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*Christmas×Christmas*

お待たせしましたぁ!!
期間限定フリーSS頂いてきました。
期間限定………貴重な頂き物。
読みごたえはたっぷり。
息つく暇もありません。
いや、呼吸はしましょう。

またまたSWEET!の美花様から頂戴いたしました、超お素敵SSでぇす。

すんごい大作!
ものすんごい大作!!

覚悟なされませ。
そして幸せな気分になって下さい〜。

ではでは、どぞ。



*Christmas×Christmas*


…キョーコは、広いベッドの上で不意にぽかりと目が覚めた。

朝方の、まだまだ夜に近い時間の寝室は、静かな沈黙に包まれていた。
間接照明の淡い光に照らし出された広々としたその部屋は、夜の雰囲気を未だ色濃く残している。

目に映るのは高い天井、落ち着いた色調で整えられた高価そうな家具、部屋を柔らかく照らすベッドサイドのランプシェード。

そして、何より一番に飛び込んでくるのは隣で眠る愛しい恋人だ。

キョーコは瞳をそっと細めて、静かな寝息をたてるその人を見つめる。
綺麗に筋肉の乗ったしなやかな腕が、毛布ごと、キョーコを守るように抱きかかえていて。

そんな彼のその裸の肩が、羽毛布団から露になっているのに気が付き、慌てたキョーコは布団をそっと引き上げた。

忙しいこの人に、万が一でも風邪をひかせたりしては大変だ。

彼には年明けからの3ヶ月間、新しい映画の仕事が入っているのだ。
未だに自分の体調よりも仕事を最優先にする彼には、万全な体勢で新しい仕事に望んで貰いたい。

暖房でほどよく暖められた室内は寒さを感じることはない。
けれど、万全を期すには念には念を入れても、やりすぎるということはないはずだ。

布団を肩まで上げて、キョーコはそのまま、シーツに流れる彼の艶々の黒髪を指先でそっと梳く。

柔らかで指通りのいいその髪には中毒性が潜んでいると、キョーコは常々思っている。
一度触れると、一度だけでは足りなくて、二度三度とそれを重ねてしまうのだ。

そんな髪を梳く行為を何度繰り返しても、深い眠りに就いた彼は一向に目覚める気配がない。

人の気配に敏い彼が、キョーコの気配に気付いて起きないのはとても珍しい。

それだけ、彼は疲れているのだ。

「もう…本当に無茶するんだから…敦賀さんたら」

彼の、やや疲れの滲んだ白皙の美貌を指先で辿って、キョーコは少し呆れ気味に吐息を漏らす。

今はクリスマス・イブの夜を超えた真冬の朝方。
キョーコの、20回目の誕生日の朝だ。

キョーコの隣で眠るのは、超人気俳優の敦賀蓮。

類まれな美貌と確かな演技力が売りの彼は、今や、日本を代表する俳優で海外の映画祭でも常連となっている。

そして…

キョーコの、大事で大切な、唯一の人。

紆余曲折を経て、この夏から真剣なお付き合いをしている恋人なのだ。

昨夜、社長の自宅でのマリアの誕生日兼グレイトフルパーティへの出席を終えた後、蓮と共に彼の自室に戻り、ささやかな…と言うには、随分と豪華過ぎる演出が施された誕生パーティーを2人でしたのだ。

そしてそのまま寝室に連れ込まれて…
今に、至っている。

…今夜のベッドでの蓮は、普段以上に情熱的で…

本当に無茶をしてくれると、キョーコは赤くなる頬を掌で押さえ、ベッドで1人恥ずかしい思いを噛みころす。

今日、25日は蓮もキョーコもお休みを貰っていた。

今年の春漸く高校を卒業し仕事に専念し始めたキョーコも、このお休みを取るために、それなりにスケジュール調整が大変だったけれど、それは、蓮の比ではなかった。

マネージャーの社が分単位でスケジュールを組み立て、蓮が1度のミスも犯さずそれをこなす。

彼はこの日の休みを捻出する為に、半年ほど前から仕事を詰め始め、ここ2ヶ月ほどは寝る間も惜しんで殺人的なスケジュールをこなしていたのだ。

無茶を通す蓮に付き合い社も早朝から深夜まで働き通しで、申し訳ない気持ちでいっぱいになったキョーコは、何度となく無理をしないで欲しいと訴えたのだが、

「2人の幸せのためにはお兄さん頑張っちゃうよ」

と、気のいい社は優しく笑ってくれるだけだった。

そして本人も、

「キョーコと付き合い出して初めての誕生日なんだ、気合いを入れなくちゃね」

端正な顔を弛めて、そんなことを言う。

『敦賀蓮』は、常に1年以上先まで仕事が入っている超多忙な人気俳優だ。

本当だったら3ヶ月に1度、半日の休みを捻出するのにも敏腕の社が頭を悩せているほどなのだ。
それを丸1日なんて…社が苦笑気味に「もっと早くから申請してくれ」と訴える気持ちが、よく分かる。

けれど、彼のスケジュールの大枠が組まれる1年以上前のあの頃は、蓮がキョーコの誕生日に合わせて休みを取るなんて、誰も想像すらしていなかったのだ。

もしかして今蓮が起きていたら、「俺はずっとそうしたい気持ちでいっぱいだったけど?」と涼しい顔で言いそうだけれど。

そんなことを想像したキョーコは、照れ臭さに頬を染める。
蓮は、もうかれこれ4年近く前からキョーコを好きだったなんてことを、いつも真顔で言うのだ。

あの蓮が、である。

初めてそんなことを彼から告白されたのは、今から1年前の25日、やはりグレイトフルパーティーの後、キョーコが19歳の誕生日を迎えた数秒後のことだった。


キョーコは去年のクリスマスを…
自分の誕生日の騒動を、ベッドに頬杖をつきながら思い出していた。





あの日、19歳の誕生日おめでとうと、誰よりも先に誕生日のお祝いの言葉をくれた蓮は、

「実は、君にお願いがあるんだけど」

キョーコの顔を覗き込んで、黒い瞳を悪戯っぽく輝かせながらそんなことを言い出したのだ。

その日の彼は、会場で顔を合わせた時からいつも以上にキラキラと輝いていた。
自身が専属モデルをしているアルマンディの新作のスーツを身に纏った彼は神々しいばかりで、会場中の女優やアイドル達の目線を1人で集め、注目の的だったのだ。

そんな蓮の前に立ちながら、キョーコはぎりぎりの時間で正装に着替えていてよかったわと、溜息混じりに考えていた。

マリアに感謝しなくてはいけない。

『お姉様!誕生日を迎えるパーティの席で、コックコートのままなんていけないわ!控え室にお姉様用のドレスを用意しているの。着替えに行きましょう!』

そんな風にマリアに言われ、淡いピンクのドレスに着替えていたのだ。

ワンショルダーのそのドレスは肩から胸元にかけて大小の花が何個も散りばめられ、形も歩く度に裾がひらひらと揺れる綺麗なマーメイドラインで、華やかで可愛らしい中にも大人の雰囲気を醸し出した上品なものだった。

サイズもまるでキョーコに合わせてあつらえたみたいにぴったりで、身体のラインを綺麗に見せてくれていて。

髪やメイクも専属のメイクさんに綺麗に仕上げて貰えて、普段の自分よりもずっと大人っぽいキョーコが、鏡の中からこちらを見返していた。

蓮の前では大変な艶消しだろうけど、今のキョーコの精一杯だ。
それでもコックコートよりはまだよかったと思う。

考えてみれば去年も一昨年もコックコートのままだったけれど、今年はどうにも、その姿で蓮の前に立つことが妙に居たたまれなく感じていたのだ。

眩い美貌に内心でどぎまぎしながらも、キョーコは蓮の不意の話に小首を傾げる。

「お願い、ですか?勿論、私に出来ることでしたら」
「うん。君にしか出来ないことなんだ」
「私にしか、ですか?」

そんなキョーコの不思議そうな顔に、蓮は唇をふわりと綻ばせると…

「最上さん、ずっと前から君のことが好きだったんだ。俺と、結婚を前提としたお付き合いをして下さい」

大輪の薔薇の花束をキョーコに差し出し、衆人環視の中、そんな衝撃的な告白をキョーコにしたのだ。

その場に居合わせた周囲の人々はそんな突然の告白に目も口も大きく開けてぽかんとしていたが、一番間抜けな顔をして呆然としたのは他でもない、キョーコ本人だった。

フォーマルな装いで薔薇の花束を抱えた蓮は、まるでドラマか映画の中から抜け出して来たような美々しい姿で…

そんな彼に豪華な花束を手渡されうっかりそれを受け取ってしまったキョーコは、呆然と甘い香りの漂う薔薇の花束を見て、それからもう一度、ギクシャクとした動きで蓮を見た。

穏やかな笑みを浮かべた彼は、キョーコを優しい瞳でじっと見つめている。

黒い瞳が艶々と輝き、形のいい眉が優美なカーブを描いている。
綺麗に引き締まった滑らかな頬、細い鼻梁に男らしくセクシーな唇。
端正なその美貌は、まるで彫刻のように見事で、華やかで。

『敦賀蓮』は年々、歳を追うごとに美しさに磨きが掛けられているような気がする。
それはもう今や神懸り的な美貌で、後輩として見慣れてきたはずのキョーコすら、魂が抜かれたようになってしまう程だった。

思わずふらふらと吸い寄せられてしまいそうになり…

土壇場で意識を取り戻したキョーコは慌ててふるふると首を振る。

ダッ、ダメよキョーコ、ちゃんと現実を見るのよ、現実を!!

敦賀さんが私を…なんて、世界がひっくり返っても有り得ないことだわ、これには何かあるのよ!
甘い話には絶対に裏があるんだから、気をつけて!
それが詐欺師の手口だって、知っているでしょ!?

幸か不幸か、過去の教訓からいろいろと学習しているキョーコには、蓮の言葉をまともに受け取ることが出来なかった。

だから。

「もう、敦賀さんたら!人が悪いにもほどがあります。私をからかうにしたって、誕生日に一番乗りでなんて酷過ぎますよ。私だってもう子供じゃないんです、そんな新手の悪戯にも、簡単に引っ掛ったりなんてしないんですからね?」

盛大に顔を顰め、頬を膨らませて見せた。

なんてあくどいことをする人なんだろう、この人は。
知り合って3年近くがたって、最近ではこっちが驚くくらいに優しくしてくれることだってあるようになったのに。
こういうことって、親しくなったからこそされる敦賀さん流の悪巧みなのかしら。
きっとこの後、「残念、ひっかかってくれなかったか」とか、意地悪な顔をして続けるつもりなんだわ。

そんな風に、考えていたのに。

「…まあ、そんな反応も予想の範囲内、かな。にべもなく嫌だと言われなかっただけ、今回はよしとしよう。こういう場で言えたことは、いい害虫駆除にもなったしね」

やれやれと言うように溜息を吐いた蓮は、ゆっくりと周囲を眺めて満足そうに1つ頷き、

「最上さん、俺は本気だから。君を逃がすつもりも、他の誰かに渡すつもりも一切ない。覚悟して?」

そしてそう言ったかと思うと、やけに楽しげに唇の端を引き上げて。

何気ない仕草で身を屈めて、何かしらと不思議に思うキョーコの顔を間近の距離で覗き込むと…

ちゅっと音を立てて、唇ギリギリのところへとくちづけを落としたのだ。

「…!?…!!…ッ!!?」

柔らかな唇の触れたところを反射的に押さえて絶句するキョーコの背後で、会場を揺るがす女性の悲鳴が上がり、男性の低いざわめきが起き、そして、青白いフラッシュの明かりが盛大に瞬いた。

「え…や、やだっ!嘘…ッ!?」

いつから撮っていたのだろうか、気がついたときにはカメラが集中的に向けられていた。

混乱と衝撃で、キョーコはわけが分からなかった。

はちりと目の合った正面の若い記者も、この出来事に狐に摘まれたような顔をしている。

スキャンダルという言葉が頭に浮かんで、瞬間に蓮の立場を思い、キョーコは完全に顔色を失くす。

グレイトフルパーティーは大手プロダクションLME社長宝田の孫であるマリアとキョーコ主催の個人的なパーティなのだが、年末のこの時期、芸能人がこれだけ集まる行事をマスコミが放って置くはずがない。

そんな彼らにも感謝をと言うことで、社長の配慮からTV局や雑誌社のカメラやリポーター、記者達が何社か会場への立ち入りを許されていたのだ。

呆然と目線を交わすキョーコと名前も知らない記者との間に、間髪いれず、艶やかな声が飛んで来る。

「こら、お嬢さん。告白したての男を放って他の男と見つめ合うなんて、早速俺に、やきもちを焼かせようとしてるのかな?」

それと共に大きな掌がキョーコを引き寄せ、抱え込んだ。

途端に周囲からざわめきが上がる。
いつの間にか蓮とキョーコを中心に輪が出来てしまっていたのだ。

あわあわと見上げるとそこには似非紳士の笑顔を浮かべた蓮がいて、キョーコは声にならない悲鳴を喉の奥で上げた。

口調はからかう調子だったけれど、目が全く笑っていなかった。
キョーコのアンテナがブラックな感情を受信してざわざわと騒ぎ出す。

「つつつつ、敦賀さん…ッ!!!何で、どうして、嫌がらせにしても度が」
「だから嫌がらせじゃないって。君はどうしてそう俺に関しては疑い深いのかな?他の人間の言葉はすぐ信じるのに」
「ひっ人聞きの悪いこと言わないで下さい!どうして私が大先輩の敦賀さんを疑うんですか!?それはまあ時々変な意地悪をされるから警戒はしてますけど…ってそんなことじゃなくて!!は、離れて下さい、しゃ、写真に撮られちゃってます!!!」

「まあまあ、このパーティは感謝が目的なんだろう?それなら日頃お世話になっている彼らにもスクープ写真を提供してあげなくちゃ、ね?」
「きっ、気は確かですか、敦賀さん…っ!!」

そんな会話の間にもその周囲から遠慮気味にフラッシュがたかれる。

敦賀蓮の突然の暴挙にキョーコは勿論、周辺も騒然となったのだった。
騒ぎを聞きつけてやって来た社長の出現で、その場はなんとか収まるかのように見えたのだが…

そんな彼らが思わず撮った現場写真をその場で確認した社長が大いにそれを気に入り、握りつぶすどころかむしろ前のめりに写真の流出を後押ししたのだ。

「いやあ、めでたい話じゃないか!!君達この話はどんどん話題に乗せてくれ、うちもちゃんと会見を開くから!」
「しゃっ社長!!何を仰るんです、デマです、誤解です、敦賀さんをちゃんと病院に連れて行ったほうがいいと思います!!きっと頭をどこかでぶつけて来たんだわ、一大事です!」
「随分な物言いだね、最上さん…へえ、一瞬だったけど綺麗に撮れてるんですね。さすがプロの仕事だ」
「おう、蓮に最上君!どうだお前達、記念に一枚貰っておくか!」

そう言って、社長から一眼レフのデジカメの画像を見せられたキョーコは、そのまま倒れるかと思った。
そうならなかったのは、蓮の腕がキョーコの腰にしっかりと回されていたからで…もう、何をどうやって突っ込んでいいやら分からない。

撮られた写真では薔薇を抱え蓮を驚いた顔で見上げるキョーコと、酷く優しい表情の蓮が、完全にキスをしていた。

頬に添えられた蓮の掌が上手い具合に触れている部分を隠していて、そう見えてしまうのだ。

…後から奏江に教えて貰ったところ、角度によっては本当にくちづけを交わしているように他の人にも見えたのだとか…

捏造だと、キョーコは愕然となって。
次いであることを思いつき、慌てて隣の蓮を振り仰ぐ。

「…敦賀さん…もしや、まさか…これも計算づくで…!?」

キスシーンを撮り慣れている彼ならば、どの角度で入ればどのようにカメラに写るかなんて知り尽くしているはずだ。カメラの位置を把握して動けば難しいことじゃない、この会場にいるカメラの数はそう多いものではないのだから…

後から付いて来た事実が想像を後押しし、キョーコの中で疑惑が確信に変わる。

すると彼は、目線の先で見惚れるくらいの綺麗な笑みを、その整った顔へ鮮やかに浮かべて見せて。

「覚悟してって、言っただろう?」

耳元でそう囁いた蓮はそのままキョーコの身体を引き寄せて、そのこめかみに愛しげに唇を押し当てた。

キョーコの盛大な悲鳴がパーティー会場に響き渡ったのは、その数秒後のことだった。


結局TV局と雑誌社の協定の末、犯行現場のその写真は年を越した年始に一斉に公表されることとなって。

所属事務所一押しのネタと言うよく分からない注釈をつけられた、蓮にとってもキョーコにとっても初のスキャンダルが世を賑わせてしまったのだ。

あのキスシーンと、更には蓮にこめかみに唇を寄せられて目をまん丸としているところ、そしてその後の耳まで赤くして蓮に詰め寄るキョーコの写真や画像が取り上げられて、どちらかというとスキャンダルと言うよりは、微笑ましい風の交際発覚として世間には受け止められた。

「違うんです、全くそんなんじゃないんです…っ!!」と言う、キョーコの叫びは騒ぎの渦中ではあまりにも小さ過ぎて、身近の数名にしか聞いて貰えなかった。

「とうとう力業で来られたわね…あんな危険人物の前でうかうかしてたあんたもどうかと思うけど…でも、あんたが大事なのは見てて分かるから、今後も強引にことを運ぶことはまずないだろうし…後はあんたの気持ち1つってことね。まあ頑張って、逃げ切るのは難しいと思うけど」

「ごめんよ、キョーコちゃん…なんて言うか、あいつ最近振っ切れたことがあったらしくて…これを機に、蓮のこと前向きに検討して頂けると嬉しいなと。見た通りの美男だし、誠実で一途で、あれで案外可愛いところもある奴だから、損はないと思うよ?それにほら、高給取りだし」

奏江には気の毒そうに見られ、社には謝られつつも何かを売り込む営業マンみたいなことを言われてしまった。

そして、2人とも同じことを言うのだ。

「もう完全に、外堀は埋められちゃってるわけだし」

その時点で既に、蓮はだるまやに顔を出し大将とおかみさんに挨拶を済ませていたのだ。

一方的な告白を衆人環視の中でしたことを2人に謝り、実際にはキスなんてしていないと言うキョーコの言葉を後押しして、

「彼女の許可なく勝手な真似をするつもりは一切ありません。ただ、大事に想う彼女を守る手助けを、俺にもさせて頂きたいんです。浮ついた気持ちで言っているのではないことを、分かって頂ければ嬉しいです」

そう言って頭を下げた。

そして、はらはらと見守るおかみさんとキョーコを外させた大将が、蓮と一対一で話をすること1時間あまり。

呼ばれて2人が立て篭った座敷に恐る恐る顔を出したキョーコが見たものは、意気投合した2人が握手を交わしているところだった。

「神社で白無垢は、絶対に外せないと思うんです。凄く、似合うと思います」
「いや、確かにそれはいいが…うーん、ドレス姿も捨て難い」

力説する蓮の前で腕組みをする大将が頭を捻るところまで見てしまい、何のことなのか、怖くてキョーコは聞き出せなかった。

更に蓮は、素早い対応で単独での記者会見も開いていて。

「京子さんにとって俺はただの先輩俳優のうちの1人です、今はまだ。俺の完全な片想いなので、皆様には上手く行くよう静かに応援して頂けると嬉しいです。彼女もこの春高校を卒業するのに向けて、仕事に本腰を入れる準備を始めた大事な時期ですから。宜しくお願い致します」

爽やかな笑顔でそう言った彼は『敦賀蓮、正々堂々の片想い宣言』『日本一のイイ男の恋の行方は?』などの文字が躍ったスポーツ誌の一面を飾り、その真っ直ぐで飾らない姿が強い反響を呼んで、天井知らずの好感度を更に上げたのだ。

キョーコに至っては『あの敦賀蓮の想い人』と言う札が付き、芸能リポーターに追いかけられたがその手の対応に慣れた事務所の見事な采配に助けられ、困るようなことは一度もなかった。

かなりの反発を受けるかと思っていた蓮のファンの女優陣からも「好きな子いたからあんなに鉄壁なガードされてたのね。なあんだ、あたしが悪かったんじゃなかったんだ、よかった!」みたいな意外に柔らかい反応が返って来て、一般のファンからも「本当は付き合っていてもそういうことにしなくちゃならないなんて、芸能人て大変ですね」と言う、同情気味のファンレターが来たりした。

事務所の先輩後輩である『敦賀蓮』と『京子』が何かと仲が良いことは、元々芸能界や情報通の間でも知られていることだった。

そしてキョーコの浮ついたところのない性格や、演技派新進女優という立場がしっかりと確立していたことも妙な反感を抱かれない理由だったらしく、しかも、報道自体も蓮主体と言うことで、売名行為と疑われることもなかった。

彼の年齢的にも、彼女の1人もいてもおかしくないと思われる時期に来ていたのだ。
『熱愛報道』に過剰反応するファンはほとんどいなかったと言う。

もしかすると、蓮はこうなることまで全て計算ずくで騒動を起こしたんじゃないのかと疑いたくなるほど、スムーズに物事は収束して…

そのうち正式な交際会見が開かれるだろうと目される2人、と言うのが、蓮とキョーコの世間からの立ち位置となった。

仕事面では問題はなかったのだが、キョーコにとっての一番の問題はそこではない。

他人の反応がいくらよくても意味がない。
本人達の意思の疎通が全くなされていないこと、それが最大の問題だ。

「敦賀さん…っ!もう、一体何を考えてるんですか!?あ、あんな会見までして、皆が本気にしちゃってますっ!訂正するなら今ですよ、社長に相談して一緒に訂正の会見をしましょう、今ならまだ間に合います!」

ここは、蓮の自宅の広々としたリビング。

こんな騒ぎになってしまった上は、蓮とは出来るだけ接触を避けようとキョーコは思い決めていたのだけれど…

事務所で顔を合わせた彼の、あまりにもの食生活を見聞きしてしまい、強制的に食事を摂って貰おうと帰宅する彼について来てしまったのだ。

自分でもつくづくお人よしだと思う。
でも、放って置いてはろくな食事をしないことが嫌というほど分かっているから、キョーコはついつい蓮におせっかいを焼いてしまうのだ。

勢い込むキョーコの前に淹れたてのコーヒーのカップを置いた蓮は、腰を下ろしたソファーの上で口の端を上げる。

「一緒に会見をするのなら違う会見がいいな。結婚発表の会見、とか」
「…っ、ま、また、そうやって…っ!!こんなことしてると、敦賀さんの本当に大事な人に誤解されちゃいますよ!」
「本当に大事な人って?」
「こ、恋人、とかっ」
「本当に大事で恋人になって貰いたいと思うのは、目の前の女の子だけだから全く問題はないよ。君、俺の周りに自分以外の女の子がいるの、見たことある?勿論、仕事以外でね」

蓮の言葉に思わずぐっと詰まる。

「この部屋に、他の誰かが入った形跡はある?」
「…う…その…、」
「どうかな」
「…ない…、です」
「ほらね?俺の言葉、信じて貰えるかな」

言われて、なんとも反論のしようがなくてキョーコはそのまま押し黙ってしまう。

そうなのだ。

今日みたいに自宅にお邪魔した時、キッチンを綺麗に掃除し皿やシンク周りのものを棚に仕舞うと、次の機会に来て見れば記憶通りの場所と位置に仕舞ったものがそのまま置かれているのだ。

誰かが…

蓮の彼女が、キッチンを触った気配が全くない。

蓮の部屋の広々としたダイニングキッチンは、今やキョーコの動きやすい動線でものが置かれるようになってしまっていた。

あまり気にしていなかったけれど、親しい間柄の彼女がいたら、蓮も彼女もキョーコにそれを許すはずがなかった。

本当に蓮には彼女がいないのだろうか?
あの『敦賀蓮』なのに。

そんなはずない、と思う。


もう随分前になるけれど、キョーコは蓮本人から「好きな人がいる」という話を聞かされていたのだ。

蓮自身は話した相手がキョーコだとは今も気付いていないだろうけど、それを聞いたのは間違えのない事実だった。

蓮が誰かを好きになって、それが成就されないなんて思えない。
何か事情があったようだけど、もうあれから何年もたっているのだ、事情だって変わって来ているはず。
蓮に好きになられて、気持ちが動かない相手がいるなんて、信じられなかった。

一瞬、まさか敦賀さん、本気で言ってるの…?と、そんな思いが頭に浮かんだけれど、そんなことが信じられるほどキョーコは現実社会で夢見がちではなくて。

なんせ、相手はあの『敦賀蓮』なのだ。

「本当は、ちゃんと好きな人がいるんでしょう?敦賀さん…私なんか、からかっている場合じゃないです」
「うん、だから目の前に。ねえ、最上さん?」

蓮は、足元のラグに正座をしていたキョーコの手を引いて、そんなことにも慌てる自分をソファーの隣に座らせる。

「君は、もう少し自分の気持ちに素直になってもいいと思う。俺も、勝算がまるでない状況で、あんな告白の仕方をする気はないよ」

言われてキョーコは、ぎくりとなる。

「な…っ、それは、どういう意味ですか、敦賀さん…!もう、振り回すのにもほどがありますよっ」

…蓮の瞳は何もかも見透かすような色をしていて…

彼の瞳が怖くて見れず、怒った振りを装ってつんと視線を他所へと外す。
なのに蓮は、そっぽを向くキョーコの頬を包んで自分の方をゆっくりと向かせてみせて。

「逃げないで、俺を信じて欲しい。俺は、不破みたいに君を傷付けないよ。怖がらなくていい、だから…君には、自分の気持ちに正直になって貰いたい」

瞳を覗き込まれて、そう告げられて。

そんな言葉に足元が崩れ落ちるような感覚を覚えて、思わずキョーコはソファーの座面のふちを縋るように握り締めた。
手触りのいい皮が指に擦れて、ぎゅうという音を立てる。

知られている…

その事実が怖くて、これ以上、踏み込んだ話をされるのが堪らなく恐ろしくて。

「わっ、私、帰らせて頂きます…っ」

飛び上がるように立ち上がり、キョーコはこの場から逃げ出そうと身を翻したのだが…

それは叶わなかった。

「逃がさないよ、最上さん」

そう言った蓮に、握り込まれたままだった指先を軽く引かれてふらりと身体が傾いた。
そのまま長い腕がキョーコを巻き込んで…

何が起こったのか、瞬間、分からなかった。

突然近くなった鼻を擽る蓮の甘い香り、頬に触れる温かくてがっしりとした肩の感触、胸に直接響いて聞こえる低い声、そして、背中に回された心地のいい腕。

抱きしめられているのだと気付いて、頭に一気に血が昇った。

眩暈がした。
軽く息が上がって、鼓動が早まって。

きゅうっと胸の奥を鷲掴みにされる、総毛立つような感覚に捕らわれた。

「つ、敦賀さん!?敦賀さん!敦賀さん…ッ!!」
「気付いてるんだろう?自分の気持ちに。認めたくない気持ちはよく分かる。認めてしまうと後はもう感情に振り回されるばかりで、酷い目にあうからね…」

俺も大変だったし。
そう、零すように言った蓮は、腕の中のキョーコの瞳をじっと覗き込んで来る。

「君は、俺が好きだろう?不破のことがあって、君がそう言う感情を怖がってるのは分かってる。けど…あいつのせいで、君が先に進めなくなっているのが俺には許せない。その気持ちから逃げないで、ちゃんと、俺と向き合って欲しい」

願うように言われ、進退窮まったキョーコは唇を噛み、そのままくしゃりと顔を歪めてしまう。

分かっている。

気付いている。

自分の心が、誰に向かって動き始めているのか、本当は分かっていた。

キョーコは、自分が蓮に恋心を抱いていることを、嫌と言うほど自覚していた。
恋なんてしないと固く誓った胸の奥で、気付かないうちに気持ちが大きく育っていたのだ。

仕事先で少しでもその姿を見かけると胸が躍る。

言葉を交わすとそれが嬉しくて、心の中でその会話をなぞってしまう。

その指先が僅かでも自分に触れるだけで幸せで、叶わない想いだと分かっていても、甘い気持ちに捕らわれてしまう。

そんな自分が怖かった。

蓮が言ったように自分が自分じゃなくなるような感覚が嫌だったし、何より、また、同じ轍を踏むのが死ぬほど恐ろしかったのだ。

ショータローとのことは、数年たった今でも心の傷になっていた。
考える時間がたっぷりあったからこそ、大人になった今、あの時の状況が当時より客観的に見ることが出来ていた。

幼かった自分は恨みつらみをぶつけることで心の平穏を保っていたけど…
あれは、ショータローが悪かったのではない。

1人で立つことが出来ず、全てショータローを想うと言う行為で自己を確立させていた、キョーコの独り善がりが招いた結果なのだ。

あの頃ショータローはキョーコを「好き」なんて、一言も言わなかった。
なのに関係性に甘えて、暴走したキョーコは勝手にそう思い込んでいたのだ。

彼の取った行為は一概にキョーコだけが悪いとは認められないくらいの人でなしの行動だったけれど…
甘やかされて育った彼ならいかにも考えなしにしそうなものだったと、今なら思う。

あれは限りなく恋に近い感情だったけれど、恋ではなかった。
自分の存在理由を彼に求めた、代替行為だったのだと思う。

だけど、傷であることには変わりない。

掌を返されたように追い払われた苦しみは忘れようがなかった。

もう二度と自分のないまま人に存在の証を求めたりはしないし、蓮もそんな酷いことをする人ではないことをキョーコは十分に分かっている。

意地悪なこともするけれど、キョーコをしっかりと尊重して思い遣ってくれる人だとよく理解している。
強くて、優しくて、痛みをちゃんと知っている人だ。

でも、信じているからこそ、怖かった。

人の気持ちなんて変わるものだ。
蓮だって、今はもしかすると本気でも、何日後、何週間後、何ヶ月か後は分からない。

…蓮だって…

数年前に「好きな人がいる」と言った同じ唇で、キョーコを好きだと言っているではないか。

キョーコはその、人の心の移り変わりが怖い。
目で確かめることの出来ない、人の心そのものが怖かった。

誰かにいらないと拒否される心の痛みは、身に沁みて分かっているのだ。

だからこそ、心を動かしたくない。
今のままでいられたら、それでもう十分だ。

自分の気持ちを認めて、関係を変えてしまうなんて。

「…ダメ、です。そんなこと出来ない…私はそこまで、強く、ないです…」

蓮の腕の中で、ぽろりと本音が漏れた。

ああ、やっぱりこの胸は危険だ。
これでは蓮の言葉を肯定しているみたいだ。

隠しておきたいものまで、全て引きずり出されてしまう。

そんなキョーコを抱えながら、蓮はそっと吐息を零すような笑い方をした。
小さな振動が、触れた箇所から伝わってきて。

「強くなんて、ならなくていいよ。君は、今のままで十分強いし、頑張っているのを俺は知ってる。君は俺に、少しだけ寄り掛かれる勇気を持ってくれればいいんだ」
「…か、簡単に言わないで下さい、それが、一番、難しいです…」

本気で困ってそう言うと、今度は盛大に笑われてしまった。

「わっ、笑うなんて、酷い…」
「ごめん、君があんまり情けない顔をするから…そんなに難しいことじゃない、後のことは、俺に任せてくれれば大丈夫だから」

蓮はキョーコの髪を撫で、指先で頬を擽り、そして、瞳をふわりと細めて。

「もう何年も、君だけなんだ。こんなにも愛しく想える相手は、君以外どこにもいない。俺の気持ちは変わらないから、安心して俺に落ちておいで?君が正直になれるのを、俺は待つよ」
「…敦賀さん…」

声に、言葉に、キョーコは心が揺れてしまう。

…けれど、彼を受け入れるなんて、まだまだとても出来なくて…

すると。

「でもまあ、これからは待つだけじゃないけど」

そう言った蓮は不敵に唇を上げて見せて…
不意に、キョーコとの距離を縮めて来た。

突然のことにキョーコは面食らってしまう。

「ちょ、ちょっと、待って下さい、敦賀さん!!」
「ん、何?」
「かっ、顔が!凄くっ近いですっ!」
「それは勿論、キスするつもりで近付いてるから」
「…キッ…キス…!!?ッ、ダメです、嘘、やめて下さい!!い、嫌がってる女に無理にキスするなんて、紳士にあるまじき行為ですっ」
「それは、本気で嫌って思ってる相手に対して、だよ。最上さん、君は、嫌がっていないだろう?」
「…ッ、何ですかそれ!?と言うか、大将に私の許可なく勝手な真似をするつもりはないって、約束したじゃないですか!?」
「そうだったね。じゃあ最上さん、キスさせて?」
「…っ…!!」

間近の距離で艶めいた眼差しを向けてくる蓮にそう言われて、二の句が繋げなかった。

滴るような、濃密な色気を放った蓮は、ただまっすぐにキョーコだけを見つめてきている。

その怖いくらいの色っぽさに、キョーコは意識を捕らわれてしまいそうだった。

…きっと本物の悪魔って、敦賀さんみたいに綺麗な顔をしてるんだわ…

その時、キョーコは混乱する意識の中でそんなことを考えていた。

悪魔はきっと、その美貌で子羊を誑かし、甘く囁いて絡め取ってしまうのだろう。
気が付いた時には身動き出来ない状況に追い込まれ、もう、どうにもならなくなってしまう。

今の蓮が、そしてキョーコが、まさにそんな感じだった。

「全部、俺のせいにしていいから。俺が無理矢理したって思っていいよ…今は、ね」
「…っ、敦賀さん、そんなの、ずるい…ッ」

吐息の触れる距離でそう囁いた蓮は、キョーコの心の揺れを逃してはくれなかった。

そうして蓮は、キョーコを抱き竦めて…

今度こそ本当に、その唇を、優しく奪ったのだった。



…蓮とキョーコの始まりは、そんな風だったのだ。





自分は精一杯逃げたと、一年前を思い浮かべながらキョーコは思う。

徹底的に逃げて逃げて、逃げ捲くったのだけど、もったのはたったの半年とちょっとだった。

蓮はキョーコの心の傷にそっと寄り添い、植え付けられていた猜疑心を丁寧に取り除いてくれた。
そして絡んでいた糸を解きほぐすかのような優しく慎重な手つきで、キョーコの胸の奥にある人に対する、愛情に対する不信感を、ゆっくりと覆してくれたのだ。

キョーコが蓮を信じたいと思うようになったのは、かなり早い段階だったと思う。

そして、あなたが好きと、とうとう告げたのは7月の夏の夜で。

こうやってベッドに初めて引き込まれたのも思えば随分と早かったような気がするけれど、それは勿論、キョーコの気持ちをしっかり確認した上のことで、しかも凄く自然な成り行きでだった。

そうなる過程の前に、蓮はキョーコに知り得るはずのなかった秘密をいろいろと打ち明けてもくれた。

自分の本名、本当の外見、その理由と…
キョーコが幼い頃、間違えて覚えて名前を呼んでいた人の、その正体も。

驚いたし、唖然となったけれども、それは、全部キョーコにとっていい方向に向かっていた。

こんなに何度も好きにさせられる人から逃げられるわけがなかったと納得したし、復活の兆しを見せている乙女思考は、『運命の人』、なんて言葉を弾き出していたりした。

外堀は、もうとっくに、何年も前から埋められていたのだ。

一年前のあの頃、実は蓮の中でも心の蟠りが解消されつつあったそうだ。

長年の苦悩を抜けた頃、海外進出の話があり、それを視野に入れて撮影された映画が海外の賞を獲得したのだ。
唐突に見えたキョーコへの告白には、そんな背景があったらしい。

今の『敦賀蓮』は国内外含めて引っ張りだこの、超人気俳優だ。

日本と海外を行き来しつつ、キョーコとの時間もちゃんと取ってくれている。

時々、本当に1人でこなしているスケジュールなのかと疑いたくなる心境だけど…
こんな人が他に何人もいたら物凄く困るので、蓮と社の神業に感謝しておくに留まろう。

カーテンの閉められた窓を見ると、薄っすらと明かりが差し始めていた。

時計を見れば、時刻は朝の6時半過ぎ。
キョーコは随分と長い間、蓮の寝顔を眺めて物思いに耽っていたようだ。

いつもの習慣でそろそろ起き出そうかなとも思うけど、隣で眠る人の寝顔をこんなに長く見ていられるのはそうそうない経験だ。

悪戯心が芽生え、指先でそのふっくらとした唇をゆっくりと辿ってから、顔を寄せてそのままそっと唇を重ね合わせた。
自分の行為に1人照れて、頬を染めたキョーコは身を起こそうとしたのだが…

「ん…キョーコ、もう1回…」

不意に声が上がったかと思うと、身体に回されていた腕が伸び、後頭部を引き寄せられたキョーコは、その柔らかな唇にもう一度くちづけを落とす形になった。

驚いて瞳を瞬かせると、近い距離に楽しげな表情の蓮の顔があって。

「やだ、もう敦賀さんたら!いつから起きてたんですか?」

笑って言うと、蓮の腕が身体に回され抱き締められる。

「丁度、今。目が覚めたら、君があんまり熱心に俺の顔を見てるから…何か、新しい発見があった?」
「ふふ、相変わらず素敵だなあって思ってました。おはようございます、敦賀さん」
「おはよう、キョーコ…君も、相変わらず綺麗だね」

囁かれる照れ臭い言葉に身を竦めながら、目線を絡めた蓮とそのまま唇を寄せ合って、おはようのキスをして。

キョーコは目覚めた蓮の顔を覗き込む。

「敦賀さん、大丈夫ですか?ちょっと、疲れた顔をしてます。最近あまり寝れてなかったでしょう。今日は、お家でゆっくりしててもいいんですよ?」

心配げに言うと、蓮に苦笑気味に見つめられてしまう。

「それじゃ何の為にこの半年頑張ったか分からなくなるよ、本末転倒じゃないか…て、この使い方で合ってるよね?」
「ふふ、大丈夫。正解です」

昔の会話を思い出して、蓮とキョーコは笑みを零す。

キョーコが『坊』の中にいた頃の話だ。
『坊』を相手に蓮が言った想い人が誰であったのか、キョーコはもう、ちゃんと教えて貰っていたのだ。

2人の間に隠し事は、もう、1つだってなかった。

「誕生日おめでとう、キョーコ。今日は一日楽しもうね」
「…はい…!」

優しい眼差しで言われて、キョーコは表情を綻ばせて大きく頷く。

蓮から誕生日の過ごし方の希望を尋ねられて…
少し恥じらいを覚えつつも、キョーコは『遊園地に行きたい』と、リクエストしていたのだ。

手を繋いで一緒に歩いて、クリスマスムードの漂う園内を2人で楽しみたい。

これまで全く縁がなかったし、考えたこともなかったのだけど、蓮とお付き合いをするようになり、そういうことにそこはかとなく憧れを抱くようになっていたのだ。

キョーコの願いを早速聞き入れてくれた蓮は、『せっかくだから貸切にする?』なんて、冗談とも本気とも付かない顔で言っていた。

あの顔からすると…7割がた本気だったとキョーコは思う。

世の中にはこの日を楽しみにしている人達が他にもたくさんいると言うのに、とんでもない話だ。

大体いくら掛かると思っているのだろうか。
むしろ、そんなことが出来るのかどうかすらキョーコには分からない。

普段は至って常識的な彼なのだが、キョーコに関することになると、途端に感覚を変えるから困ってしまう。

何も大掛かりなことはしなくていいのだ。
ただ、他の一般的な恋人同士がすることをして、楽しい時間を2人で一緒に過ごしたいだけなのだから。

蓮とキョーコは今や、日本中公認のカップルとなっていた。

一緒にいるところを外で見られても案外穏やかに見逃してくれるし、サインや握手を求められても『応援してます』と言われ、嬉しい気持ちにさせられることが多々あった。

あまり顔を晒して歩くわけには行かないだろうけど、人ごみの中に姿を見せても騒動を引き起こす原因にはもうならないだろう。
芸能人とは言えせっかくの日なのだから、こそこそすることなく楽しませて頂きたい。

瞳を細めた蓮は、キョーコを抱き締めたまま喜色の浮かぶその頬に唇を寄せる。

「夜はディナーの席を予約してあるからね。今日は、予定が満載だ」
「はい。でも、そう言えば敦賀さん、今夜はゲストが2人来るって言ってましたよね?それって、誰が来るんですか?」

蓮に身体を引き寄せられ、彼の身体に腕を回したキョーコは疑問に思っていたことを問い掛ける。
25日の夜はゲストが来るからよろしくと、前々から言われていたのだ。

キョーコを見つめる蓮はそんな問い掛けに苦笑を漏らす。

「ああ、君も知ってる人だよ。誰だと思う?ヒントは…君の、大好きな人」
「ええ、敦賀さん以外でですか?んー…だるまやのお2人?モー子さんと社さん?」
「夜まで秘密。考えておいて?それも、楽しみの1つになると思うから」
「ええっ物凄く難しいんですが!」

やっぱりモー子さん?あらでも、そう言えばモー子さんは今日から地方ロケだって言ってたし…と呟くキョーコには、考えることに真剣で蓮の漏らした呟きが耳にうまく届かなかった。

「? 今、何か言いましたか?」
「ん、何も?真剣に悩む君も可愛いなって思ってたところ」
「…何か、誤魔化した気配がありますよ…?」

蓮は綺麗に笑って、キョーコの左手を取ってその指先に唇を寄せて。

「相変わらず疑り深いな、俺の愛しい婚約者は」

蓮のくちづけた指には、昨夜貰った指輪が光っていた。

何も大掛かりなことはしなくていいのだ。
ただ、他の一般的な恋人同士がすることをして、楽しい時間を2人で一緒に過ごしたいだけなのだから。

蓮とキョーコは今や、日本中公認のカップルとなっていた。

一緒にいるところを外で見られても案外穏やかに見逃してくれるし、サインや握手を求められても『応援してます』と言われ、嬉しい気持ちにさせられることが多々あった。

あまり顔を晒して歩くわけには行かないだろうけど、人ごみの中に姿を見せても騒動を引き起こす原因にはもうならないだろう。
芸能人とは言えせっかくの日なのだから、こそこそすることなく楽しませて頂きたい。

瞳を細めた蓮は、キョーコを抱き締めたまま喜色の浮かぶその頬に唇を寄せる。

「夜はディナーの席を予約してあるからね。今日は、予定が満載だ」
「はい。でも、そう言えば敦賀さん、今夜はゲストが2人来るって言ってましたよね?それって、誰が来るんですか?」

蓮に身体を引き寄せられ、彼の身体に腕を回したキョーコは疑問に思っていたことを問い掛ける。
25日の夜はゲストが来るからよろしくと、前々から言われていたのだ。

キョーコを見つめる蓮はそんな問い掛けに苦笑を漏らす。

「ああ、君も知ってる人だよ。誰だと思う?ヒントは…君の、大好きな人」
「ええ、敦賀さん以外でですか?んー…だるまやのお2人?モー子さんと社さん?」
「夜まで秘密。考えておいて?それも、楽しみの1つになると思うから」
「ええっ物凄く難しいんですが!」

やっぱりモー子さん?あらでも、そう言えばモー子さんは今日から地方ロケだって言ってたし…と呟くキョーコには、考えることに真剣で蓮の漏らした呟きが耳にうまく届かなかった。

「? 今、何か言いましたか?」
「ん、何も?真剣に悩む君も可愛いなって思ってたところ」
「…何か、誤魔化した気配がありますよ…?」

蓮は綺麗に笑って、キョーコの左手を取ってその指先に唇を寄せて。

「相変わらず疑り深いな、俺の愛しい婚約者は」

蓮のくちづけた指には、昨夜貰った指輪が光っていた。

…恋人としての指輪は、半年前に可愛いピンクゴールドのものをすでに貰っていたのだけど…

新しい指輪には、プラチナの台に大きなハートの形にカットされた大粒のダイヤがはめ込まれていて。
約束の印だと、昨夜、蓮はこのキラキラと光を弾く指輪を指にはめてくれながら言ったのだ。

『君の女優としての未来は、まだ始まったばかりだ。君は、世界が待ち望む一握りの女優になるよ。それを邪魔することは出来ないし…俺が独り占めにするにも、まだ早い』

その時の蓮の顔は酷く不本意なもので…
今思い出しても、ちょっと可笑しい。

だから約束だと、彼は言ったのだ。

『必ず俺のものになるって約束して…後にも先にも、俺だけだって』

そんなの今更だわ、とキョーコは思う。

これだけ夢中にさせておいて、もう、本当に今更だ。
後にも先にも、こんなに好きになる人なんていないし、好きになってくれる人も現れるはずがない。

彼の愛情は深くて一途で、惜しみがないのだ。

その想いに自分の心を返すのに一所懸命で、他の人なんて、考える隙すらなかった。

昨夜、寝室に連れ込まれた後この指輪を渡されて、目の前の恋人を先にベッドに押し倒したのはキョーコの方だった。

プロポーズの、返事として。

…胸に湧き上がる感情から、目が逸らせなくて…

「ふふ。大好きです、敦賀さん。大好き」

指輪を辿る蓮の指先に指を絡めて、耳朶にくちづけ、そう囁くと、蓮は整った美貌に花のような笑みを浮かべる。

「それは奇遇だね。俺も、今そう思ってたところだ。大好きだよ、キョーコ…愛してる」
「ん、んん…敦賀さん…」

舌を絡める深いくちづけをされ、嬉しくなったキョーコは愛しい人の首筋に腕を回す。

「敦賀さん…もっと、して?」

上目遣いで言ったら、蓮に優しくベッドに縫い止められてしまった。
見上げれば、そこには瞳に隠し切れない欲望をひらめかせた、優美でいて野性味溢れる恋人の姿があって。

「こら。そんな可愛い顔をして可愛いことを言うなんて、一体いつ、どこで覚えたの?…せっかくの日なのに、これじゃ、ベッドから出たくなくなりそうだ…」
「だから、それでもいいですってば」
「それはダメ。だから…今は、一回だけ」
「わ、敦賀さんたら…ふふ、くすぐったいです」

額を合わせた2人は、目線を絡めて笑い合うと…

そのまま、縺れるようにベッドに重なり合った。

「愛してるよ…キョーコ…愛してる」
「私も。私も愛しています、敦賀さん…」

吐息交じりの台詞が耳にくすぐったくて、キョーコは身を竦めながら愛しい人の背中を抱き締める。

蓮のベッドで、彼からこんな風に愛を囁かれることになるなんて。
更には、自分がそれに胸を熱くして、泣きたくなるような気持ちを抱えて同じ言葉を囁き返すなんて。

1年前の自分は想像すらしていなかった。


恋なんてしない。

人を好きになるなんて、もう、一生ない。


そう思い決めて、頑なな瞳でずっと世の中を見ていたと言うのに…

1年後の今、全てが覆されている。

人生にはそんな、思いもよらない出来事が待ち構えていることもあるのだと。
信じてもいいと思える人はこの世に必ずいるのだと、キョーコはこの1年で蓮に嫌と言うほど教えられてきた。

人との縁て、運命って…凄く不思議なものだわ…

そんなことを考えながら、優しい腕の中で瞳を閉じた。

最愛の人に、夢中になるために。


クリスマスの朝は、誕生日の1日は、まだまだ始まったばかり。

あまりにも盛りだくさんで、幸せ過ぎる1日を思って…
キョーコは愛する人と抱き合ったまま、笑みを零したのだった。

…だから、キョーコはすっかり忘れていた。

今夜のディナーのゲストを、しっかり推理することを。

「…早く正式に紹介しろって、矢の催促なんだよ…もう『戒律』も無効になったわけだしって。今夜の羽田は、大騒ぎになるかもな…まあ、クリスマスには家族は一緒にいるべきだし、ね」

彼はキョーコが思い悩んでいる横で、そう呟いていたのだ。


「ねえねえ、あなた!クオンのキョーコはどんな女の子なの?優しい子かしら、可愛らしい子かしら!?ああ、会うのが今から、とっても楽しみよ!」
「ああハニー、落ち着いて。彼女はとても素晴らしい子だよ!わたしが保証するし、なんと言ってもわたし達のクオンが選んだ唯一の女性だ!日本に着けばすぐにも会えるよ、楽しみにしていておくれ」

恋人が隠していたサプライズが、自分が結んだ幸せな縁の一端が、同一人物だと言うことを。

多忙な人々が時間を縫ってプライベートジェットで日本に飛んでくると言う可能性を、キョーコは想像すら出来ていなかった。

秘密も全て知っているし、慣れたつもりでいたのだけれど…やっぱり、敵は規格外で。


ディナーの席で抱擁の嵐に会い、キョーコが幸せの悲鳴を上げるのは、あと、12時間ほど先のことだった。



*END*





華の無いげっかのブログに花が美しき花が咲きました。
美花さんありがとうございました。
私にはこんなの書けません!!←ここだけ自信満々。
SWEET!さんにはこんな素敵なお話しがたくさんです。
まだ行った事が無い方は、ぜひ行ってみて下さいね。


記事ないのリンクだと、携帯閲覧者向きじゃない表示になるみたいです。
私のソフトバンク携帯ではPC仕様の画面になっていて見づらい。
ので携帯閲覧の方はblogトップのリンクからのアクセスをおすすめします。
リンク集からなら携帯は携帯仕様の画面に切り替わります。
ご注意下さいね。



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