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ANGEL-A 前編

「ここか………。」
ある店の前の路肩に車を停めた。
『pois chiche (ポワ・シッシュ)』
間違いない。
彼女……キョーコが専属契約を交わしたばかりの店だ。
フランス語で”ひよこまめ”という意味を持つ店は、いかにもキョーコの好きそうな店だった。
巷で人気のランジェリーショップ。
取り扱う商品のデザインも可愛らしく、キョーコには、よく似合っていた。
それはいい。
むしろ俺としてはうれしい。
ただ一つ見逃せない問題があった。
けっして見逃せない問題が……。
どういった経緯があったのかは分からないが、キョーコはこの店のオーナーを実の姉のように慕っている。
そんな事情から、この店の専属モデルとして契約したキョーコ。
当然、イメージモデルとして世に出る事になり、その愛らしい姿を世間に晒す事になった。
彼女はタレントであり、女優だ。
いつかは水着の仕事や、ベッドシーンの仕事がくるかもしれないと覚悟はしていた。
だけど、いきなり下着のイメージモデルとは。
自分だって最近になってやっと許して貰えた領域なのだ。
それなのに……。
そう多くはないが、駅等にはポスター貼られ、少し店から少し離れた大通りには広告用の看板があって……それが今、話題を呼んでいる。
問題のポスターと看板には白い肌を惜し気もなく晒し、あげくに少し恥じらいの表情を見せる彼女がいて、それが殺人的に可愛らしいのだ。
初めてあれを目にした時は、金づち一発程度の衝撃ではすまず、メッタ打ちにされる除夜の鐘の如き気分を味わった。
実際には108回打たれる前に、その夜に密かに企てていた予定(煩悩)なんか吹っ飛んでいたけれど。
仕事とは言え、自分の彼女の下着姿を他の男達に見られて平気でいられるわけはない。
水着と思えばいいのかもしれない。
実際、看板やポスターで着用しているのはとても下着には見えない代物だった。
それはいいのだが。
いいのだが……可愛らしいのが問題なのだ。
彼女に寄って来る虫も増えた。
店の人気は鰻登り。
女性客はもちろん、明らかに目的の違う男性客までいるらしい。
彼らの目的は、店内にしかない、チラシやスチールパネルだ。
店内にはポスターや看板にされている以外にも新作下着を着用したキョーコのパネルがあるらしい。
希望者にしか渡さないというカタログも当然キョーコがモデルとして掲載されている。
これらがネットオークションにも出品されていたのを見つけ、寸でのところで競り落としたのだ。
社さんにも協力して貰い見つける度に買い取り、それは今も尚、現在進行形。
後を絶たないのだから仕方がない。
何故そこまで躍起になるのか?
競り落としたのが男なら大問題だからだ。
なんの目的で男がポスターを求めているのか、考えるだけでも許せない。
見せるだけでも許せないのに、愛しい彼女の下着姿をおかずにされてなるものか!(←何故か、俗語は知ってる敦賀氏。)
なんとかしなければ……。
そしてはっとする。
ランジェリーショップの前にこんな車が止まっていたのでは目立って仕方がない。
芸能人という立場もある。
閉店まで後少し。
近くの駐車場に車をとめて店内の様子を伺いながら待つ事にした。
閉店したとしても流石に入りづらい事には変わりはないけれど。
だが、これも大切な彼女の為。



最後の客を見送り店じまいの準備をする女性がいた。
「すいません。オーナーはいらっしゃいますか?」
「私ですが……。ええっ?……っつ…つる……。あっ……ごめんなさい。まずいわね。名前を出しては。」
ある程度の変装はしていたのだが、何故かバレてしまった。
バレない自信があったのに。
良識のある女性のようで騒がれる事もなく、正直助かった。
とはいえ、俺は彼女にいい認識を持ってはいない。
何せ、あの京子の下着姿をポスターにしてしまった女性なのだ。
「私に何か………あっ………もしかして………。」
自分の店に張り出されたポスターを見る彼女。
勘もいいらしい。
「お話しが長くなりそうですし、店の中にどうぞ。裏口からなら目立ちませんから。」
彼女に案内されて、裏口から店内に入る。
そのまま、ある一室に通された。
仕事部屋のようだ。
デザイン画や様々な布地……主にレースの類がテーブルの上に散乱していた。
「散らかってて、すいません。新作のデザイン中だったもので。」
そう言いながら温かいコーヒーを出してくれる。
「お店を閉めてきますので、少しお待ち下さいね。」
彼女を待つ間、無造作に置かれたデザイン画を見る。
いいのだろうか?
新作のデザイン画なんだろう?
盗まれたりしたらどうするんだ?
男の俺なら問題ないとでも?
その中の一つが妙に気になる。
しかし……これは……本当に下着か?
下着というよりも……。
それに、このデザイン画……いや、これだけじゃない、全部……。
「お待たせしました。」
彼女が自分の分のコーヒーをカップに注ぎ、向かい側に席に着く。
「あら、気になります?というか気づきましたね?このデザイン画、全部、京子さんをイメージしてるんですよ。」
「………。」
「新作の発表会するつもりなんですけれど、その為のデザインです。」
彼女は何でもない事のようにサラリと言う。
「その新作のデザイン画を俺なんかに見られてもいいんですか?一応、モデルの仕事もしてるんですよ?」
「アルマンディの専属モデルでしたね。最近、女性向けのデザインも始めたって先輩から聞いています。……そうね〜。これなんか使えそうかも……。」
さっき一番気になっていたデザイン画を手に取り事も無げに言う。
俺から見てもかなりセンスのいいものだと思えた。
ちょっと手を加えれば、下着には見えないようなデザインだ。
そのままでも十分通用するかもしれない。
「盗まれるのは困るわ。でも、貴方なら大丈夫。」
「なぜ、そう言い切れるんですか?」
「これは京子さんの為のものよ。それを貴方が他所に持ち込む?ありえないわ。それにね、むしろ貴方に見ていただきたかったの。敦賀蓮さん。」
この女性は只者ではないらしい。
俺とキョーコの関係を知っている。
キョーコが話した?
いや、それはないだろう。
「キョーコちゃんに彼氏がいるのは知ってましたけど、まさか貴方だったなんて。あっ、自己紹介がまだでしたね。申し遅れました。この店のオーナーの昼夜子です。」
それから彼女には様々なデザイン画を見せられた。
それぞれに秘められたコンセプトがあって男心をくすぐるというか、なんというか。
キョーコと過ごした初めての夜さえ、彼女の思惑通りだった事を知った。
この日、”彼女の下着姿をこれ以上、世に晒さないように”と文句をつけに行くつもりだったのに……何故だか話はズレまくり、その結果、完全に彼女に乗せられてしまっていた。
そればかりか、まさか彼女の片棒を担ぐ羽目になるとは予想もせず。
一応、本来の目的も言ってはみたが、「これはビジネスです。京子さんも承諾しています。貴方だってそうでしょう?」と返されて終わってしまった。
もはや成す術もない。
「ところで敦賀さん。これ何に見えます?」
「華やかですね。まるで……。」
「でしょ。きっと京子ちゃんにすごく似合うわ。今度…小さいけど○×ホテルで新作の発表会を開くんですよ。そこで京子さんにこれを着て頂くつもりでいます。もうオファーは出しました。」
「………。」
「京子さんのおかげで注目して頂いてるので、取材も入ります。当然、一般客も来ます。新規のお客様を呼び込むのが目的ですから。」
支持されてこそのデザイナーとしての立場、販路を拡大してこそのビジネス、彼女は本気だった。
喰うか喰われるかの世界で生きているのは、俺達だけではないのだ。
もう俺のわがままが通せる領域ではないのだと思った。
だけどせめて……。
「条件があります。記者も観客も女性限定にして下さい。スタッフは可能な限り女性で構成してください。」
「もちろん最初からそのつもりでしたから。」
「………。」
キョーコがこの女性を姉と慕うのが何故か分かった気がした。
「敦賀さん。それでさっきのこのデザイン画の話に戻るのですが、これ、どうしても男性のサポートが必要なんですよ。それを貴方に引き受けて貰えませんか?」
この女性、最初からその気だったのだろう。
だが、断る理由がない。
「事務所に正式にオファーを出して下さい。この仕事、なんとか調整してでも引き受けますよ。アルマンディの方も問題ないでしょう。メインは彼女ですしね。あなたにも多少のコネがあるなら尚更……。」
「もちろんコネは最大限に利用させていただきますわ。」
彼女の笑顔に見送られ、俺はこの店を後にした。
あのデザイン画……あれが形になるのが楽しみだ。



それから数日後、『pois chiche (ポワ・シッシュ)』から、正式にショー出演依頼が来た。
俺のスケジュールはだいぶ先まで埋まっていたけれど、”調整中、たまたま出来た空き”に、小さなショーに出るかわいい後輩の為にショーの出演を受けた。
無理矢理、ねじ込んだものではない。
アルマンディの方も出演の際の衣装はアルマンディのものである事を条件にショー出演の了承を得ている。
これで彼女と二人で、堂々とランウェイを歩く事ができる。



彼女の隣は誰にも譲れない。



ショーのチケットは予約と前売りだけで早々に完売……新鋭ブランドにしては異例の事となる。





後編に続きます。

これは某大御所スキビサイト様でのゲストルームの投稿仲間、かめ・さんとのコラボ作になります。
ちなみに去年の12月にかめ・さんのblogに掲載して頂いています。

時間も経ち、そろそろいいかと、こっちにのせさせて頂きました。

ただ掲載するのもつまらないので加筆しました〜。

結果長文になり、携帯では一気に更新する事が出来なくなり分割での掲載です。

かめ・さんごめんなさ〜い。そしてありがとう。

加筆についてはかめ・さんにもご了承は頂いてます。

作中の『pois chiche (ポワ・シッシュ)』はアメバでのお友達による命名。
よーく見ると昔の私のハンネまで入ってるっつーすげぇネーミング。
素敵な店名あぁんど出演ありがとうございます。

感謝感謝。




前半は私のアホ文だけですが、後半はかめ・さんのおステキイラスト付き。



絵師さんとコラボ出来るなんて身にあまることですわぁ。すげぇ。



幸せいっぱいな、げっかでした。



かめ・さん、まめしゃん、感謝!!!愛してるぜ〜っ!!!!



月華
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