君を抱きしめたい。

そして言うんだ。

家族をつくろうって言うんだ。

逸る気持ちを抑えいれないまま、いつもの駐車場に車を停めて降りる。
急いでエレベーターに乗り込む。
高速のはずのエレベーターさえ、もどかしく思える。

早く。
早く、君の元へ。

エレベーターを降りれば、待っているのは君の待つ俺達の部屋。

このドアの向こうに君がいる。

カードキーでロックを外しドアを開けた。

「ただいま!キョーコ!!」

明かりのついた部屋。

「キョーコ?」

既に帰宅しているはずの彼女。
しかし、予想に反して何の音沙汰もない。

いる気配はあるのに。

寝室かな?

そっと寝室のドアを開けた。

「キョーコ?」

明かりはついていない。
しかし、廊下からの薄明かりでベッドの上にこんもりと盛り上がった小さな山を見つけた。

「キョーコ?」
「………。」

俺の声で身動くところをみると起きているようだ。

「体調でも悪いの?」

オフを一緒に過ごす為に彼女も無理していたはずだし、自己管理のしっかりした彼女といえどもありえなくもない。

「キョーコ?」
「久遠さん?」
「うん。今帰ったよ。どうしたの?体調悪いの?大丈夫?」
「……お帰りなさい。」

ベッドに潜り込んだままのキョーコ。

”ママ、泣いてるよ。”

夢の中であったキョーコそっくりの女の子がそう言ったのを思い出した。

「キョーコ。泣いてるの?」

”はやくママをぎゅっとしてね。”

俺は覆いかぶさる様にして彼女を抱きしめる。

「寂しかった?」

彼女が頷いたのが分る。

「俺に会いたかった?俺もね、君に逢いたかったよ。あってこうして抱きしめたかった。」
「久遠さん。」
「俺に言いたい事があったんだよね?」

あの子達が言ったんだ。

「ね。キョーコ、話して。」
「久遠さん?」

キョーコが潜り込んだシーツの中から顔を出す。

「明かりつけてもいい?」

了解をとって明かりをつけると涙の後を残した彼女の顔が見えた。

「どうして泣いてたの?何が不安なの?」
「久遠さん!!」

彼女が俺に抱きついてきた。

「久遠さん。あのね。私……。」
「うん。」

彼女が何を話したいのか。
なんとなく予想がついた。

「あの……。私……。」
「あっやっぱり、ちょっと待って!先に俺に言わせて。」
「え?」

やっぱり俺から言いたい。
勝手でごめん。

「俺、どうしても欲しいものがあるんだ。」

俺のお願いを聞いて欲しいんだ。
俺の願いは君にしかかなえて貰えないものだから。

「キョーコ。家族が欲しいんだ。」
「久遠さん。」
「俺と君の家族だよ。」
「どう…して……。」
「会ったんだ、この子達にね。」
「え?」
「きっと双子だよ。」
「えっ?」
「二人とも女の子だった。」
「久遠さん。」
「君によく似たかわいい女の子。夢の中に出てきて、君が泣いてるって、寂しがってるって教えてくれたよ。」
「……夢に?」
「うん。産まれる前から母親思いのいい子達だね。」
「久遠さん。私、ちゃんとお母さんになれるかなぁ。」

家族愛に恵まれずに育った彼女だから、きっと不安だったのだろう。
そんな時に君を一人にしてごめん。

「どうしたらいいのか、分からないの。」
「大丈夫。俺もいるから。」

分からない事ばかりだけど、二人で頑張ろう。
二人でなら、きっと楽しいよ。



俺は、そのまま眠りに落ちた。
大切な彼女と彼女が宿した小さな命を抱いたまま。

その夜に見た夢はとても幸せなものだったと思う。



それから時が経って、俺は父親になる。
二卵性の双子。
女の子二人だと思ってたら、実は男の子で。
でも、二人ともキョーコにそっくりに育っていく。

小さな頃のキョーコそっくりな子供達。

俺は幸せだった。

「「パパなんか、大っ嫌い。」」

また、なのか。

「理由聞かせてくれる?」

衝撃に耐えながら、尋ねると返ってきた言葉は。

「ぼく、おとこのこだよ。」

は?
そうだね。
知ってるよ。

「パパ、ぼくたちのこと、おんなのこだとおもってたんでしょ?」


いつの話しだ?

「「ママが教えてくれたよ。」」

キョーコっ

「「だから、パパきらい」」

穏やかだったはずの久々の家族揃ってのオフ。

頼むから、キョーコそっくりの顔で言うのはやめてくれ





晴天の霹靂シリーズ 完結


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