恋心 2nd Stage ~Tonight~ 最終話

夜の闇を賑やかな明かりが照らす園内。
巨大な人口池の周りは人でごった返していた。
もうすぐ始まる水上のショー。
彼女が楽しみにしていた火の精霊と水の精霊の恋の物語だ。

『ようこそ 夢の国へ』

スピーカーからテーマパークを代表するキャラクターの声がしてショーの始まりを告げた。

各キャラクターを乗せたメルヘンチックな船が何隻も集結してくる。
それぞれが、それぞれのテーマを掲げ、観客メにッセージを送っている。
夢の国らしい構成だ。
その後に始まったのが火と水の精の恋の物語。
激しく燃え上がる火の龍が雄々しく姿を現し、水のドレスを纏う精霊が優美な姿を見せる。
それをキラキラと目を輝かせ、うっとりと見つめる彼女。
きっと彼女の脳内では、もっとファンタジックな姿で再現されているのだろう。

キョーコ……俺を忘れてる?

それが悔しくて、彼女の耳元で囁く。

「キョーコ。楽しい?」

俺と二人でいる時よりも楽しい?

「っ!?」
「キョーコ…。」

彼女の反応が可愛くて、火がついた俺。
君にも燃え移ればいい。
あの火の精みたいに俺を思って、全身を焼き焦がせばいい。

「せっ先生っ!?」

君は悪い子だなぁ。
そんなに俺に触れて欲しいの?

もうお風呂も、その後の事も確実だけど、それでもまだ俺を煽って来るなんて。

「先生…見られちゃう。」
「何を?まだ俺は何もしてないよ?」

そう、君の耳元で囁いているだけ。

「先生の意地悪。」

もう俺にも彼女にも余裕なんてカケラもない。
ショー自体はそんなに長いものでは無いのか、盛り上がり具合で終盤まで差し掛かっている事を感じ取る。
だが火と水の恋なんてどうでもいい。
俺はもう彼女しか見ていない。
彼女は?

「ホテルに行こうか。」
「先生の……バカ。」

それが君の答えなんだね。

俺は彼女を抱き上げて、園内からも入れるホテルへと向かった。

ドーンという音のすぐ後にひゅるひゅると花火の打ち上がる音。
美しい音楽に流れてきてそれに合わせて空に舞い散るいくつもの光。
閉園を告げる花火だ。
同じようにホテルにチェックインする客の中でも彼女を抱えた俺の姿は殊の外目立つのだろう。

「宝田様お帰りなさいませ。いかがいたしましたか?」

支配人が声をかけてきた。
実をいうと父であるあの人が、このテーマパークの大株主だった。
本名の宝田でツインを予約したのだが、昼間荷物を置きにチェックインの時に案内されたのはスィートルーム。
一介の教師である俺の給料では正直きつい支払いになる。
間違いでは無いのかと聞いたところ、ツインルームの料金のままで構わないという事だった。
今日のデートは父も知っていたから、手を回してくれたのかもしれない。
父に感謝かな。

「彼女が体調を崩してしまったようで。少し休めば良くなるかと。」
「すぐに鍵をお持ち致します。」

支配人がフロントにキーを取りに行ってくれた。

「ご入り用の物がございましたらお部屋までお持ち致しますが?」
「大丈夫です。後でルームサービスで飲み物をお願いすると思います。」
「承知致しました。」

エレベーターに乗り込んで、今夜、彼女と過ごす部屋を目指す。

待ち切れない。

待ち切れなくて閉ざされた狭い空間の中、彼女の唇を奪う。
甘い吐息も飲み込んで、彼女のすべてを奪い尽くすように貪る。

俺のだ。
俺だけのもの。
潤んだ瞳も、甘く囁く唇も、柔らかな肢体も全て俺だけの……。

到着を告げるエレベーターの電子音で彼女を解放する。

彼女に恋をして、恋い焦がれ、見つめ続けてやっと手に入れた愛しい人。
もう何度も肌を重ねた。

「君はさっきの火と水の精みたいな恋がしたいの?」
「先生?」
「俺は嫌だな。君に触れられない、見つめ合うだけの恋なんて俺は堪えられないよ。……そんなの無理だ。」
「……私も……イヤ。先生と一緒にいたい。ずっと手を繋いでいたい。抱きしめてほしいです。」
「それだけ?」
「………先生のバカ。」

キョーコを抱えたまま、バスルームへと向かう。

「先生……蓮、大好きですよ。」
「俺も。」
「俺も…何ですか?」
「聞きたい?」
「言って下さい。……言って。」

艶を含んだ唇で紡ぐ言葉は呪縛。
俺を誘う潤んだ瞳は甘いワナ。
解放されたいとは思わない。
このまま捕われていたい。

「キョーコ。好きだ。愛してる。」

この夜を君と過ごす以外に何ができるというんだろう。
見つめて見つめ返して、二人で互いの瞳を奪い合う。
抱きしめて抱きしめられて、存在そのものさえ奪い合う。
衣服も温もり唇も二人で奪い合う。
激しく強く繋ぎあう。

降り注ぐシャワーは俺達を引き離すどころか、二人を包み込み、互いの肌を密着させようとする。
互いを隔てるものは何もない。
これが水の精霊達の愛し方なのかもしれない。

火の精霊も水の精霊もきっとこうして触れ合いたいと願っているに違いない。

たとえ互いの存在を打ち消し合う事になったとしても触れ合わずにはいられない。
命の炎さえ消えてしまおうとも、燃え上がる炎に晒してその身を削り取らるようとも構わないのだ。
互いな存在すら超えて共にある事を望むなら悪くはない。
手を取り合えないのなら、身体も意識も魂も溶け込んでしまえばいい。
むしろその方がいい。

今夜は彼らのように激しい恋をしよう。

溶け合うくらいに愛し合おう。

俺達を隔てるものなんかいらない。

モラルも世間体も、もう関係ない。

俺達ふたりだけの世界をふたりで見ていこう。



◇◆◇◆◇



燃えるような熱い夜を過ごした次の朝。
恥ずかしそうにしながらも”おはようのキス”をくれた彼女。
最高に幸せな気分だった。
―――そう。
このホテルのレストランで彼らの姿を見るまでは。

朝食を食べにレストランに行ったところ、スタッフに案内された先は、広い別室―――VIPルームだった。
そこには俺達も唖然とする光景が待っていた。

「モーーーっ!なんなのよっ!このどこもかしこもメルヘンチックな作りは!!」
「……そうね。もう少し落ち着いてる方が……。」
「本当はこういうの好きなくせに。素直じゃないんだから。」
「私は大好きですぅ。あんなお部屋泊まれたなんて幸せですぅ。アメニティーがすごくかわいくってぇ。」
「……このコーヒー、いい豆だわ。でもうちの店の味にはまだ……。」
「うっし。その顔でパンケーキって……どうもなぁ。」
「ああ?出資者に文句たれるなんざ。いい度胸じゃねぇか。」
「私達まで良かったのかしら?あんなお部屋に泊めて貰って。」
「いいんじゃないかな?おかげで各部屋をただで取材できたし。中でもイル・マーニフィコ・スイートは凄かったね。さすが一泊50万の部屋だよ。」



イル・マーニフィコ・スイート………それは夕べ俺とキョーコが泊まった部屋だった。



「アンタ達ここで何してるんですかっ!!」
「おはようさん。何って、見ての通り朝メシを食ってるんだが。」
「よぉ。ここのパンケーキ、なかなかいけるぞ。」
「そうだわ。今日はホテル内で模擬結婚式をするらしいわよ。」
「それは是非取材したいね。いつか使うだろうし。」



「みんな、どうしてここにいるのっ!?」
「あら、キョーコ。おはよう。」
「こんなところで会うなんて偶然ねぇ。」
「昨日は尾行で、それどころじゃなかったから、今日こそ遊ばないと!」
「私もですぅ。ビデオ撮るのに忙しくてぇ。でも、あの展開はびっくりでしたよね~。」
「昨日は、砂糖も入ってないのにコーヒーが甘くて死ぬかと思いましたよ。」



「~~~っ!?」
「いやあぁーーーーっ!!」



スイートルームに宿泊した俺達を前にホテルのスタッフは静かに朝食を並べていく。
ホテルの部屋が変更されていたのは彼らの仕業。
響き渡るキョーコの叫びさえ、彼らの計算のうちだった。



「もーけさせて貰った礼だ。これでチャラな?」
「………。」

「今日はデバガメはしないから好きにいちゃつきなさいよ。見るのも疲れたわ。」
「~~~っ!!」



黒崎さんがニヤリと笑い、琴南さんがうんざりした様子でコーヒーを啜っていた。



悪魔だ。
こいつらは悪魔なのだ。
俺には見える。
捩り曲がった角やら、尖んがったしっぽやらが見える。



悪魔達の巣窟と化した室内に居座れるはずもなく、俺とキョーコは朝食もそこそこにその場から逃げ出したのだった。



◇◆◇◆◇



「そんな事があったの?キョーコママ、大変だったのね。」

それはもう、昨日の事のように覚えているよ。
いろんな意味で忘れる事の出来ない思い出だから。

「そうなのよ。みんなで私達を見ていたらしいの。恥ずかしかったわ。それに緒方先生が、それを小説にしちゃったのよぉ……。」
「挿絵の変わりに俺達のデートシーンが写真で使われてね……。」

手だけとか、シルエットとか、人物が特定出来ないようにはなってはいたが、間違いなくあれは俺達だった。

「それって緒方先生の”恋心”シリーズ!?嘘っ!?私、それ持ってる!!じゃあ、もしかして嘉月と未緒ってパパとママの事なの?あれに出てくる白雪ちゃんって私なの??ええっ!?嘘っ!!」
「あれ…持ってたの?そうなるね。ごめんね?」

懐かしく、そして恥ずかしさが先立つ産物。
さすがは緒方先生というしかないが、俺達を題材にした小説は売れに売れ映画化までした。
映画を見せられた時は本気で恥ずかしさで死ねると思った。
原作者と脚本は緒方先生、監督は新鋭写真家から転身した新開さん、音響監督は売れっ子バイオリニストの黒崎さんが務めた映画はいろんな意味で話題となり、今では名作の一本とされている。
あの映画の存在は忘れさってしまいたいのに、そうは出来ない現実がここにはあるのだ。

「でも、ステキ。蓮パパとキョーコママはステキな恋をしていたのね。それにたくさんの人が応援してくれたんだ。私もこんなドラマみたいな恋をしたいなぁ。」

大きくなったゆきひめちゃん。
彼女には俺達の恋の物語は憧れの対象であるらしい。
せつなくて、じれったくて、なかなか進展しない恋だったのだけど。
ギャラリーもかなり騒がしくて、落ち着いてなんかいられないほどだったんだけど。

だけど、それが俺達の恋だった。

「さて、もう遅い時間だよ。もう寝なさい。」

もっと話しを聞きたがるゆきひめちゃん達にそう言い聞かせたが、本当のところは単なる照れ隠しにすぎない。

「おやすみ。」

俺はキョーコを連れて、今夜二人で過ごす部屋へと引き上げた。
正直な気持ちを言えば、キョーコと二人だけで、恋人同士だった時と同じ様に過ごしたかった。
俺の恋の相手は、結婚して、子供ができた今でも彼女のままだから。

これから先もそれは変わらない。
彼女への恋心は変わったりはしない。
夜の園内をバルコニーから見下ろしながら思う。
恋と愛の違いなんてわからないけど、彼女が好きだという思いだけは変わらない。
この夜も彼女への恋心を抱いたまま過ごすのだ。
何年経っても変わずに互いを思い合うあの精霊達のように………。



恋心 2nd Stage ―了―




『恋心』最終輪です。
やっと一つ終らせました。
中途半端はいけませんよね~。
なのにいつも中途半端で止めとくあたり……反省中です。

新しいのを書きたいけど、まずは今やってるのを終らせないとね。

ここまで引き伸ばして、このラスト。
すいません。
月華の限界です。
ゆるして。

ではまた。


月華




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お世話になります。
(」゜□゜)」
あっぽちっと頼みます。
スイッチオン

こんなときでもお笑い脳。




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