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エレベーター 第二部 (10)

朝起きると、キョーコの姿はなかった。

その事に気付いたのは、彼女を求めて伸ばした腕が虚しくシーツの波をかいただけだったから。

「キョーコ?」

遮光カーテンで仕切られた寝室は薄暗く、彼女がここにはいない事を無音の主張で示すだけ。

……そうだ。
夕べはキョーコは母さんと和室に。

時計を見れば、まだ5時。
起きるにはまだ早い時間。
キョーコがいるなら、もう少し微睡んでいたいところだけど。
仕方なく起き上がる。

弁当を作ると張り切っていたから、母さんもキョーコも起きているかもしれない。

着替えて廊下に出ると思った通り二人は起きていて、キッチンから明るい声が聞こえて来た。

リビングにはパジャマのままの父がいて、新聞を広げていた。

「おはよう、蓮。」
「おはようございます。父さん。」

珍しい。
いや、新聞を読む事がではなく、母さんがキッチンにいるのに父さんが何もせずにリビングにいる事がだ。

「男は立ち入り禁止だそうだ。」
「…………大丈夫なんですか?」
「…………大丈夫…なんじゃないか?」

キョーコの腕前はプロ級だ。
しかし、母さんの料理に関する奇抜なセンスは人智を華麗に飛躍している。
あの母さんを制御できるのか?
キョーコを信じたいけれど。

「キョーコ!こんな感じでいいかしら?」
「わっ!すごいです!完璧です!じゃ次はこれを!」

………何か、うまくやってるらしい。
正しくはうまい事使っている?

「何をやってるんだろうな。」
「なんですかね?…でも、失敗はしてなさそうですよ。」
「そうだな。」

しかし気になる。

「行くと怒られるぞ。」
「怒られたんですか?」
「追い出されただけだ。」
「………。」
「ランチの時間まで秘密なんだと。」

キッチンから漏れ聞こえる楽しげな声を聞きながら父の向かい側に座る。

……何と無くつまらない。

男二人でいてもなぁ。

「コーヒー、飲むか?」
「頂きます。」

父の向かい側に座り、昨日買ったガイドブックを広げる。
ネットでも良かったが、みんなで見るにはガイドブックの方がいいだろうとの判断だ。

「父さん、運転は俺がしますから、アルコールも気にせず飲んで下さい。」
「いや、今日はアルコールって気分じゃないな。せっかく家族が揃ったんだ。酔ってる場合じゃないからな。」
「じゃあ、念のため、免許も持っていて下さい。」
「そうだな。……行くのは◯◯花園だったな?」

◯◯花園は季節によって様々な花が咲き、アスレチック施設、キャンプや野外炊飯もできる設備が完備されている民間経営の施設だ。
ガイドブックによると近くの農園や牧場とも提携していて新鮮な食材を現地で調達できるとの事。バーベキューセットのレンタルもできるし、レストランもある。
持参したものだけでは足りないだろう父の胃袋を十分に満たす事もできる。
少し遠いがその分空気もいいはずだ。

「あっ……れ…蓮さん。おはようございます。」

キッチンからキョーコが顔を出した。
夕べから敦賀さんから蓮さんに変わった俺の呼び名。

……ダメだ…顔が緩む。

キョーコの後ろで俺を見て楽しんでいる母がいた。

いつからそんなに悪趣味になったんですか。

「ね?キョーコ。私の言った通りでしょ。手間が省けて良かったわ。」
「……何ですか?母さん。」
「キョーコがね、蓮を起こしにいくっていうから、”やめときなさい”って言ったのよ。」
「………。」
「襲われるわよって。」
「なっ!…なにを言って…」
「行かなくても、そのうち寂しくなって起きてくるからって、キョーコを止めたのよ。キョーコがいないとお料理できないもの。私が困りるわ。」

母さん……困ってるように見えませんけどね。

「キョーコ。蓮も起きたし、先に朝ごはんしにしましょ。」
「そうですね。」
「クー、クロワッサンを焼いたの。キョーコに教わって私が作ったのよ。」
「楽しみだな。」

キッチンに入れない俺と父さんはキョーコ達が運んでくる料理を受け取ってテーブルに並べた。

山と積まれたクロワッサン。
それが5皿分。
それぞれ違うらしい。
プレーンの他にチョコ中に入れて巻いたもの。
チーズを生地と一緒に巻き込んだもの。
メイプルシロップの香りがするものもある。
母の手も加わっているはずなのに……いつもなら見ているだけでお腹がいっぱいになりそうな量なのに……不思議と食欲が湧いてきた。

父の食事の量と母の料理の腕前の前に屈したはずの俺の食欲が息を吹き返したらしい。

「蓮さん。これもお願いします。」

次に手渡されたのは巨大なオムライスだ。
綺麗な円形を描くオムライスの周囲をトマトの角切りが入った甘酢あんかけ風のソースも美味しそうだ。
オムライスで出来た黄色いキャンバスには母さんの手によるものだろう落書きがビッシリとかつ芸術的にケチャップで描かれている。
食用花も散りばめられていて華やかだ。

……これなら、あの独創的な発想をしている暇は無かっただろう。

「キョーコ!かわいいわっ!ステキだわっ!食べるのが勿体無いわ。」

また、キッチンで母の心を掴む何かが、行われているらしい。

「蓮、これお願いね。まだ食べちゃダメよ。」

上機嫌の母がトレイに乗せてきたのは、ミニサイズのオムライスが三つと人数分のスープ皿だ。

「蓮さぁん。これもお願いしますぅ。」

キッチンの奥でキョーコが俺を呼んでいる。
彼女のそばにはワゴンがあり、大鍋をワゴンに自力で移動するのを諦めたらしい。

ごめんね。
キョーコ。

キョーコの代わりに鍋ごとワゴンに乗せる。

「運ぶのこれでおしまい?」
「はい。」
「大変だっただろう?俺も手伝ったのに。」
「大丈夫ですよ。重いのはこの鍋だけでしたから。それに、ママがパパをビックリさせたいんですって。だから、二人だけで作る事にしたんですよ。」

いつの間にかパパ、ママの呼び方が普通になってるしね。
それもこれも母さんがお母様と呼ぶ度に拗ねたり泣き落としにかかったり、父がズルいと大人気なくダダをこねまくった結果だ。

これだけは流石の俺もマネ出来そうにない。

「さっき母さんがはしゃいでたみたいだけど、あの小さなオムライスの事?」

確かにかわいいけど……。

「うふふ。そのお鍋のフタ開けて見てください。」
「鍋?」

言われてフタを開ければとてもいい香りと湯気が立つ。

「野菜とミートボールのスープです。」
「これか…。」
「はいっ。包丁捌きが素晴らしくて。私は調味料を準備しただけで、殆どお一人で作られました。」
「……一人で?大丈夫なの?」
「太鼓判付きです。」

鍋の中には柔らかそうなミートボールとクマやらペンギンやら星やらハートやらと、様々な形の野菜のスライスが浮かんでいた。

「最初は型抜きでハートと星形だけだったんですけど。動物のは包丁でやってました。」
「……大分、野菜が無駄になったんじゃ。」
「オムライスに使いましたから、問題ありません。」
「凄いね。」
「はい!凄いですよね。」

いや…君がだよ。

母さんが作ったというスープは不思議な程にうまかった。
父さんに絶讃されて母さんも上機嫌だ。

「ランチも期待していて。」

期待していいのか……。

キョーコを見れば、ただにこにこ笑うだけ。

大丈夫…らしい。

「8時には出かけようと思うんだが、大丈夫かい?」
「後片付けだけよ。」
「それなら手伝えるかな?」
「お願いするわ。」

父さんと母さんの会話を聞きながらクロワッサンを手に取る。
外のカリッと焼けた食感も中のしっとりした食感もいい。
メイプルシロップの香りがするけれど、甘すぎず、むしろ香ばしさが加わって……美味い。

「キョーコ、これ美味しいね。」
「うふふ。二人で愛情たっぷり込めて作りましたから。」

本当に関わる事は怖いくらい幸せだよ。




ずっしりと重いランチバスケットをエレベーターの奥に置き、次の荷物を受け取る。

「蓮、忘れものはないな?」
「大丈夫ですよ。」
「キョーコ。戸締りはしたかしら?」
「確認しました。」

残りの手荷物を持って、全員で乗り込む。

「よし!行こうか。」

笑顔の俺たちを乗せエレベーターが階下へと静かに動き出す。



今日も慌ただしい一日になりそうだ。





11へ続きます。



どこまで続く。
いや…早めに終わらせたい。
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