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夜夢

運命の出会いをした。



海外に渡航する為に手っ取り早く金が欲しかった。
何がしたいという理由は特にない。
どの国に行くかさえも決めていなかった。
産まれ育ったこの国でやりたいと思う事が見つからない、だから海外に目を向けただけ。
短期間で渡航費用と向こうに行ってからの生活費を稼ごうと思った。

ただ、それだけ。



知り合いに紹介されて行った先で、俺は運命の人と出会う。

最上キョーコ。

俺の人生を変えた女。



俺とそんなに歳は変わらないはずなのに気品と大人らしさを備えた完璧な女性。
それが彼女だった。
”この人の期待に応えたい。”
その思いで、俺はこの先の人生を決めた。
彼女の下で働く事を選んだ。

華やかだが綺麗とは言い難い世界。
そんな世界に身を投じた俺。
でも、そんな世界に翻弄される事はないと確信していた。

それは彼女がいたからだ。

欲と見栄に溺れた世界にいてさえ、彼女は美しかった。
彼女がいる限り、俺は道を誤るはずはない。
揺るぎない事実だ。
俺は彼女とともにここで生きていく。



「蓮って子、出して。」
「俺ではご不満ですか?」
「あら、あなたの接客はこの店のNo.1に相応しいものよ。秀人。」
「あなたにそう言って頂けるとは光栄です。」
「ねぇ、蓮、呼んできて。」
「残念ながら、彼はまだ接客はできないのですよ。一人前の対応が出来るまでは……それがこの店の決まりです。」
「私が一人前にしてあげるって言ってるの。」
「困りましたね。」
「何も困らないわ。彼、綺麗な子じゃない。だから私があの子をNo.1にしてあげるのよ。どうせ、あの女の相手しているだけなんでしょう?私ならすぐに最高の男に仕上げてあげるわ。」

自分に酔いしれた女の発言に何の感情も起きない。
何よりもお嬢さん、あなたには……。

「それは無理ね。」

鈴の音のような心地好い声が、甘やかされる事に慣れきった女性客の会話を断ち切った。

女王のような眼差しで見下ろす。

”蓮”はこの店での俺の名前。
俺はまだフロアには立てないから店の名簿には名前は載せられていない。
フロアでのやり取りを俺は見下ろしていた。
彼女のそばで。

「蓮……いいえ、蓮だけじゃないわ。尚もレイノも、もうあなたの手に負えるような男ではないわ。高円寺さん。」
「なっ!?」
「でも、まだまだ。一人前には程遠いわ。」

彼女をエスコートしてビロードの絨毯敷き詰めた上階からゆっくりと階段を降りる。
彼女の歩みを邪魔しないように。

その後に続くのは尚とレイノだ。
尚は生意気なヤツだけど、彼女には逆らわない。
レイノは彼女を心酔しているし、俺は……彼女に心底惚れている。

「金さえ積めば何とでもなるような店と一緒にしないで下さる?」
「………。」
「一流のサービスを提供するのが、この店のコンセプト。いらっしゃるお客様にもそれなりの品位を持って頂かないと困りますの。」
「……私に品が無いとでも言いたいのかしら?」
「ルールも守れない方に品があるとでも?」
「っ!帰るわっ!!成り上がりの癖に腹が立つ女ね!!こんな店潰してやるから、覚えてなさい!!後悔しても遅いんだから!!」
「お送りしましょう。」
「けっこうよ!!」

秀人さんのエスコートをはねのける。
会計を済ませた後、取り巻きの者達を引き連れて去って行く彼女の姿を冷めた視線で見送った。
旧家の令嬢。
らしいと言えばそれまでだが、権力を振りかざす事ばかりに慣れすぎていて、この店の客としては相応しくないのが見て取れた。

かの令嬢が残していった捨て台詞にも、スタッフ達は誰一人動じたそぶりも見せていない。

それだけ、揺るぎないものがこの店には存在するのだ。

令嬢が去った後、秀人さんが、彼女を見つめながら言った。

「俺が彼らにNo.1の座を奪われたら、あなたに磨いて頂けますか?」
「必要ないわ。あなたは既に一流だもの。」
「……彼らが羨ましいですよ。」

ヒデヒトさんの彼女を見つめる眼差しに、俺は余裕を奪われる。

分かっている。
その余裕の無さが俺が一人前として認められない理由だって。

それだけこの人に惹かれていた。

俺だけじゃない。
秀人さんも光さんもタイラも、みんな彼女に惹かれているのだ。
支配人の新開さんだって、バーテンの黒崎さんだって、経理の緒方さんだってそうだ。
恋愛感情であったり、憧れであったり、共感であったり、同志であったり、頂く感情は様々でもみんな彼女が好きなのだ。
型破りではあるが彼女の理想が詰まったこの店が好きなのだ。

「客に飲み込まれてはダメよ。」

それが彼女の口癖。
彼女はこの店を一歩でも出れば一切の関わりはないものと考えている。
俺達もこの店から出ればホストではなくなる。

だから同伴もなければ、アフターもない。

他の店とは一線を画した店。

他店で通用する事もここでは通用しない。

いくら金を積まれても、覆される事のないこの店の決まりは、すべてこの人の理想が形になったもの。
この店が彼女の理想で有る限り、俺達はいかなる事があってもその形を崩してはならない。



この人が俺に望むもの。
それに応える為に俺は頂点を目指す。



お嬢さん、ご指名ありがとう。
いずれは俺もこのフロアに立つだろう。
ご指名があれば、あなたの為に時間を提供するかもしれない。
夢の一時を。
この空間の中だけの刹那の夢を。
この人に捧げた時間の中のほんのカケラにすぎない僅かな時間で最高の夢を見せて差し上げますよ。



それからしばらくして、俺はフロアにたった。
もちろん、ホストとして。

懲りもせず、例の令嬢が来店した。
この店の買収をしようとしたらしいが、失敗に終わったようだ。
令嬢の指名を受けて席についてすぐに引き抜きの話しを持ち掛けられた。
金をちらつかせても来たが、心が揺らぐ事もなかった。
それどころか、あまりのしつこさに心は冷めていく。

「店にいらして頂ければ、いつでもお会いできますよ。」

どんなに心が冷めようと接客の姿勢だけは崩さない。

中二階には彼女がいる。

仕事につく前に彼女と約束を取り交わしたのだ。

だから尚更、完璧に仕事をこなさなければならない。



「お疲れ様。」
「お疲れ様です。オーナー。」
「それで何がほしいんですって?」
「それは合格と言うことですか?」
「そうね。……何がほしいの?蓮?」

この仕事は個人のプロフィールさえ武器になる。
好みの物、誕生日も……。
でも、俺はまだそれらを公表していなかった。

まだ彼女しか知らない事。

「好きなものを頂けるんですよね。」
「特別よ。」

俺にはどうしてもほしいものがあった。

今日は俺の誕生日だった。
今まで気にもしていなかった日。

でも、今年は違った。
俺には欲しいものがあったから。
俺が欲しかったもの。
それは……。



「あなたが欲しい。」



大きく見開かれた瞳。



俺はこの日、かつてない程の甘い時間を手に入れた。

彼女の吸い付くような白い肌も、小さくかわいらしい唇から紡ぎ出される吐息も。
俺のもの。
今、この時だけは……。



今夜の夢を紡ぐためにあなたがほしい。








月華。360度、人生が変わりました。………一回転しちゃったよ。ガッツ石松さんか!!
それくらいおかしな話し書いちゃった。
ちなみに私はホストクラブなんて行った事ない。
田舎にはないし、金のかかりそうな店には行く気もない、ねっからの貧乏性。ドラマの『夜王』を見た程度の知識なんで突っ込まないで下さぁい。

タッキー&翼のダメのプロモ思い出しての妄想です。

今日は蓮の誕生日。
それに無理矢理絡めてみました。
あははは。
すいません。
続きもないです。
はい。



とにかく、誕生日おめでとう!
蓮さん。

あなたが大好きだ。


それではまた。



月華



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