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強く儚い者達 7《修正版》

パラレルです。
今回はキョコさんも蓮さんも出てきません。

ではではどぞ。



◆◇◆◇◆



この島に辿り着いた夜から俺は一軒の家に身を寄せていた。
昨夜は旅の疲れもあってか、夕食を腹に納めた後急に眠気が襲ってきた為、家主に断りを入れて案内された部屋で眠りを貪った。
深い眠りから覚めたのは太陽が昼に近い時刻を示していた。
慌てて飛び起きて、物音のする階下へと足を向けた。
そこにはこの家の女主人がいて、「今、食事を準備しているからね。外で顔を洗っておいで。」と言われ、そうさせて貰った。

「すいません。夕べからろくな礼もせずに。」

非礼を詫びると女主人は気にする事はないと言ってくれた。

この島に魔女以外に人が住んでいるとは思わなかった。
予想外の事に驚き、今こうして宛てがわれている環境にさらに驚かされている。

島に着いても、魔女に会えるのは王太子だけだと言われていた。
だから、王太子が戻るまで野営するつもりでいた俺達。
危険な生き物がいないとも限らない。
島を出るまでは…あの魔の海域を越えるまでは安らぎはないと覚悟していた俺達。
なのに接岸出来る入江には、人の手が加えられた形跡があり、一隻なら大きな船も繋留出来るように整備されていた。
そこには少女が一人待っていた。
魔女かと思えばそうではないと言う。
驚いた事に、この少女も魔法の力を操れるらしく、俺達の船を守っていたのは彼女だったらしい。
なんらかの形で……この場合”魔法の力”としか思えないが、船旅中に王太子と接触していたようで、それにも心底驚かされた。
そんな彼女は”使いの者を遣すからこのまま待つように”と言い置いて、王太子を連れていってしまった。
少女が言った通り入江に男性が現れたのは、それからすぐの事。
案内人の彼に促されるまま歩いて、着いた先は集落だった。
滞在中は幾人かに別れて島の住人の世話になる事になり、今、俺が世話になっているのは中年のご夫婦の家。
二人が営む小さな食堂だ。
しかし商売をしているわけではない。
この島には通貨などなく、物々交換が主流らしい。
畑を耕す者、狩りをする者、漁をする者、この夫婦のように食事を提供する者、それぞれ役割をもってこの島に住む人々。
これがこの島の在り方なのだという。
彼らと話していると、よく”キョーコ”という名前が出て来る。
誰なのか聞いてみると王太子を迎えに来たあの少女である事が分かった。
「キョーコ様は魔女の代理人さ。」と誇らしく語る青年。
「キョーコ様はやさしいんだよ。」「怪我だって簡単に治してくれるんだよ。」「キョーコ様は何でも知ってるんだよ。」口々に言う子供達。
あの少女は島の住人達から絶大な信頼を受けているらしい。
魔女の代理人としての地位なのか、彼女の資質故なのか。
その両方なのかもしれない。
彼女を知らない俺には判断つかないが、王太子にとって悪い状況ではない事は何となく感じ取れた。
彼女が仕える魔女なら、王太子も無事だろう。
そんな気さえしてきた。



席に着いていた俺のところにトレイを持った女将さんがやってきて湯気の立つ椀を一つ置いてくれた。

「もうすぐ出来るからね。これでも飲んで少し待っていておくれ。」

女将が出してくれたスープを口にし、そのどこか懐かしい味にホッとする。
やはり船の上より、陸の方がいい。
周りを見る余裕も出た。
安心感を得た俺はそこで気になる存在を見出だしていた。
視線窓の方へやれば、月が見える窓辺に椅子を寄せ、そこに座る女性がいる。
美しい女性だった。
感情のかけらも見せない表情のまま、ただ空に浮かぶ月を見ていた。

「あの女性、どうかなさったんですか?」
「彼女かい。もう10年以上は経つねぇ。浜辺で倒れていたんだよ。ケガはないようだったけど、記憶が、全くないんだよ。」
「記憶がない?」
「この島の人間ではないのは確かだね。小さな島だから島のもんならすぐにわかるよ。どこから来たのか、何が合ってここに辿り着いたかも分からないんだよ。」
「でも、この島は……。」
「そうだね、この島の周辺に人が住む様な島は一切ない。この島に住んでいるのは歴代の魔女の子孫言われている元々島にいた住民と、後はアンタ達みたいに王太子の船で大陸からやって来て、そのまま残った人間だけさ。」
「じゃあ、あの女性は……。」
「私達にもさっぱり分からないのさ。でも魔女が得体の知れないよそ者を受け入れたりはしないからね。……魔女が認めたなら私達は彼女を受け入れるよ。ただ身寄りがないから、うちで預かってるのさ。それとね、不思議な事があるんだよ。」
「不思議な事?」
「彼女は10年前と全く変わらない。あの髪……うちで引き取ってから一度も切っていない。」
「………。」
「魔女に記憶と時間を奪われてしまったのかもしれないね。」

10年?
それってまさか……。
俺の脳裏にある仮定が浮かんだ。
10年前と言えば……。

「そういや、あんた、ヤシロさんとか言ったね。」
「はい。」
「王太子の側近なんだろう。うちの旦那……元は大陸の人間だよ。あんたを見てあの人がちょっと寂しそうにしてたんだよ。」
「えっ?」
「宮廷の料理人だったんだよ。剣の腕前もそれなりによかったんで、ローリィ様と一緒にこの島に来たんだよ。」

ローリィ前王がこの島に来たのは10年も前。
10年前と言えば俺は17だった。
宮廷の書記官だった父に連れられて宮廷に出入するようになって3年目の事だ。
父はいずれは俺を宮廷での自分の地位を引き継がせたかったらしい。
下級貴族でしかないヤシロ家にとっては宮廷での地位の高さを維持する事が必須だったからだ。
剣はからっきしダメだった父。
だから俺も、それまで剣なんか護身用程度にしか習っていなかった。
剣で勝負を挑まれても負けっぱなしで、悔しい思いばかりしていた。
悔しくて、がむしゃらに剣を振るった。
そんな型も流儀もないものでは勝てるはずもなくて……。

「食え。坊主。」

奥から現れた武骨な主人がドンとテーブルの上に料理を置いた。

『食え。坊主。いくら頭が良くても体力がねぇんじゃつとまらねぇぞ。』

昔、誰かが言った。

『剣の勝負で負けた?しかたねぇだろ。相手はお前より年長だったんだ。加えてお前は最近剣術始めたばかりだろう。今日は負けたが今度はわからねぇぞ。俺も少しは剣が使える。練習の相手くらいしてやるよ。』

俺は強くなった。
一人で強くなったわけじゃない。
その人が俺に剣を教えてくれたんだ。
その人は……。

「せ…先生?」
「バカヤロー。先生じゃねぇ。俺はただの料理人だって昔から言ってるじゃねぇか!」

俺はどうして、この人を忘れていたんだろう。
俺を強くしてくれたのはこの人だ。
王太子の側近として今は仕えているが、それは剣術も含めた能力を買われたからだ。
頭脳は負けないと自負してきたが、剣術はと言えば昔は負けっぱなしだった。
あの頃のままだったら、今の俺はない。
そう、この人がいなければ今、俺はここにはいなかった。
それなのに俺はこの人を…。

「しかたねーだろ。これが魔女との契約だ。今、お前の記憶に俺がいるのもおそらく魔女の慈悲だ。島を出てしまえば、また俺の事なんざ忘れちまうんだろうな。」
「あんた。」
「お前も、そんな顔すんな。全部承知の上だ。」

魔女とはどんな人なんだろう。

「あの女性……もしかすると。」
「多分、お前の予想通りじゃねぇか?」
「フワ家の王子が連れていた女性……?」
「おそらくな。正直、俺もあまり覚えちゃいねえ。こんな女だった気がするってとこだ。魔女の怒りをかったんだろうぜ。愛人同伴の旅なんざ前代未聞だったからな。歳をとらねぇのも魔女の力だってんなら納得がいく。」
「先生。この島はなんなんですか?」
「先生じゃねぇって言ってんだろうが。……”魔女の島”。それ以上の事は誰も知らねぇよ。」

彼女がそうなら、フワの王子は?
彼もまた、どこかで生きているのかもしれない。








久々の『強く儚い者達』です。
次はキョコさんも蓮さんも出てきます。


よろしければまたいらして下さいね。



月華


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(」゜□゜)」
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