エレベーター 19話~22話 第一部(ミス・ルイーザ様作)完結 

ミス・ルイーザ様作の『エレベーター』記事の最後になります。
続きは月華が書かせていただく為、第一部として区切りをつけさせていただきます。
勝手で申し訳ありません。ご容赦くださいませ。
それではどぞ。


◆◇◆◇◆



エレベーター (19)


(Side蓮)

「・・・・・ということがあったんです。」

俺の車に乗り込んだ時にはもうすでに様子がおかしかった彼女。昨日の今日で、甘い雰囲気を期待していた俺は少々裏切られたような気がした。それくらい、彼女、キョーコの顔は険しかった。

・・・今朝のことを怒っているのだろうか・・・

とも思ったが、部屋で話を聞いて、俺は言葉を失ってしまった。その代わりに、沸々とした怒りが出てきそうだった。

「・・・緒方校長は、私の意見を尊重してくださるそうですけど・・・でも・・・。」
「でも・・・?」
「私、少し心配で・・・。学園長にも報告するって言われてましたから・・・。」

・・・あー・・・それは俺も心配だ・・・。

あの人は即OKしかねない。何でも派手に、何でも楽しく、何でも大げさにしてしまう人だから。父さんの結婚式も確かあの人がプロデュースして想像を絶するほどド派手になったって聞いたし・・・。不破の乱入など、あの人にとったら大歓迎かもしれない。

「できるかどうか分からないけど、俺からも学園長に頼んでみるよ。」
「敦賀さんがですか??」
「うん。学園長はね、俺の父の古い上司であり、今では友人なんだ。」

そうだったんですか!と驚くキョーコに少し安堵の表情が浮かぶ。

でも、このままではいけない。マンションでの待ち伏せに失敗して、今、奴はのうのうと、いや、かなり焦っているのだろう、芸能人にはご法度という、公私混同をしている。もし後日、奴と奴の事務所の公式な申し出が拒否されたら・・・?次は奴が一体どんな手を使ってくるのか・・・想像したくない・・・。

まぁ、一番の問題は、奴の気持ちに全く気づいてなくて

「そこまでして私をまた家政婦にしたいのかしら!?」

と、憤っているキョーコなんだろうけど・・・。こればっかりは俺から伝える訳にもいかないし、言っても信じてくれないだろう。それでも・・・

「一度、彼と正面向き合って話し合ってみるのもいいかもしれないよ。じゃないと、彼はいつまでも君の周りをウロウロすると思う。」

気乗りしなさそうに不安な顔をするキョーコの頭をポンポンと叩く。

「大丈夫。俺がそばについててあげるから。」

奴はきっと嬉しくないだろうけど・・・。

でも、まずは学園長に話をつけないと。公私混同している奴に音楽祭に来られては困る・・・。

時刻はもうすぐ9時。“まだ9時”と思う自分と、“もう9時”と思う自分がいる・・・。心の中で熱望していることを理性で押さえ込み、言いたくはなかった言葉を自然を装って口にした。

「そろそろ送るよ。と言っても階下だけど。」
「えっ・・・?」

・・・・・・。

・・・・・・?

・・・・・・え?

「あっ、いや、そうですよね!もうこんな時間ですし!それじゃ、あの、私はこれで・・・。」

俺の横で、顔を真っ赤にしながらカバンやらコートやらを慌ててかき集めるキョーコ。


・・・もしかして、俺と同じ気持ちでいてくれた・・・?


そんな期待感が一気に押し寄せる。昨日の今日でがっついてはいけない・・・。束縛してはいけない・・・。疲れさせてはいけない・・・。そんな真っ当な理由でもって固めていた理性の壁を、いとも簡単に飲み込んでしまうような大きな“期待”の波が・・・。

気が付くと、帰り仕度をしてソファから立ち上がろうとしていたキョーコの手首を掴んでいた。

「つ、敦賀さん・・・?」
「・・・ねぇ、キョーコ・・・。さっきの・・・『えっ』ってどういう意味?」
「・・・・っ!?」
「・・・帰りたく・・・なかったの・・・?」

キョーコの表情はとても正直で、耳まで真っ赤になってYESと言っている・・・。でもそれをちゃんとキョーコの口から聞きたいと思う俺は、少し意地悪なのかもしれない。

「ねぇ、教えて?」

細いキョーコの手首を引っ張ってソファに座らせ、手を、腕をキョーコに絡みつかせる・・・。キスができそうな距離まで顔を近づけて、キョーコ・・・と名前を呼ぶ・・・。理性はとうに飛んでいたけど、キョーコの口から本心を聞くまで、ジラせてみた・・・。

「俺は・・・正直帰したくなかったよ?」

耳元にキスをしながらそう伝えると、ようやく零れ落ちてきた。

「あ、あの、私も・・・その、もうちょっと一緒に・・・いたいな・・と思ってて・・・。」

クスクス・・・まぁ、合格かな・・・?

キョーコが腕に抱えていたバッグとコートを床に落とし、ソファの上で甘い甘い唇を味わう。

「ま、待って、敦賀さん・・・夕飯がまだ・・・」
「んー・・・それは夜食にしようか?まずは・・・」

また昨日と同じ・・・。止められない・・・。俺のわがままなのかもしれない。キョーコが俺を受け入れ続けてくれるから、どうしても止められない・・・。

また明日も同じかな・・・?社さんに顔のことを言われるのかもしれない・・・。

でも今は何も考えられない・・・。ただ、5感全部でキョーコを感じているだけ・・・。



・・・学園長への連絡は明日にしておこう・・・。


・・・そして、明日、キョーコに聞いてみよう・・・


・・・『一緒に暮らさないか?』と・・・




◆◇◆◇◆



エレベーター (20)


(Side 蓮)

LME学園内に、白い壁が眩しい、洋風の建物がある。まるで海辺の別荘のような、丸みを帯びたお洒落な外観。

皆、それを『迎賓館』と呼んでいるが、そこに立ち入り出来る者はかなり限られている。

その中にある、一際大きな部屋が、LME学園を統括する学園長の部屋。


―――学園長、ローリィ宝田。


「失礼いたします。」

忍者の格好をした執事に案内されて、久しぶりに、いや、数年ぶりに学園長室に入ると、目の前には、水戸●門の飛猿を思わせるコスチュームの学園長が立っていた。今日のテーマは江戸時代の忍び・・・か。

「久しぶりよのう、蓮。まぁ、座れ。」

久しぶりとはいえ、以前、日本に来たばかりの頃は、学園長室に入りびたりだったために、中の豪華絢爛ぶりには慣れている。学園長のデスク前にある黒い革のソファに腰掛けながら、どうやって話を切り出そうかと考えていたら、

「で、今日は何の用件だ?」

と、即本題に入られた。普段はもっと俺の周囲についてや、長い間顔を出さなかった理由などを聞いてくるはずなんだが・・・。


・・・何かある・・・?


とりあえず、無駄なことを聞かれない方が自分の為だと思い、俺も単刀直入に学園長に用件を伝えることにした。

「LMEの音楽祭に歌手の不破尚が事務所を通じて参加を申し込んできたと聞きましたが、それについて学園長はどうお答えするのかと思いまして。」
「ふん。俺に断って欲しいのか?」
「そうです。」

俺がそう即答すると、一瞬目を見開いた学園長は、クククと笑い始めた。

・・・この笑い方・・・嫌な予感がする・・・。

「心配するな。もうすでに断っておる。」
「えっ?」
「なんだ、俺が了承すると思ってたのか?」

意外な答えにビックリして声が出なかった。学園長のことだから、てっきり万歳了承した挙句、音楽祭を不破の事務所が提供できる以上の豪華極まりないコンサート風に仕上げるのかと思っていたから。

「LMEも芸能事務所を持っていることを、あちらは忘れていたのかもしれんが、第一に、公私混合する奴は嫌いでな。」
「!!??」
「彼は初等部の女教師に未練があったようだが・・・違うか?」

・・・っな!?!?

この人の情報網は一体どうなってるんだ・・・?

「・・・ご名答です。・・・ですが、なぜそれを?」
「あのな、出身校でも無い、テレビ放映もされない学園内の音楽祭に、突如無償での参加を申し込んできた時点でとっくに怪しいんだよ。だから最上先生と言ったか?彼女をピアノ伴奏に指定してきた時点でピンと来た。緒方校長からの話だと、最上先生も彼のやり方にはうんざりしていた様子だったと言うしな。これは彼女に会うための彼の愚かな計画なんだろう。」

・・・さすが、するどい。

「それに・・・。」

と言いながら視線だけ俺に向ける学園長がニタァと笑う。それだけで話の流れがどこに向かっているのかが分かって、俺は退散したい気になってきた。

「お前、この間初めて遅刻したそうじゃないか。」
「・・・・・・誰だって遅刻ぐらいしますよ。」
「ふーん、毎日7時20分には職員室入りしてた奴でもか?」
「!!」

・・・情報内容が詳しすぎる・・・。出所は・・・社先生かそれとも琴南先生か・・・?

「同じようなことを初等部の緒方校長も言っておったなぁ。その渦中の最上先生は毎朝早くて、無遅刻・無欠勤の真面目な先生らしいが、お前が遅刻したのと同じ日に珍しく朝礼ギリギリに来た、とな。」
「・・・・・・・。」
「しかも彼女は最近自転車通勤ではなくて、誰かに送り迎えしてもらっているらしい。確か・・・赤い、ポルシェだったかな?」
「~~~~~っ。降参です。そこまで情報があなたの耳に入っているのでしたら・・・。」

がっくり頭を垂れる俺の耳に、クククとまたも嫌な笑い声が聞こえた。

「お前もとうとう人を愛せるようになったか・・・。クーには伝えたか?」
「いえ、・・・・というか必要ないですし。」
「まぁ、いいだろう。・・・で、お前の恋の経緯でも聞こうじゃないか!」
「それこそ必要ありません。用件は不破のことだけでしたので、今日はもうこれで失礼させていただきますよ。」

未だ含み笑いをしている学園長を横目に、俺はさっとソファから立ち上がり、ドアの方へと向かう。後ろから「結婚式は俺に任せろ!」と聞こえたが、無視しておいた。例の忍者装束の執事に挨拶をし、迎賓館を後にした。厄介な人に知られてしまった・・・と思いながら。

・・・・・・きっと明日にでも父さんからメールが、いや、電話が入るんだろう・・・。

どんなに熱狂したメッセージを聞く羽目になるのか・・・と少々うんざりしながら、ポケットから携帯電話を取り出した。そこに1着のメール・・・。送信者の名前を確認するなり、ついさっきまでのどんよりした気持ちがすーっと晴れていくような気がした。

『お疲れ様です。
 今日は6時に終業できそうです。
 もし敦賀さんがお忙しいようでしたら、
 DARUMAYAでお待ちしています。』

現時刻、6:40。彼女はDARUMAYAにいるだろう。俺は駆け足で喫茶店の方へと向かう。

きっと彼女はミルクティーを飲んでいる。店が暇なら女将さんと話しているに違いない。そんな彼女の姿を想像するだけで、心が軽く、甘くなる。


・・・早くたどり着きたい・・・

・・・早く顔を見たい・・・

・・・そして、できることなら、抱きしめたい・・・




◆◇◆◇◆



エレベーター (21)


(Side 尚)

祥子さんから話を聞いた時、俺は近くにあったゴミ箱をガンっと蹴っていた。俺だって、少々強引かと思ったけど、あちらにとっても損な話ではないと高をくくっていた。だって、この俺が、無償で、ちっぽけな学園の音楽祭に出演してやるっていう話だぜ?だから、思ってもいなかった。まさか、―――断られるなんて・・・―――

「・・・それで、尚。この件で、社長から呼び出されてるわ。・・・行きましょう?」
「はぁ?今からかよ?」
「ええ。」

その時の祥子さんの顔は、今まで一度も見たことが無いくらい真剣で、どこか覚悟を決めているような顔だった。でもその時の俺には、人の気持ちを察してやれるほどの余裕は無かった。


・・・これは・・・全て、キョーコの奴に会う為・・・。

・・・ステージで輝く生の俺を見せ付けてやりたかった・・・。

・・・また以前と同じように、俺しか見えない女に戻したかった・・・。


そんな俺の頭の中に、キョーコの言葉がこだまする。


“私の人生にもうあんたはいないの!”


・・・・・・冗談じゃないっ!

「・・・チッ。」

悪態をつきながら社長室に向かう。祥子さんが社長室のドアをノックしたところで、俺は大きな猫をかぶった。



「今日届いたLME学園からの手紙には正直驚いたよ、安芸君。」

そう言いながら1枚の紙切れを社長がデスクの上に置いた。こんな紙切れ1枚で俺の出演は断られたのか・・・!心の底から何かドロドロしたものが湧き上がってきそうだったが、そんな俺を冷静にさせたのは社長の一言と祥子さんの少し震えた声だった。

「この件に関しては許可は出していなかったはずだったのでね。」
「この度は・・・勝手な真似をし、申し訳ございません。」

・・・許可は出してない?・・・でも祥子さんは確か・・・!!

祥子さんに冷たい視線を一瞬だけ送った社長が、今度は俺の方を向いた。

「私の許可も得ずにアカトキの名前を使って、しかも出演料も無しに、寄りによってLMEの学園の音楽祭に出演とは、一体どういうことかね?訳を聞こうか?不破君。」

訳・・・と聞かれ、俺の頭の中に浮かんだのは「キョーコに“俺”を見せ付ける為」だったが、社長を目の前にして、そんな訳など話せるはずも無く・・・。被った猫を見透かされているような気分になる。

「・・・・・・っ。」

今更だけど、幼稚な理由だった、それを思い知らされている感じだった。そんな俺の動揺を社長は見抜いていたのだろう、フン、と鼻で笑って口を開いた。

「まぁいい。今回の件は公にはなっていない。そう問題にすることでもないだろう。だが、公私混同の末に「不破尚」という歌手を安売りし、その評判を落としかねなかった責任は重い。二人には反省してもらわねばならん。」

最後まで顔色を変えなかった社長が次に口にした言葉は、・・・処分。その内容を聞いて、俺は自分のしたことをひどく後悔することになった。



「失礼しました。」

社長室を出て、祥子さんの方へ向き直る。

「・・・ごめん、祥子さん。俺・・・。」

少し悲しげな表情を見せた祥子さんだったが、すぐにマネージャーの顔になった。

「いいのよ。私のせいだから。・・・でも今度付く新しいマネージャーさんを困らせちゃダメよ?」
「・・・・・・ああ。」

社長の言った俺たちの処分内容・・・。

俺には厳重注意だけだったが、祥子さんは3ヶ月の停職処分に加えて、不破尚のマネージャーも降ろされた。その上、俺たちの同棲も解消するように言われ、俺はアカトキが所有するマンションに移ることになった。

「・・・引継ぎ作業が終わったら、急いであなたの荷物をまとめて送るから。数日はどこかホテルにでも滞在してなさいね。」

俺と祥子さんは恋人・・・という訳ではない。仕事上、常に一緒にいるから、その延長で一緒に暮らしているようなものだ。身体の関係はあっても、心までは関係していない、大人の関係。だから、同棲の解消を命じられても、俺たちの態度はあっさりとしたものだ。・・・あるのは罪悪感のみ・・・。

エレベーターで階下に向かう途中、祥子さんがクスっと笑った。

「何だよ?」
「いえね、尚、あなた洗濯も料理も掃除もしないでしょ?一人暮らしなんてできるのかしら?・・・と思ってね。」

・・・そういえば、そうだ・・・。

すっかり失念していた。一人暮らしの経験・・・そういえば俺には無かった。

・・・・・・。

「・・・キョーコに頼んでみるよ。」

俺がそう答えた瞬間、祥子さんの冷たい声が聞こえた。

「尚、それはダメ。尚には悪いけど、キョーコさんはもう諦めなさい。」
「はぁ?何でだよ?あいつは俺の幼馴染で、俺の言うことは何でも―――!」

俺の最後の言葉は祥子さんの視線で止められた。それは俺を哀れむような、視線。

「キョーコさんはもうあなたの所には戻らないわ。尚、早く気付いて・・・。もう手遅れなのよ。」


・・・手遅れ?・・・違う!

・・・あいつは昔から俺のことだけを見ていた。

・・・あいつにとっては俺が全てなんだ!それは今でも・・・!


そう思って、気が付くと、俺はLME学園初等部の正門前に立っていた。

午後5時を回り、児童はいないし、陽も落ちかけて行き交う人も俺にはそうそう気付かないだろう。

と、そこへ、真っ赤なポルシェが正門近くにやってきて停まった。俺はまだ運転免許を持っていないから、この際免許を取って、そのポルシェのような良い車を買おう・・・。ポルシェを見ながらボーっとそんなことを考えていたところに、見覚えのある明るい髪色の女性がポルシェに近づき、助手席のドアをノックしていた。


・・・あれは・・・キョーコ!?


見たこともないような笑顔で助手席のドアを開けるキョーコ。どうやってそこまで駆けつけたのか記憶は無い。ただ、キョーコ!と叫んだ瞬間、俺はキョーコの腕を掴んでいた。

「松太郎!?どうしてここに!!??」

そこには、目を丸くさせて驚いているキョーコと、いつかどこかで見た気に食わない男がいた・・・。




◆◇◆◇◆



エレベーター (22)


(Side キョーコ)

―――朝、敦賀さんの腕の中で目が覚めて・・・

―――温かいまどろみの中、甘い時間を過ごして・・・

―――(食材が無かったので私の部屋に移動して)二人で朝食を取って・・・

・・・そして、初等部に着いて車から出た時、敦賀さんに言われたの・・・


「俺の家で一緒に暮らさないか?」


って。

あまりの嬉しさに声を出せないでいると、「考えといて?」とだけ言って、敦賀さんは車を出した。考えといて・・・って言われても、私はYES以外の答えを知らない。敦賀さんとずーっと一緒にいられるなんて、まるで夢のよう・・・。赤いポルシェが見えなくなるまで、ポーっとしていた。

その後、学校内でもポーっとしていて、敦賀さんと同棲し始めたら・・・と考えては、顔が緩んでしまうのを抑えるのに必死だった。

・・・ど、同棲だなんて・・・なんだか響きが・・・大人・・・。

同棲・・・ってことは、朝一緒に起きて、仕事に行って、一緒に帰宅して、一緒にご飯作って食べて、一緒に・・・ぁー・・・寝て・・・、それでもって休日もずーっと一緒・・・ってことよね・・・。ど、どうしよう!それってすごく嬉しいかも!!

仕事が早めに終わって、いつも通り敦賀さんに電話する。車に乗ったら、同棲の返事をしよう、そう決めていた。敦賀さん、喜んでくれるかな・・・なんて、またポーっと考えながら正門に向かっていた。それからすぐに敦賀さんの車が現れて、彼の車に駆け寄って、彼の優しい顔を見て、ドアに手をかけた。そこまではいつもと同じ・・・。でも・・・


「ショータロー!?なななんであんたがここに!?」


急に掴まれた右の手首が痛く、それに思わぬ人物の登場で、私は一瞬パニックになりかけた。

・・・なんでコイツがここにいるの!?仕事は!?・・・もしかしてまた待ち伏せされてた!?

パニックから少し冷静になった頭の中で、今度は怒りが湧き上がり始めた。・・・でも初めて見る、ショータローのひどく真剣で怒ったような顔を見て、右手をすぐに振りほどけなかった。

「・・・ちょっと来い。」

私を見ることもなく、ズンズンと逆方向に歩き出そうとするショータローにカッとなって文句を言おうとした瞬間、冷たい空気と共に冷たい声が背後から聞こえてきた。

「ちょっと待ってくれる?不破君。勝手に人の彼女を連れて行かないでもらいたいな。」

いつの間に車から出たのか、敦賀さんが腕を組んで車にもたれていた。その態度と顔は余裕たっぷりという感じで、でも、その笑顔は明らかに友好的なものではない・・・と久しぶりに嬉しそうに暴れる怨キョを通じて感じられた。

・・・敦賀さん、お、お、怒ってる・・・

すると、その敦賀さんの言葉に、未だ私の右手首を掴んだままのショータローが、すごい勢いで振り向いた。

「・・・彼女・・・だと??」
「そうだけど?」

相変わらず余裕の笑みで答える敦賀さん。すぐにショータローがこちらを向いた。

「・・・コイツ、お前の彼氏なのか?」
「そ、そうよ!」

そう叫んで、私の右手首を掴んでいたショータローの手の力が緩んだ瞬間、私は自分の手首を勢いよく取り戻した。その途端、後ろから長い腕に絡まれる。

「で?君はキョーコに何の用?」

私を囲うように、ショータローから守るように、敦賀さんが片腕だけで抱きしめてくれた。

・・・こ、こういうの、まだドキドキする・・・

勤務先前ということも、ショータローの前だということも忘れてしまいそうになっていた私は、ショータローが顔を歪ませていたことに気が付いてはいなかった。

「・・・俺は・・・俺はそいつに用があるんだ。お前には関係ない。」
「関係あるよ?キョーコの彼氏だしね。・・・君のことだ、どうせキョーコにまた家政婦になるように頼みに来たんじゃないのか?・・・もしくはそれ以上を望みに・・・?」
「・・・・!?」

自分の頭の上でバチバチと火花が散っている気がする。。。それに暗くなってきたとはいえ、さすがに人の目を集め始めた・・・!こ、これは早いとこ収拾させなくては・・!

「うるせぇ!これは幼馴染にしかわかんねぇことなんだよ。」

そう、早くこの場を去らなければ・・・と思うのに、そのショータローの言葉に、私は妙に冷静になった。散々尽くさせた挙句、自分から私のもとを去っておいて、連絡もよこさないで、それで自分の不都合ができたから再び私のもとに戻ってきた目の前の男・・・。

「・・・幼馴染・・・ですって?」
「・・・何だよ?」
「あんたと幼馴染だなんて、私はもう懲り懲り。幼馴染という名前を私に被せて、また昔みたいに私を都合よく使えると思ったら大間違いよ!」

ショータローの顔がショックを表している。でも、ここで同情して引いちゃダメ!敦賀さんとも言っていたもの。逃げてばかりじゃダメだって・・・いつか決着つけなきゃいけないって・・・。なぜか私を家政婦としてまたこき使おうとしているショータロー。それはもうできない。だって、私にはもう・・・。それを伝えなきゃいけない。彼に分からせないといけない。

・・・そして、今が、きっと、その時・・・。

「ショー、私は今、私の人生を歩んでるわ。そしてそれはあんたには関係ない。あんたの人生も私には関係ない。あんたしか見えてなかったキョーコはもういないの。」

ショックを隠しきれないショータローが辛そうに顔を背けた。そんな顔も・・・初めて見る・・・。

「・・・お前は俺との幼馴染の縁も切るつもりなのか・・・?」
「あんたが今のままなら遠慮なく切らせてもらうわ。」

その後しばらくショータローは下を向いたままだった。・・・そして、敦賀さんはずっと私の肩を静かに抱いてくれていた。なりゆきを見守るように・・・。私に勇気をくれるみたいに・・・。


「・・・分かったよ。」


そう呟いたショータローがやっと顔を上げた。少しだけどいつもの俺様なショータローの顔に戻ったようだった。

「何だかんだいっても10数年以上の付き合いだ・・・。幼馴染の縁だけは切られたくないから・・・な。」
「ショー・・・」
「心配すんな。もういい。もうお前に俺が必要じゃないのは分かったから・・・。でも、後悔しても知らねぇから。俺は芸能界のトップに立つ男なんだ。そんな男と縁を切ろうとしたこと、後悔させてやんよ。」

それは・・・昔のショータローの口調だった。強気で、勝気で、自信満々で・・・。だから私も負けじと言ってやった。

「やってごらんなさいよ!」

その後、フンと鼻をならしたショータローは、敦賀さんに何か言いたげな視線を送って、私達に背を向けた。



「はい、ミルクティー。」
「あ、ありがとうございます。」

コーヒーを持った敦賀さんがポスンと私の隣に座る。

「今日は・・・頑張ったね。」

何を・・・と聞かれなくても分かる。

「あれで・・・良かったんでしょうか・・・。ちょっとキツイことを言い過ぎたような気がして・・・」
「キョーコは優しいね。でも、あれで良かったと思うよ。厳しい言葉でも、十分君の優しさは伝わってたと思う。」

そう言いながら敦賀さんが私の頭を撫でた。・・・安心。どうしてこの人は、私をこんなにも安心させてくれるんだろう・・・。隣に座る敦賀さんをじっと見つめていると、コーヒー味のキスが振ってきた。

「それで・・・キョーコ・・・。」
「はい?」
「今朝の返事を聞きたいんだけど?」

・・・あっ!そうだった!それを伝えようとしてたんだ!


「あ、あの・・・で、では、合鍵をいただけますか?」


良かった!と言って、敦賀さんは私を抱きしめた。耳元で、嬉しい、とか、好きだよ、とか囁かれて、私も心満たされるような気持ちになって、敦賀さんを思いっきり抱きしめた。

「断られたら格好悪くなるところだったよ。だって、ほら・・・。」

そう言って敦賀さんはピンク色の封筒をポケットから出して、私に見せてくれた。



中には・・・キョーコの名前が入ったオリジナルの合鍵・・・。

しかもピンク色だった。

それに感激してウルウルしてきた私に、敦賀さんがまた囁く・・・。


「引越しはいつにしようか?」



第一部 -完-
作:ミス・ルイーザ様



月華です。
いかがでしたか?
この続き気になりますよね?
もうラストが近い気がしますね。
しかし、残念な事にミス・ルイーザ様が書かれるこのお話しは、ここまでなんです。
すごく残念です。
ご本人のブログでのお知らせでブログは閉鎖する事、短編や完結済みの作品はフリーとされるとの事、未完のお話しも続きを書きたいという方がいれば自由に持って帰ってよしとの事でした。
そこで、アホ犬月華、挙手。
無謀にもチャレンジを……。
だって勿体無いじゃないですか!!
でも書くのにはちょっと迷いましたね。
お読みの通り、もうラストも近い感じがしますよね?
しかし、貰っておいてすぐ終らせるって……それってなんかいい加減な感じしない??とか考えたり、エレベーターという基本ネタをドコにどう持っていくかとか考えたり、自分が書く蓮やキョコとのギャップに悩んだりしたわけです。
人様のネタですからね。
いい加減には扱えません。
好きで読んでいらした方にも申し訳ないことはしたくなくて、時間がかかりました。
自分なりに「だらだら書かない」「ギャップはなるべく埋める」「基本(テーマ)はぶれないようにする」「不自然ではないように心がける」「おかしな事はなるべくやらない(自信がないから”なるべく”苦笑。)」とお約束事をいくつか定め現在執筆中です。
ちょっとがんばってみます。
本当にお待たせしてすいません。

一応区切りは必要かと思いましたので、ミス・ルイーザ様のお話を第一部とさせていただきます。
続きは第二部として月華が書きます。
こんな私の駄作でもよろしければ、続きとしてお読みいただければ幸いです。
何卒よろしくお願いいたします。



月華



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エレベーター 15話~18話

ミス・ルイーザ様のお話しの続きです。
ぜひぜひ、どぞ。


◆◇◆◇◆



エレベーター (15)


(Side 蓮)


―――もっと・・・もっと・・・もっと欲しい・・・


不破の件のことなど頭からとうに消え去り、ただただ彼女に夢中になっていた。だが、そう思い始めた時、キュルキュル・・・という音と明るいライトと共に車が駐車場内に入ってきた。

その音に、ここがマンションの駐車場だということを思い出して、俺は貧欲に貪り続けていた最上さんの唇をゆっくり解放した。・・・が、彼女の顔は暗くても分かるほどトロンとしていて・・・。その表情にまた自分の欲を押し付けてしまいそうなのを堪えて、まだ理性が残っている間に最上さんに問いかけた。


「・・・最上さん・・・キョーコの気持ち・・・聞いていい?」


俺がそう尋ねてから彼女に反応があったのはしばらくしてから・・・。途端に顔を真っ赤にして俯いてしまった。それでも、彼女を囲うように、彼女の後頭部に回してある手は離さない。サラサラした少し茶色の髪の毛で遊びながら・・・。

「・・・俺のこと、どう思ってるか・・・とか・・・。」

すると、恐る恐る顔を上げた彼女が恥らいながら口を開いた。

「あ、あの・・・私、平日は毎朝・・・7時ちょうどに・・・家を出るようにしているんです。」


・・・・・・え?

・・・俺と・・・同じ・・・?


「・・・なぜだか、お分かりに・・・なりますか?」
「な・・ぜ?」
「・・・7時ちょうどに家を出ると・・・あなたに、敦賀さんにエレベーターの中でお会いできる可能性が高くなるから・・・、だから・・・私・・・。」


・・・信じられない・・・

いつ頃からだっただろう・・・。エレベーターの中で会う確率が急に上がったのを覚えている。でもあれは確か、数ヶ月も昔のこと・・・。そんな昔から、彼女は・・・いや、俺たちは、お互いを意識し合っていたのか・・・。

「クスクス・・・。」
「・・・えっ?敦賀さん?あの・・・。」
「キョーコ、知ってる?俺もね、7時ちょうどに家を出るようにしてたんだよ?なぜだか分かる?」
「・・・・!?」

運転席から更に身を乗り出して彼女を抱きしめた。華奢だけど温かくて愛おしい・・・。

「いつも7階からエレベーターに乗ってくる女性に心奪われてしまってね。」

彼女の耳にかかる髪の毛を手で押さえ、チュッとキスをする。

「その女性を一目でいいから会うために・・・。会えないと寂しくて・・・。」

耳元で彼女の鼻をすする音を聞いた。体を離して彼女を見ると、やはり、泣いていた。

「でも・・・、もうそんなことをする必要はないみたいだ。だって、今、俺の腕の中にその女性がいるから。」

彼女の涙を指でぬぐって、今度は軽く、でもしっかりとキスを落とす。

「好きだよ、キョーコ。」

キスの間閉じられていた目が、俺を見上げる。涙でいっぱいの瞳と共に、最高の答えが返ってきた。

「・・・わ、私も、好きです・・・敦賀さん・・・。」



時間にして車の中には1時間もいなかったのに、車から出るとストレッチをしたくなった。

・・・らしくもなく、緊張していたのか・・・

エレベーターは俺の駐車スペースから目と鼻の先。だけど、キョーコと手をつないで歩いた。二人でエレベーターの到着を待つ間も手をつないだまま。

なぜだろう・・・。手をつなぐ、なんて何の意味もないと思っていたのに、こんなにも嬉しいものだとは思わなかった。キョーコの小さな手を、俺が守っているような気がして、ささやかな優越感までをも感じる。

ぎゅっと握ると、横にいるキョーコが俺を見て恥ずかしそうに微笑んだ。それは思わずキスをせずにはいられないほど・・・。


―――――チンッ・・・


エレベーターに入り、俺はカードを使って15階を押す。でも7階を押す気にはなれなかった。


・・・離れがたい・・・でも・・・今夜はマズイ・・・


自分を止められる自信はこれっぽっちもない・・・。キョーコにキスをすれば最後。欲望のままに暴走してしまうだろう・・・。さすがにそれだけは避けたかった。気持ちが通じ合ったその日に、絶望されたくない。

・・・だけど・・・このまま「おやすみ」と言うだけで別れたくない・・・

そんな、おそらく無表情で葛藤していた俺の手を、キョーコがぎゅっと握ってきた。それに驚いてキョーコの方を見る。


「・・・7階・・・押さなくてもいいですか・・・?」
「・・・え?」
「私・・・、もうちょっと敦賀さんと一緒にいたい・・・です・・・。」


・・・あぁ、まったく・・・

・・・ど、どうしてくれよう・・・この娘は・・・


とりあえずドアを閉めて、真っ赤な顔をして俯くキョーコの手を握っていた手を離して、彼女の細い肩に回し抱き寄せた。そして反対の手で7階のボタンを押す。

「キョーコ、今夜俺の家に来たら、俺、自分を止められない。意味・・・分かるよね・・・?」

キョーコが少し頷いた時、7階でエレベーターが止まり、ドアが開いた。

「嫌ならここで降りて・・・。今なら帰してあげられるから・・・。」

キョーコの返事がNOでも、俺はそれを快く受け入れる余裕はある。でも返事がYESなら・・・?その時はもう自制心など一欠けらも残ってはいないだろう。でもキョーコの返事は・・・


「い・・・やじゃ・・・ないです。」


YESだった。

ドアが閉まり、恥ずかしげに俺を見つめるキョーコに、想いをぶつけるような荒々しいキスをする。


15階でエレベーターのドアが開くとともに、俺はキョーコを抱き上げた。


「キャッ!つ、敦賀さん!?」
「知ってる?アメリカでは、新郎は新婦を抱っこして新居に入るんだよ?」
「えぇ!?新婦って!?新居って!?」
「クスクス・・・でも、そうなるといいな・・・。」


その後、エレベーター前のホールに、敦賀家の玄関のドアが閉まる音だけが響いた・・・。




◆◇◆◇◆



エレベーター (16)


(Side キョーコ)

「・・・・・・・ん・・・。」

・・・鳥の鳴き声がする・・・

・・・朝・・・?・・・起きなきゃ・・・

・・・でも、素肌に触れるシーツが心地いい・・・それに・・・

・・・背中に感じる・・・温かい人肌も・・・・ぬくぬくだし・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・???


恐る恐る目を覚ますと、そこにはニョキーっと伸びたたくましい腕・・・。見たこともないカーテン・・・。自分の腰に巻きつく、これまたたくましい腕・・・。背中に感じる人肌・・・。すぐ後ろから聞こえてくる、私のではない、スースーという寝息・・・。

・・・・・・!!??

そして・・・何も着ていない自分。

・・・・・・あ・・・そっか・・・私、昨夜・・・

そのことに気づいた瞬間、目は覚めたのにそのまま動けない・・・。これからどうしたらいいのか分からない・・・。それに、頭の中に鮮明な映像として繰り返し浮かび上がってくる昨夜の情事・・・。

・・・・・・や、やだ、私ったら!思い出したりなんかして破廉恥・・・!

と、とりあえず服を探そうか・・・と思ったけど、ちょっと後ろを振り返ってみる。まだ寝てる敦賀さん・・・。

・・・・・・きれいな顔・・・まつげ・・・長いなぁ・・・

ほんの数ヶ月前までは、エレベーターの中で彼に出会うだけでも良かった。姿を見られただけでも満足だった。名前を覚え覚えられて幸せだった。少しずつ敦賀さんのことを知っていって、近づいて、でも、今、こうやって彼の腕の中にいる・・・ことがすごく不思議・・・。


・・・両思い・・・になったんだ・・・って、何か恥ずかしいっ!!


・・・でも・・・好き・・・大好きです、敦賀さん・・・


さ、今日も学校!支度しなきゃ・・・と甘くモヤモヤする頭にカツを入れるように起き上がって服を探し始めた瞬間、長い腕が私の体に巻きつき、そのままブランケットの中へ引き戻された。

「おはよう、キョーコ・・・どこ行くの?」
「お、お、おはようございます・・・。あ、あの、そろそろ仕度を・・・と思って・・・。」
「んー・・・まだ6時だよ?もうちょっとここにいて・・・?」

そう言う敦賀さんはまるで子供みたいで、私をギューっと抱きしめてきた。何だかくすぐったい気分・・・。こういうのを、甘えられてるって言うのよね?大の大人の男の人だけど、可愛い・・・って思う。だから、私の胸元で眠気眼をこする敦賀さんの頭をヨシヨシしてあげた。

・・・サラサラだぁ・・・髪の毛まで完璧だなんて・・・嫌味な人ね・・・

フフフ、と自然に出た笑いに敦賀さんが顔を上げた。

「・・・何笑ってるの?」
「い、いえ・・・何でもないです・・・よ?」
「・・・ふーん。」

し、至近距離・・・!昨日、キ・・・キスはたくさんしたとは言え、朝日の入る明るい部屋で、この顔の近さは照れちゃう・・・。

「キョーコ・・・おはようのキス・・・頂戴?」

でもそんな照れも長続きはしなかった。“おはようのキス”にしては長くて、濃厚なキスに、また何も考えられなくさせられちゃったから・・・。



「お、おはようございます!!」

時間ギリギリ!!間に合ったぁ~・・・。

「どうした?最上先生が朝礼開始ギリギリにやって来るなんて珍しい・・・。」
「あ、椹先生・・・。い、いえ、ちょっと昨夜・・・その、思わぬ夜更かしをしてしまいまして・・・。」

・・・って、敦賀さんのバカバカ~・・・!!あのまま、また・・・しちゃうなんて・・・・・・。。。


――――・・・キョーコ・・・朝ごはんはキョーコでいい・・・?――――


ダ、ダ、ダ、ダメ!!思い出さないようにしなきゃ・・・。じゃないと、私・・・きっと変な顔になっちゃう!!自分でも分かってる。顔がニヤついてることぐらい・・・。

・・・でも文句は言っても、私、ただただ嬉しいんだわ・・・


「・・・・では、これにて朝礼を終わりにします。」


・・・あ、朝礼・・・終わっちゃった。

昨夜と今朝のことで頭がいっぱいいっぱいの私は、朝礼の内容なんて一つも入ってなかった。しっかりしなきゃ!と顔を軽くペチペチと叩いて、朝礼の内容を百瀬先生からこっそり聞こう、と彼女の机に向かおうとした時、緒方校長に呼ばれた。

「あ、最上先生、ちょっと校長室まで来てもらえますか?あの、音楽祭のことで・・・。」
「あ、はい。」

若くして校長に大抜擢された緒方校長。裏では学園長の何らかの意図があるのでは・・・と囁かれているけど、見た目の儚げな物腰からは想像もつかないほど切れ者なのよねぇ・・・。学園長はそれを見抜いてたのかも・・・。

などと、思いつつ校長室に入る。

「そういえば、この後授業はありますか?」
「いえ、2時間目からですので大丈夫です。」
「そうですか・・・、あ、どうぞ掛けてください。」

そう言うと緒方校長が数枚の書類をテーブルの上に広げた。それを見た瞬間、私は言葉をなくしてしまった・・・。書類の右上に印字されている会社のロゴ、最後のページの直筆サイン・・・。それだけでこの書類がどこから来たのかが分かってしまった・・・。

「フフフ、驚かれるのも無理はないですよね?あの人気歌手の不破尚さんが、我が学園の音楽祭にゲスト出演して下さるなんて!」


・・・・・・ゲスト出演!?!?


「しかもノーギャラだそうです。不破さんはこの学園に何か縁があったようには思えないのですが・・・。」

・・・アイツにこの学園に縁なんてない・・・。あるとすれば・・・

「それでですね?最上先生をここにお呼びした理由なのですが・・・、」

・・・あるとすれば・・・それは・・・


「不破さんが、曲の伴奏者にあなたを指名してきているんです。」


・・・・・・・・・・私だ・・・・・・・・




◆◇◆◇◆



エレベーター (17)


(Side キョーコ)

「緒方校長!」
「は、はい!ど、どうしました、最上先生!?な、なんだか背後に黒いモヤモヤが・・・!?」


・・・アイツ・・こんな・姑息な手を使ってまで・・・

・・・私にまた家政婦を頼み込んでくる気なのかしらー!!??


「このお話、もうお受けされたのですか!?」
「い、いえ、昨日届いたばかりなので、まだ何も・・・。」
「ではお断りしていただけますか!?」
「ヒィ・・・・最上先生、落ち着いて落ち着いて!ぼ、僕・・・ちょっと・・・苦し・・い・・・。」


・・・はっ!!私ったら緒方校長に何を!?

ダメじゃない、私!久しぶりに発狂しそうになったりして!!と、とにかく緒方校長の周りを飛び回ってた分身達を呼び戻して、自分自身も落ち着かせて・・・と・・・。ふぅ・・・。

「・・・と言うのもですね、この音楽祭は学生のためのものなんです。そこにプロの、今やお茶の間のみなさんがご存知の人気歌手の方が来られれば、学生が主役のはずの音楽祭が台無しになってしまうと思うのです。」

音楽教師らしいコメントに、緒方校長も、まだゴホゴホ咳はしてるけど、納得してくれたみたい・・・。

「そうですね。僕も、ゴホッ、最上先生の言う通りだと思います。」
「では・・・。」
「しかし、かなり正式な書類ですので、一度学園長の方にもお知らせしておくつもりです。」

・・・え・・・?

ちょっと待って・・・。学園長って確か、面白いものはとことん面白くさせる人物と聞いているわ・・・。そんな人がアイツの申し出を知って、断るなんてするかしら・・・!?

「あ、もちろん、最上先生の意向も一緒にお伝えする予定ですので、ご心配なく。僕も最上先生と同意見ですしね。」
「はぁ・・・よろしくお願いいたします。」

・・・うーん・・・、何だか不安・・・



「キョーコ・・・?どうした?何かあった?」
「え・・・?・・・・あ・・・」

お迎えに来てくれた敦賀さんの車に乗ってから、私、無言だった・・・。

「ご、ごめんなさい、ちょっと考えごとを・・・。」
「・・・何考えてたのか・・・聞いてもいい?」

・・・敦賀さん・・・

そうだ・・・。敦賀さんには言わなきゃ・・・。アイツ対策でこうして送り迎えしてもらってるんだし・・・。

「・・・もうマンション着くし、・・・良かったら俺の部屋、来る?」
「あ、はい・・・そうです・・・ね・・・・」

・・・・・って、忘れてた!!私、昨日、敦賀さんと、あの部屋で、夜明けまで・・・!!そ、そうだった!や、やだ、何だか急に恥ずかしくなってきちゃった・・・!ど、ど、どうしよう・・・!

多分、私が赤くなって俯いちゃったから、敦賀さんが気を利かせてくれたんだと思う・・・。

「クスクス・・・大丈夫・・・。キョーコが乗り気じゃないのなら昨夜みたいにはしない(ように努める)から・・・。」

なんて言ってくれた・・・。それもちょっと恥ずかしいけど・・・。



7階で止まらないエレベーターに乗って最上階を目指す・・・。

・・・やっぱりこの部屋からの夜景は最高だなぁ。

昨日は敦賀さんに抱えられて、靴もはいたまま寝室に連れられていかれたから・・・・ってダメダメ!思い出しちゃダメ!


「窓際で何、百面相してるの?コーヒー、入れたよ。」
「あ、ありがとうございます。・・・あ、そういえば、夕飯はどうされますか??良ければ何かお作りしますよ?」

確か私の部屋に簡単なパスタでも作れる十分な材料があったはず・・・と立ち上がろうとして、ストンとソファに戻された。

「キョーコが何考え込んでたのかを聞くのが先。」
「あ・・・ん・・・」
「・・・じゃないとキスするよ?」
「・・・・・もうしたじゃないですか・・・。」
「クス・・・残念。・・・それで?今日何かあった?」

昨日、たくさんたくさんしたキスだけど、私まだ慣れない・・・。いつもドキドキして夢うつつ・・・。頭がボーっとしてしまう・・・。そんな自分の頬を少しペチペチして、

「えっと、実は今日、校長から知らされたのですが・・・。」

詳細を敦賀さんに話し始めた。




◆◇◆◇◆



エレベーター (18)


(Side 社)

その日、蓮が珍しく遅刻してきた。珍しく・・・というか俺が知る限り初めての遅刻。

何かあったのか・・・とは聞くまでもなく、遅刻して周囲の先生方や校長に一通り謝罪した後の蓮の顔を見て、俺は何となく悟ってしまった。そこに、俺と同じことを思っていたらしい琴南先生がやってきた。

「社先生、アレ・・・どう思います?」

くいっとあごと視線を一瞬だけ蓮に向けた琴南先生。対する蓮は自分のデスクで、光のもやに包まれているかのような柔らかな表情を称えて、答案用紙か何かを束ねている。

「最上先生とうまくいった・・・んじゃないかと俺は思うんだけど、琴南先生は?」
「同感です。キョーコにも後で確認しておきます。・・・それにしても甘々なのがただ漏れじゃないですか、アレ・・・。」

うん、確かにね。俺もあんな蓮の顔は初めてみるかな・・・。最上先生と夕食を一緒した時の甘々スマイルよりもスゴイな・・・。

「敦賀先生って、彼女ができるたびにあんな感じなんです?」
「プププ・・・。いや・・・多分アイツにとったらさ・・・。」


・・・初恋・・・なんだと思うよ・・・


と琴南先生にこっそり伝えると、

「またまた、ご冗談を。」

信じてくれなかった・・・。でも俺が蓮と知り合ってからの彼の恋愛歴を簡単に説明すると、琴南先生は愕然とした顔をしてヨロヨロと自分のデスクに戻り、何やら薬を飲んでいるようだった・・・。

・・・胃痛薬かな?(←頭痛薬)

っと、それにしてもアイツには一言言っておかないと。あれじゃ周りの女の先生方や女生徒に失神者が出てしまうな・・・。

「・・・蓮?」
「あ、社先生、おはようございます。あの今朝は・・・」

と、遅刻したことに対して謝ってきた蓮だが、その顔から罪悪感は全く感じられない!むしろ・・・ま、眩しい・・・!

「それよりもお前、その顔どうにかしろ!そんな顔じゃ、最上先生とうまくいったことがバレバレだぞ?」

あ、ギクリとしやがったぞ?コイツ・・・。

「何で分かったんですか・・・?」
「だから言ったろ?顔に全部出てる。顔がにやけ過ぎ。甘々過ぎ。鏡でも見て来い!」
「・・・コホッ・・・・敵わないですね・・・。気をつけますよ・・・。」

そうは言っても、初恋が叶ったばっかりだ。嬉しさや幸せを隠すのは無理だろうな・・・。

・・・保健の先生に警告しておこうかな・・・?

「まぁ、でも、良かったな、蓮。おめでと!」

あまり役に立たないであろう忠告をした後、自分のデスクに戻る間際にポンと蓮の肩を叩いて祝辞を述べた。そうしたら・・・

・・・ありゃ?もしや、コイツ、照れてる??

「あー・・・その、ありがとうございます・・・。」

・・・うわわわゎ!珍しいもの見たーー!!

ったく。恋は人を変える変える。・・・特にそれが大人になってからの初恋とくれば・・・な。



その日の夕方、職員室で残業をしているっぽい蓮を見かけた。

「お疲れ・・・うん、分かった・・・今から行くね・・・。」

あの顔からして電話の相手は最上先生だな・・・。夕飯にでも行くのかな?

「社先生、お先に失礼します。」
「おう、明日は遅刻すんなよ?」
「・・・・・・分かってますよ。」

・・・俺も琴南先生を誘ってみようかな?

すると、ちょうどそこへ琴南先生がもー!もー!言いながらやってきた。

「どうしたの?」
「あ、社先生。さっきからキョーコに電話してるんですけど、出ないんです。」

どうも琴南先生は最上先生を今夜食事に連れ出して、蓮とのことを尋問する気だったらしい。

・・・それは無理だよ、琴南先生・・・

「さっき蓮が最上先生に電話してたから、それで出られないんだと思うよ?一緒に夕飯に行くんじゃないかな?」

だから俺たちも一緒にどうかな・・・?って便乗したら「愚痴ってもいいのでしたら喜んで!」と、意外にもあっさりOKの返事が返ってきた!

・・・理由は微妙だけど、やった!



俺も幸せいっぱいの友達の恋にいつか便乗できればいいけど・・・

俺のは長期戦になりそうだな・・・






まだまだ続きますよ~。
では次の記事にてどぞ。

エレベーター 11話~14話

お待たせ致しましたイデュリスの城のミス・ルイーザ様より頂戴いたしました作品です。
ミス・ルイーザ様の作品は22話まであります。
一気にアップ致します。
お楽しみくださいませ。
※都合により数話を一記事にまとめてのアップとなります。ご了承くださいませ。
一つの記事がかなりのテキスト量になりますので、その都合上、レイアウト(行間等)も多少変更しております。(ルイーザ様お許し下さい。)


エレベータ(11~16話)
作:ミス・ルイーザ様



◆◇◆◇◆



エレベーター (11)


(Side 蓮)

俺は今・・・最上さんの部屋にいる。

「白い蛍光灯は苦手で・・・。」

という彼女の家には、いくつかのサイドランプが置かれており、それらが部屋のあちこちからオレンジ色の柔らかな光を照らし出している。確かに、オフィスみたいな白い蛍光灯よりも、この方がずっと落ち着く・・・。それでも、

・・・女性の部屋に入ったことはあるが、ここまで緊張したことはなかったな・・・。

そんな緊張をほぐす為にリビングルームを何気なく見回すと、最上さんのイメージと同じというか、白い家具にピンクのカーテン、手入れが行き届いている観葉植物など、“清楚”さを思わせられる。と、そこに最上さんがコーヒーカップを二つ持って来た。

「敦賀さんのお口に合うといいんですけど・・・。」
「ありがとう、いただくよ。」

最上さんも緊張しているんだろうか・・・。口数が少ない気がする。小さな正方形の白いコーヒーテーブルに隣り合って座る最上さんをチラっと見て、入れてもらったコーヒーを一口飲む。すると、最上さんの方から、俺が内心気になって気になって、どうやって聞き出そうかと思っていた話を切り出してくれた。

「あの・・・先ほどはお見苦しいところをお見せしてしまって、申し訳ありませんでした・・・。それに助けてもいただいて・・・。」

そう言う最上さんの顔は本当に申し訳なさそうだった。

「いや・・・気にしないで?・・・でも・・・あの男は・・・?」
「あ、アイツはただの幼馴染なんです。小さな頃からアイツの家に預けられていまして・・・。」

どうも最上さんの家庭の事情は複雑そうな感じで、「そう・・・。」としか言えなかった。

「でも、その幼馴染に何か強引に頼まれてたみたいだけど・・・大丈夫?」

昔のことや家族のことは聞かない方がいいと思って、さっきの出来事について聞いてみたら、途端に最上さんの顔が険しくなった。最上さんの家なのに、綺麗に正座をして、でも膝の上に乗せられた手が拳の形をしていて・・・。

「・・・私には・・・小さい頃からアイツが全てで・・・アイツが喜ぶことなら何でもやってきたんです。歌手になる夢を応援するために一緒に上京だってしました!大学生活の傍ら、必死で生活費を稼いで、何もかもをアイツのために尽くしてきたんです!それなのに、歌手としての人気が出てきてからは、家にも帰らなくなり、仕舞いには

『今まで家政婦ご苦労さん。もう京都に帰ってもいいぞ。』

って、ナイスバディーな美人のマネージャーさんの所へ行ってしまったんです!!」

最上さんのその告白に、俺は奴と最上さんの関係に少し動揺し、そして奴への怒りが湧き上がってくるのを感じた。だが、ふと最上さんの方を見ると・・・

・・・なんだろう・・・?何か黒いモヤモヤとしたものが最上さんの背後に・・・。

「・・・ところが、今日、どうやって私の新しい住所を調べたのか、のこのこやって来て、私に・・・また・・・家政婦になれ・・・と・・・。」
「・・・なっ!?」
「・・・アイツ!!一体何様のつもりーーーーーーー!!!!!」

・・・・・・!?!?

あの可憐な最上さんの顔からは想像できないほどの恐ろしい顔つきで叫びだし、それと同時に黒い空気がグルグルと部屋の中を回り始めた。テーブルの上のコーヒーカップは微かに振動しているし、窓もガタガタ揺れている!「一体何だ!?」っと思った瞬間、黒い空気がいきなりヒュッと最上さんの後ろに引っ込んで、真っ赤な顔の最上さんだけが残った。

「す、す、す、すみません!!!!・・・わ、私ったら何を!!」
「・・・い、いや、大丈夫だよ・・・。」

あんまりにも縮こまって謝る最上さんの頭を、動揺を隠しつつポンポンと撫でる。

・・・良かった…。いつもの最上さんだ・・・。それにしても・・・アイツ・・・。

「・・・最上さんはアイツと・・・恋人の関係にはならなかったの?」
「まさか!!アイツにとって私はただの家政婦でしたから!・・・そりゃ・・・振られるまではアイツが私の王子様なんだと思っていましたけど・・・。」

それを聞いて俺は少し・・・かなり安心した。失恋した最上さんには悪いけど・・・。

・・・あんな奴の恋人になんて、ならなくて良かったんだ・・・。

でも、アイツの最後の最上さんの叫び方・・・。あれは最上さんを家政婦として欲しているだけのものじゃない・・・。アイツも最上さんのことを心のどこかで想っているのか・・・?そうだとすると、かなり厄介な存在になりそうだ。

「・・・多分アイツ、これからも最上さんに会いにやって来そうだね。」

俺の言葉にハッとしたのか、最上さんが急に真顔になる。

「そう・・・ですね。来ると思います・・・。」

性格も行動パターンも分かっている幼馴染の最上さんが言うんだ・・・。きっとそうなんだろう。

・・・どうしたものか・・・。

そこに、俺にとっても最上さんにとっても得になるような名案が浮かんで、最上さんに伝えようとすると・・・。

「でも、でも、例えアイツに住所がバレてても、引越しはしたくないんです。それだけは避けたいんです・・・。」

と、悲痛な顔で訴えてきた。

・・・最上さんがここから引越す・・・?そんなことはさせない・・・!

「引越すのは逃げるのと同じだよ?・・・彼はまた来ると思う。君を家政婦か、今度は・・・恋人にするために・・・。」
「・・・そんなの・・・絶対嫌です・・・。」
「うん。彼にきちんとケリをつけなきゃね。」

その俺の言葉に最上さんがじっと俺を見つめてきて、頼りなさそうな、でもしっかりとした意思を感じられる顔で頷いた。


・・・最上さんを・・・アイツになんか絶対返さない。渡さない。


「・・・大丈夫。俺がそばにいるよ。」
「・・・え?」


「いいアイデアがあるんだ・・・。」


・・・最上さんにとっても、俺にとっても・・・。



◆◇◆◇◆



エレベーター (12)


(Side キョーコ)

「先生~!さっきの車カッコいいね~!」
「あれ、“外車”って言うんでしょ~!?」
「先生の彼氏の車ー!?」

・・・ううう…。敦賀さんってば…。だから裏門でってお願いしたのにぃ…。

「か、彼氏ではないのよ?高等部の先生をしてらっしゃる人で、たまたま乗せて来てもらったの。」
「えー?俺もあの車乗りたいー!」
「先生、今度は俺も乗せてって頼んでよー?」
「私も私も~!」

・・・ホッ・・・。運転している人よりも車に話題が飛んで良かった・・・。

大人の事情を知らない子達ばっかりの初等部の先生してて良かったわ・・・。それにしても、明日からはちゃんと裏門で降ろしてもらわないと、毎日これじゃ、たちまち校内の噂になっちゃうわね・・・。

・・・でも・・・毎日敦賀さんと会えるのは、すごく嬉しいかも・・・。



昨日、敦賀さんが提案した、アイツ、もといショータローに会わないようにするための案は、毎日敦賀さんが私を送り迎えする、というものだった・・・。



「このマンションはセキュリティーが頑丈だから、エレベーターに乗ってしまえば安心だよね。アイツがやすやすと君の部屋の前までやってくることはないと思うけど、今日みたいなことがあっても心配だし・・・。どうかな・・・?」

…と言われたけど、始業時間は同じでも終業時間は曜日によってまちまちで、敦賀さんに合わせていただくの申し訳ないと思って断ったら…。

「最上さん、俺は部外者かもしれないけど、今日みたいなことは二度と起きてほしくないんだ・・・。」

…って、真剣な目で言われたら、断ることなんてできなくて…。

「それに、万が一アイツが地下駐車場に現れても、俺が一緒にいるし、彼の勝手にはさせないつもりだよ?」

それでも、まだ申し訳ない気持ちが強くて…「はい。」と頷くことができないでいると…、しばらくの沈黙の後・・・、

「・・・俺、・・・そんなに頼りないかな?」

…って、悲しそうな笑顔でつぶやかれて・・・!つい思いっきり叫んじゃったの・・・。

「そ、そんなことありません!敦賀さんはすっごく頼りになります!!」
「はい。じゃぁ、決まりだね!毎朝7時に迎えに来たのでいいかな?帰りは終業したら俺に連絡くれる?すぐに迎えに行くよ!週末はどうしようか?どこかに出かけるなら俺も同行するけど?特に用事はないしさ。車もあるし、買い物には便利だと思うよ?それに・・・・(以下省略)。」

・・・敦賀さん、本当に私なんかのことに一生懸命になってていいのかな・・・?

しかもあの後、敦賀さんったらショータローの写真をコンシェルジュの人に持っていって、『要注意人物』指定してたし、ショータローを含む不審な訪問者に対しては“このマンションに最上キョーコという人物は住んでいない”ことにしたし、何だか対応が早くて、しかも徹底的だった・・・。

・・・私もショータローには会いたくないからいいけど・・・。でも毎日送り迎えだなんて・・!

やっぱりまだ申し訳ない気がするな~と思いながらも、一日の始まりと終わりに敦賀さんに会える…と思うと、何でもない平凡な日が特別に感じた…。陽が傾きかけるとお迎えのことを考えちゃってドキドキして、仕事が片付くめどが立つと、そのドキドキが一層増した。

そして結局音楽祭の準備などをして6時に仕事終了。もう外は暗く、校内には児童は一人もいない。職員室を出て、恐る恐る携帯を取り出し、初めてかける相手のボタンをドキドキしながら押した。

・・・深呼吸、深呼吸・・・


Rrrrrr・・・Rrr


「こんばんは。お仕事終わった?」

・・・っ敦賀さん、電話に出るの早!

「は、はい!今終わりまして…。」
「じゃぁ、正門で待ってて?すぐ行くから。」
「わ、わかりました。」

・・・き、緊張したぁ。

携帯を閉じる手までがドキドキしてて・・・。でも、心はワクワクしてる・・・。正門までの足取りが浮いてるし・・・、軽く唇に無色のグロスを塗ってみたり、髪の毛を整えたりして・・・。これはショータローに会わないための“策”なのに、私、まるでデートにでも行くみたい・・・。

・・・やっぱり不謹慎よね・・・って、デートもあり得ないでしょ~!彼女でもないのに~!

と、いろいろ考えていると、角から見覚えのある赤いスポーツカーがやってきた。

・・・敦賀さんだ・・・。

「お待たせ。さぁ、乗って?」
「お、お願いします…。」

車に乗って、すぐ気づくのは、敦賀さんの匂い・・・。香水かな・・・?

・・・何だか落ち着く・・・。このままずっと乗っていたい気分・・・。

恋心に酔いそうになりかけた時、隣から優しい声が聞こえてきた。

「最上さん、どこか寄りたい所とかある?」
「いえ、今日はもう特には・・・。」
「そう…。・・・もし良かったら、夕飯でも食べに行く?」

敦賀さんにそう言われて、私は一気に舞い上がってしまいそうだった。すでに私達のマンションが前方に見えてきていたから、まだ…帰らなくていい…、もう少し…敦賀さんと一緒にいられる、と思うと嬉しくて。

・・・人間って、こんなにも急に嬉しくなれるものなんだ・・・。

「はい!それはいいですね!どこに行きましょうか!?」



◆◇◆◇◆



エレベーター (13)


(Side キョーコ)

「ここの目玉焼きハンバーグはおススメですよ!?」
「じゃぁ、俺もそれにするよ。」


可愛いカントリー系に統一された店内。モー子さんと一緒に来たときに、一目ぼれしちゃったのよね。料理も美味しかったし!・・・でも敦賀さんはこんな雰囲気のお店、本当に大丈夫だったのかな?

・・・『蛙の姿焼きが食べられるお店がいい』…なんて言うから、思わずここを紹介しちゃったんだけど・・・。

「最上さんはここによく来るの?」
「時々です。いつもモー子さん・・・ぁ・・・琴南先生と一緒に。」
「そうなんだ。最上さんの好きそうなお店だよね?」

小さめのテーブルの向こう側に座る敦賀さんが近くて、心臓が壊れちゃうんじゃないかと思うほどドキドキしっ放し。私だけに向けられる優しい笑顔が素敵で…、ちゃんと上手に話せているのかが分からなくなるぐらい・・・。

無難な会話のトピックといえばやはり学校のことで、教師らしく「教授法」とか「生徒の心のケア」とか、教育現場のことをいろいろ話していたら、ジュージューという音と共にお料理が運ばれてきた。

「美味しそうだね。」
「味も保障しますよ!?家で真似て作ってみるんですけど、やはりココのが一番ですから!」

普通のハンバーグに目玉焼きを乗せるだけ・・・と思ってたんだけど、本当に味が違うのよね・・・。ハンバーグのタネが違うのかなぁ~・・・。それとも鉄板がいいのかな~・・・。と思いながら、ハンバーグを食べ始めた。

「うん、最上さんの言うとおり美味しい。・・・でも、今度は最上さんオリジナルのを食べてみたいかな。」
「それならば、いつでも!敦賀さんのために腕によりをかけて作りますから。」
「・・・・・・・・・うん、よろしくね。」

・・・??

・・・一瞬敦賀さんが無表情になった気がしたけど・・・気のせいかな?



「あ・・・敦賀さんは何かデザート食べられます?ここのデザートも一押しですよ?」

食事も終わり、あのダイエットに厳しいモー子さんでも、ここのデザートは絶対食べるんですよ~・・・と言いながら、テーブルの端に置いてあるメニューを取ろうとしたら、

「デザートは別のところで食べたいんだけど・・・いいかな?」

そう言う敦賀さんは艶っぽい顔で、片手に車のキーを握っていた・・・。その表情に、ずーっとドキドキしてた心臓が、より高くドキンッって跳ね上がったのが分かった。

その後、送り迎えをしていただくお礼に・・・と私が支払おうとしたけど、全然聞く耳持たずで、渋々敦賀さんの車に乗り込んだ。

「・・・あ、あの、ご馳走様でした。」
「気にしないで?」

・・・敦賀さんは優しい・・・。

その笑顔も、声も、頭にポンポンと感じる大きな手のぬくもりも、みんなみんな、私をほんわかとした気分にさせてくれる。冷めることのないぬるま湯に浸かっているような、そんな感じ・・・。だから、そこから出たくない・・・そう思ってしまう・・・。

静かな車内で、流れる景色にぼーっと目をやっていた。時折敦賀さんをチラっと見るんだけど、あんまりにも横顔が綺麗で、見とれちゃいそうになったから、意識して視線を外にやっていた。そして気づいた。

・・・?あれ?この方向って・・・?

「・・・敦賀さん、あの・・・マンションに戻るんですか?」

私がそう尋ねた時には、もうマンションの駐車場の前で・・・。

「・・・戻りたくなかった?」
「い、いえ、そう言う訳では・・・。あの、別のお店に行くと思ってましたから・・・。」

敦賀さんが無言で駐車場に車を止める。一つ、ため息をついて、ゆっくり私の方へ顔を向けた。・・・真剣な顔・・・。

「・・・最上さんが、安全に逃げられるように・・・ね。ドアにロックはかかってないから・・・いつでも出られるよ。」
「・・・?・・・敦賀さん・・・?あの、おっしゃてることが・・・」

・・・逃げる?・・・ロック・・・?

敦賀さんの言っている意味が分からなくて、敦賀さんの私を射抜くような目にとまどって・・・動けない。そこに、ゆっくりと敦賀さんの手が私の顔にそっと触れる。その手の親指が・・・私の・・・唇をスーッとなぞった。



「・・・俺が欲しいデザートはこれ・・・。何故だか分かる?」



・・・!?

・・・私の・・・唇・・・?

「・・・な・・ぜ?」

声が・・・震える。でも敦賀さんから目が離せない・・・。すると、フッと敦賀さんが目を伏せた。その目が再び開けられた時には、見たこともないような、真剣な敦賀さんがいた・・・。



「君のことが・・・好きだから・・・。最上さんのことが好きなんだ。」



・・・え・・・?・・・頭が真っ白・・・・・・心臓・・・止まってる・・・?。

・・・私・・・今、敦賀さんに告白された・・・??

「・・・嫌なら言って?」

その瞬間、私の頬に添えてある手に力がこもるのが分かった。手だけじゃなくて、敦賀さんの体も、顔も・・・。


・・・敦賀さん・・・

・・・嫌・・・じゃない・・・


近づいてくる敦賀さんの顔をどこまで見てたのか、記憶はない・・・。


途中で目を閉じたから・・・。




◆◇◆◇◆



エレベーター (14)


(Side 蓮)

――――マンションのコンシェルジュからメールが入ったのは5時頃。


『敦賀様ご指定の人物が、最上様を訪ねてこちらへいらっしゃいました。
 該当者無しとお伝えしましたところ、非常にご立腹されたご様子で退出されましたが、
 その後すぐ、今度は安芸と名乗る女性が最上様を訪ねて来られました。
 こちらの方にも該当者無しと同じようにお伝えしておきました。』


・・・・・やはり今日も来ていたか・・・。


最上さんの幼馴染で、昔の同棲相手、不破尚。アカトキエージェンシーの期待の新人歌手。今まで発売されたシングル・アルバムは全てオリコンTOP5入りしている。ざっと調べてこんな感じだが、そんな有名な彼が、なぜ芸能人でもない最上さんに固執するのか・・・。しかも都心から離れたこの町に、忙しいはずのスケジュールの合間を縫って最上さんに会いに来る理由は・・・。答えは簡単だ。

・・・彼も、最上さんのことが好きだからだ。

安芸という女性は、恐らく不破の連れ。…マネージャーか何かだろう。不破だけを要注意人物の対象にしなくて良かった。この先、不破はあらゆる手を使って最上さんの近辺を詮索するだろう。琴南先生にも協力してもらおうか・・・。

・・・不破の奴、その内LMEの初等部にも来そうだな・・・。

しかし、逃げてばかりじゃ何の解決にもならない。最上さんは不破と決別するなり和解するなりしないと・・・。っと、それは最上さん次第だし、俺が口を挟む権利は無いのだが・・・。

今夜、送るついでに少し話してみよう・・・。



最上さんが車に乗り込むと、いつもフワっと良い香りがする。それは香水などではなくて、シャンプーの匂いか何か、鼻先をくすぐられるような甘い香り。いつものように清楚な洋服や、可愛い笑み、それに…グロスで艶のある唇・・・。じっと眺めていたいのを我慢して、アクセルを踏んだ。

不破に対する最上さんの気持ちを聞かないと・・・と思っていたのに、最上さんが隣にいるというだけで気持ちが浮き上がり、不破のこと自体、頭から消え去っているようだった…。

・・・もっと、このまま、最上さんと一緒に・・・

「・・・もし良かったら、夕飯でも食べに行く?」

運転中だったから、よくは見えなかったけど、最上さんはとても嬉しそうだった。お腹が空いていただけなのかもしれないけど、元気な声で「それはいいですね!」と返してくれた。

・・・うぬぼれかもしれない・・・。

前々から思っていることがある。俺は最上さんに嫌われてはいない。むしろ好かれているはずだ・・・。そうでなければ、俺の部屋に来たりはしなかっただろうし、俺を部屋に呼ぶこともなかっただろう。・・・ただ、その「好き」がどういう色合いを持っているのかは・・・正直分からない・・・。分からないが、いつも俺の好きなように解釈してしまう。

今だって、“敦賀さんのために腕によりをかけて…”だなんて言ってくれている。その頬はにわかにピンク色だ・・・。


・・・期待・・・してもいいんじゃないか・・・?


その時、俺は・・・覚悟を決めた。・・・最上さんに告白しよう、と。



デザートなんて口実。マンションに帰ってきたのは、・・・万が一断られても、気まずい時間が少しだけになるように・・・という情けない理由から。最上さんが逃げ帰れるから、だなんて格好いいこと言っておいて、実際は自分の為だったりした。

しかし、最上さんの頬や、親指から伝わる柔らかい唇の感触に、後ろ向きな自分はとうにいなくなっていた。最上さんが好きで、好きで、どうしようもない、余裕のない俺だけが残っていた。それを落ち着かせるために、一瞬間を置いて・・・、

・・・俺は、生まれて初めて、告白というものをした。


「君のことが・・・好きだから・・・。最上さんのことが好きなんだ。」


誰もいない薄暗い駐車場、車の中という密室、伝えたばかりの愛の言葉、愛しい彼女の頬にかかる自分の右手・・・。

拒否の言葉は出てこない・・・

拒否の態度も見られない・・・


「嫌だったら言って?」


体を少し最上さんの方へ回して、近づく。すると、ずっと逸らされなかった彼女の大きな目が、少し震えながらもゆっくり閉じられていった。


・・・最上さん・・・


最初は・・・唇を重ねあうだけのキス・・・

次は・・・可愛い彼女の唇をついばむようなキス・・・


「好きだよ・・・キョーコ・・・」


初めて名前を呼んで、ますます止められなくなった・・・。


キスは次第に深くなっていった・・・





続きも次の記事にてどうぞ。


エレベーター 6~10話

お待たせいたしました。
エレベーターの続きです。
イデュリスの城のミス・ルイーザ様作品です。
ちょっと最近仕事で自分の記事がアップできません。
自分のブログなのに人様の記事で更新つなぐってナニ?
でも、エレベーター読みたい方はいると思いますし。
それにのっけないと、自分も続きかけないし。
そんな訳で人様の記事でのブログ更新。
自分の記事での更新ではないあたりが、情けない。

でもオススメの作品なので楽しんでください。

ではどぞ。





エレベーター (6)

(Side 社)

「社さん、今夜夕飯でも食べに行きませんか?」

いやいや、珍しいこともあるもんだ、と驚いた。
昼食もろくに取らないあいつから夕飯の誘いがあるなんて。
しかも「琴南先生も誘っておきました。」とケロっと言いやがった!
こいつももしや琴南先生を!?・・・・・・と1日中疑っていたんだけど、夕方、琴南先生に呼ばれて衝撃的な事実を知った。

「・・・・・・ということで、敦賀先生はどうも私のし、親友・・・にホの字みたいなんですよね。」
「それで、あいつ最近出勤が早かったのかぁ。」

プププ・・・!あんな顔して、案外、意外、ウブなところもあったんだ!



―――蓮と出会ったのは大学時代。

俺が大学3年の時に、アメリカで高校を2年スキップした奴が大学に入ってきたって聞いて、どんな奴かと見に行ったのがきっかけ。
友達と食堂に行ったら17歳とは思えない大人びた長身の奴が、大勢の女の子に囲まれてて、見るからに困ってて、でも他の男達は助け舟も出せなくて・・・。
だから、俺が助けに行ってやったんだよね。

「ちょっと、みんな悪いけど、俺、そいつに用があるから離れてくんない?」

あの時の女の子の視線とか表情とか怖かったな・・・。
ま、それはともかく、俺のちょっと(?)特殊な体質でもって蓮を助け出した訳なんだけど。

「大丈夫か?・・・って日本語分かるよな?」
「はい、・・・助かりました。ありがとうございました。」

そう言った蓮の顔は、なぜかひどく申し訳なさそうな顔で、見た目は大人でも、まだやっぱり17なんだな…と思わせられた・・・。
その後はいろいろ気にかけてやったせいか、学年が違っても一緒にいることが多くなっていったんだけど・・・。

「おまえってさ、女に興味ある?」

容姿に似合わず特定の彼女とか作ってる気配がないし、どこかに誘われてもやんわり断ってるし、ひょっとして・・・と嫌な考えにたどり着きそうになったある日、思い切って聞いてみたんだよね。

「ありますけど・・・。」
「なんだ?何か悩んでんのか?」
「・・・・・・告白されて付き合っても・・・なぜかすぐに振られるんです。」
「はぁ!?お前が!?」

俺は相当驚いた。
こいつを振る女がいるんだ!と。
・・・でもカラっと笑う蓮を見た時、何かが違う・・・と思った。
普通の振られ続ける男とは何かが違うような・・・。
そうだ!しいて言うなら・・・

「でもお前は未練とか全くなさそうだな。」
「・・・・・・・ミレン・・・・って何ですか?」
「あ、そっか。お前帰国子女だったっけ。未練って言うのはな、心残りだ。例えば別れた恋人のことをいつまでも想っていたり、あきらめきれなかったり・・・さ。」
「・・・・・・・。」
「・・・ないんだな?」

その後、黙り込む蓮に対して根気よく事情聴取を執り行った結果、恋愛レベルがゼロということが判明した。
17だし、しょうがないとは思っても、これだけの容姿を持ちながら恋愛下手、というか恋愛の仕方が分からないってのは、確かに致命傷だよなぁ。
女の子が去っていくのも頷ける!



そんなこんなで仕事場も一緒になるほど交友は続いてきた訳なんだけど、その間も誰一人として蓮と長続きする女性はおらず、ここ数年は蓮も面倒くさがって、あの顔で!彼女いない歴6年が樹立しようとしていた。
だから、その蓮が、しかも蓮の方から誰かに惚れてるっていうニュースが衝撃的で、しかも惚れた後の行動っぷりが思春期の男の子並みで爆笑物だった。

・・・いやぁ、お兄さんは嬉しいよ!ちょっと笑えるけど・・・。



「・・・ちょっと!社先生!?聞いてます!?」
「え?あ、あぁ、聞いてるよ。」
「だから昨日の今日で、行動早すぎますよね?今夜の私は敦賀先生にとっては餌ですよ?餌!」
「うーん・・・まぁ、そうなるねぇ。」

そんなウブなあいつが琴南先生を餌にしてまでおびき出させたい、その最上先生とやらはどんな人なんだろう・・・?

「私は餌になるのはまっぴらゴメンですから、社先生も協力してくださいね!」
「えっ?協力って何を・・・?」
「何って・・・、あの2人をくっつけることに決まってます!」

・・・琴南先生・・・怖い・・・。



・・・で、俺たちはお洒落なイタリアンレストランの個室にいるわけだけど・・・。

ここに来る前に自己紹介してくれた最上先生は、一見大学生かと思うほど可愛らしい人で、礼儀も正しいし、所作もきれいで、蓮が惚れるのも分かる!うん!
・・・そして、その向かい側に座る蓮が問題!
何あの顔!?何あの笑顔!?
俺、こいつのこんな顔見たことないしっ!!
もう最上先生への愛がただもれ状態!

・・・こいつ・・・心底嬉しいんだろうな・・・。

俺の向かい側に座る琴南先生も顔が引きつってる・・・!!

「琴南先生、顔!顔!」
「はっ、すみません。見慣れない物を見てしまったせいで・・・。」

俺たちが小声で話してても何にも気にしちゃいない2人・・・。
・・・ん?もしや、最上先生もまんざらでもない??

「琴南先生、この後のことなんだけど・・・。」
「はい、食べるだけ食べて、私たちはどこかへ消えましょう。」
「・・・了解。」

・・・なんだ、蓮。
お前の一方通行かと思ってたけど、どうやら脈はありそうだな。

自分からモーションかけたことがないであろう蓮が、どうやって最上さんを獲得するのか興味あるけど、それはまた月曜日にでも聞くとして。
俺はせっかくの琴南先生と二人きりのチャンスを上手に生かそうかな!

・・・頑張れよ、蓮!



◆◇◆◇◆



エレベーター (7)


(Side 蓮)

最上さんをエレベーターの中で初めて見かけて、
エレベーターが7階で止まることを願うようになって、
7時に家を出るようになって、
目が合うようになって、
挨拶するようになって、
少しだけど会話をするようになって・・・。

・・・だから今こうして目の前に最上さんがいて、一緒に食事していることが、少し信じられない。

仕事着ではない、薄い灰色のニットワンピースが似合ってて、
くるくる変わる表情が可愛くて、
話をしていると心が和んで、心地良い。
正直、料理が美味しいかどうかなんて気にならなかった。



「それじゃ、俺たちは帰るよ。」

多分気を遣ってくれたんだろう。
琴南先生と社先生は電車で帰ると言い出した。

「蓮、最上さんをちゃんと送ってくんだぞ!」

という社先生だが、ガッツポーズとやらをしている・・・。
週明けに遊ばれそうだな・・・。
その横の琴南先生とくれば、その表情だけで何が言いたいのかがよく分かった・・・。
親友思いだからな。。

そして・・・俺の横にいる最上さんは・・・

「すみません、敦賀さん。ご馳走になった上に送っていただけるなんて・・・。」

・・・あぁ、その顔・・・反則だよ・・・。

「気にしないで?同じマンションだし、当然だよ。」



今度は社先生ではなくて最上さんが助手席に乗った。

「右側の席に座るのに運転しなくていいって、変な感じですね!」
「クス、そんなものかな。」

マンションまで車で20分ほど。
二人っきりの時間が妙にくすぐったい。

「今夜は楽しかったですね!お店もお料理も素敵でしたし!」
「喜んでもらえて嬉しいよ。また皆で行こうか?」

俺としては最上さんがいればそれでいいんだけど。

「はい!楽しみにしてます!・・・あっ、でも・・・」
「何?」
「今夜は敦賀さんだけお酒飲まれてないですから、悪いような気がします。」
「クスクス、大丈夫だよ。家でも飲めるしね。」
「でも、今度は電車で行きましょうね!」
「ありがとう。」

レストランでいろいろ話した後なのに、マンションに着くまで会話は途切れなかった。
だからか、20分そこそこのドライブはあっという間に終わってしまった。



―――マンションに到着。



車を降りて、エレベーターへと向かう。
エレベーターに近づくにつれ、無性に寂しさを感じる自分がいた。

・・・もっと最上さんと一緒にいたい・・・。

「・・・何だか、楽しい時間はあっという間に過ぎちゃいますね。」
「そうだね。・・・寂しい?」
「正直に言うと少し・・・。一人暮らしのせいもあると思うんですけどね。」

・・・・・・。

「あのさ、最上さんさえ良ければ、俺の・・・家に来る・・・?」
「・・・え?」

―――――チンッ・・・

エレベーターが地下に到着し、ドアが開いた。
・・・が、二人とも顔を合わせたままで、足が動かない。

「あ・・・乗ろうか?」
「あ、は、はい・・・。」

最上さん、戸惑ってる・・・。
やはり、一人暮らしの男の家に誘うなんて、非常識だったか・・・、と自分が口にしたことを猛反省し、これ以上警戒されないように、7階のボタンを押そうとした。
すると・・・最上さんの腕が、ボタンを押そうとしている自分の腕を止めた。

「あ、あの、7階・・・は押さなくても・・・いいです!」
「・・・え?」
「お邪魔・・・しちゃ、ダメです・・・か?」

その時・・・、俺がどれだけ自分を抑えに抑えたか、最上さんは知らない。
誰もいないエレベーターという密室の中で、抱きしめて、キスをして、そのまま抱き上げて自分の部屋へ連れて行きたい・・・。
そんな最上さんの意思を完全に無視した俺の欲望を、君に見せまいと必死に普段の自分を作り上げていた。

「邪魔だなんて、とんでもない・・・。大歓迎だよ。」



この夜、エレベーターは7階を通り過ぎていった・・・。



◆◇◆◇◆



エレベーター (8)



―――ふわふわと夢心地・・・

―――ドクドクと高まる緊張感・・・

―――気を抜けば一気に衝動にかられそうな…俺の心

相容れない感情が己の中をぐるぐると混ざり合ってうずめいている。



・・・俺の、俺だけのテリトリーに、今、彼女がいる・・・。



「わぁ・・・!想像はしていましたが、まさかこれほどまでとは思いませんでしたよ、敦賀さん!!」

壁一面がガラス張りになっているリビングルームに入るなり、窓際へ駆け出して夜景を眺め始めた彼女・・・。

「都心から明かりがブワ~っと流れてきているみたいで、とっても綺麗・・・。」
「ここは少し高台だからね。そう階があるマンションじゃないけど、眺めは最高だよ。」

さりげなく彼女の隣に立って、夜景を見る振りをして彼女のほうへ視線をやると、よほど嬉しいのか、目をキラキラさせて夜景に見入っていた。

「クスクス、気に入った?」
「・・・あ、はい!とても!お家の広さにも驚きですが、夜景は驚きを超えるほどにすばらしいですね!こんな所に住んでらっしゃる敦賀さんがうらやましいです!」
「・・・・・・クス、大げさだよ。でも最上さんが良ければいつでも遊びに来て?」

“なら・・・一緒に住む?”という言葉が出掛かってたことは内緒・・・。

「さて、何か飲む?お酒でもいいけど・・・。」
「あ、・・・ではお言葉に甘えてコーヒーをいただいてもいいですか?」
「了解。ソファでゆっくりしてて?」

自分はウィスキーにしようかと思ってたけど、最上さんのために入れたコーヒーの香りに誘われて、結局自分にもコーヒーを入れた。
彼女はきっとミルクも砂糖もいるだろう・・・。

・・・いつもは何も感じない夜景やコーヒーが、今夜は特別に感じる・・・。

リビングに戻ると、最上さんはまだ夜景を眺めていた。

「そんなに気に入った??」

コーヒー二つをテーブルに置いてソファに座り込むと、最上さんはまだ感激している面持ちでガラスから離れて、控えめに俺の隣に・・・一人分離れて座った。

「・・・だって、綺麗なんですもん。私の部屋からはお隣のマンションが邪魔をして都心の夜景は見えませんし・・・。」
「それは残念だね・・・。」

最上さんにコーヒーを勧めて、二人してフゥ・・・と落ち着く。
二人の間に流れる沈黙もそんなに悪くはない・・・でも何か会話をしないと時間がもったいない・・・。
そう思っていると、最上さんが先に口を開いた。

「・・・あの、敦賀さんは何か部活動の顧問でもなさっているのですか?」
「俺?いや、今は何もしてないけど・・・どうして?」
「え?・・・だって、毎朝お早いでしょう?だから朝練などしてらっしゃるのかと・・・。」

・・・あ・・・参ったな・・・。

「あー・・・そういう訳じゃないんだけどね・・・。そう言う最上さんも早いよね?」
「えっ!?い、いえ、私は・・・その・・・朝早くから行動する人間なので・・・。」

少し慌てて答える最上さんの顔は、俺の家に来たいと言った時の顔と同じで・・・。
頬を染めてちょっと恥ずかしそうに俯く・・・。そんな顔を見せられると俺は少しあらぬ期待をしてしまう・・・。

・・・朝、早いのは俺と同じ理由・・・なのかもしれない・・・と。

「・・・そ、そういえば!」

と突然最上さんが叫んだ。

「敦賀さんは英語教師にしては英語がネイティブ過ぎると社さんがおっしゃっていましたが、留学でもされてたのですか!?」

・・・何だか無理やり話題を変えられたような気もするけど、勘違いの末にがっついて拒絶されるよりは、今夜ここで最上さんと一緒にいられるだけでも満足しておかないと・・・。

「あまり人に話したことはないんだけど、俺は帰国子女でね。生まれはアメリカなんだ・・・。」
「そ、そうだったんですか!!」
「うん、両親は今もアメリカだけど、17の時に俺だけ日本に引っ越して来たんだ・・・。」

この話をすると、大抵みんなその理由を聞いてくる・・・。毎回適当にかわしていたけど、なぜだろう・・・、最上さんになら正直に話しても大丈夫な気がした。
でも、最上さんの反応はみんなとは違った。

「なるほど~!では敦賀さんの授業ではネイティブのアシスタントの先生は不要ですね!!」

・・・・・・何というか、最上さんは・・・純粋というか、天然というか、そういう発想になってしまうんだ・・・。

作りものでない満足げな笑顔で、“ネイティブの先生要らず!”なんて答えが返ってくるとは思っていなくて、それが何だかおかしくて、気がつけば俺は腹を抱えて笑っていた。

「ちょっ・・・な、何がそんなにおかしいんですか!?」
「クックックックッ・・・・いや、ごめん、思わぬ答えにちょっと・・・」

それだけ言ってまたクククッと笑い始めた俺に、

「っもう!敦賀さんなんて知りません!」

と言って、最上さんがそっぽを向いてしまった。本気で怒ってるとは思わなかったけど、まだ少し笑いながら

「ごめん、ごめん。・・・ねぇ、こっち向いて?」

と言いながら、・・・・無意識に手が伸びて・・・最上さんのあごに触れていた・・・。

その瞬間、最上さんの体が少しビクッと震え、ビックリした顔で俺の方へ振り返る。

・・・あっ・・・

「ご、ごめん!」

すぐに伸ばしていた右腕を引っ込ませるが、もうすでに後悔・・・。
最上さんに許可なく触れてしまった・・・。
きっとビビらせてしまった・・・。
あの驚いた顔…、軽い男と思われたかもしれない・・・。
冷や汗がドバっと流れていそうな感覚に陥っていた、その時。

「敦賀さん?」

自分のすぐそばで聞こえる優しい声に、ガバっと顔を上げた瞬間、おでこに軽く痛みが走った。

「…っ!?」
「フフフ、笑った仕返しです!」

してやったり、という最上さん。
全身が硬直するほどドキドキしていたのが、最上さんの笑顔でシュー・・・と溶けていくようだった。

「・・・まさかデコピンで仕返しとはね・・・。父さんにもよくやられていたよ。」
「そうなんですか?アハハ~。」

・・・良かった。
気まずくなったらどうしようかと心配していたから・・・。

「・・・さて、私そろそろおいとまさせていただきますね。」

もう・・・?と思ったが時計を見ればもう午前になる寸前だった。



◆◇◆◇◆



エレベーター (9)


(Side キョーコ)

家のカードキーを差し込まないと押せないエレベーターの15階のボタン・・・

私の寝室の広さほどありそうなエントランス・・・

そして、光の洪水を空から見ているような気分になれるガラス張りのリビングルーム・・・


―――ここは親の持ち家で、俺はしがない一教師だから・・・―――


なんて言ってた敦賀さんだけど、・・・この高級感が不思議と似合ってる。
・・・ううん、似合ってるんじゃなくて、それが自然なんだ・・・。



夜景は確かに綺麗で、本気でうっとりして見てたけど、緊張してドキドキしてる自分を落ち着かせるための言い訳にもなった。
・・・こんな夜遅くに、付き合ってもいないのに、お邪魔してもいいですか・・・だなんて、破廉恥な女と思われたかもしれない。

・・・でも、あの時は、もうちょっと敦賀さんと一緒にいたい、と思う一心で・・・。

「そんなに気に入った?」

香りの良いコーヒーと共にリビングルームに帰ってきた敦賀さん…。
いつの間にネクタイはずしたんだろう・・・。
いつもはキッチリしてるから、少しラフな格好が逆に新鮮に見えて・・・その・・・男の人って感じで・・・。

不自然に思われないように他愛のない会話をこなして、コーヒーに口をつけてみたけど、ドキドキが落ち着かなくて、訪れた沈黙に自分の鼓動が聞こえてしまうんじゃないかと思って、それで…何か話題を・・・と思って、朝早い理由を聞いてみたら・・・

「・・・そういう最上さんも早いよね?」

って聞き返されて、もうどうしようもなくパニックになってしまった・・・。
まさか“敦賀さんに会えるかもしれないから・・・”だなんて恥ずかしくて言えないし・・・。

・・・でも、敦賀さんは何か理由があるのかな・・・?

話題を変えるために聞いた敦賀さんの英語のことで、敦賀さんは実はアメリカ生まれの帰国子女だって聞いて、ビックリしたけど、それも何だか自然に思えた・・・。
日本生まれの日本育ち・・・っていう方がちょっと合わないかも・・・。
なんて考えていたら、隣で敦賀さんが爆笑していた・・・。

・・・な、何!?何!?私何かした!?

敦賀さんの笑ってる理由が分からなくて、ちょっといたずらっぽく怒って聞いてみたら、どうも“ネイティブの先生要らず”の発言がツボをついてしまったようで・・・。
でも敦賀さんの笑い声のおかげで、ちょっとリラックスできたかも。
それでそのままプイっと怒った振りをしてたら・・・

「・・・ねぇ、こっち向いて?」

敦賀さんの手が私のあごに触れて、私の顔を敦賀さんの方へクイっと向けた・・・。
一瞬の事だった・・・。

「ご、ごめん!」

私が強張ったせいか、敦賀さんがひどく申し訳なさそうな顔をした・・・。

・・・敦賀さん・・・?

私は敦賀さんのしたことに対して顔を真っ赤にする暇もなく、神妙な面持ちで俯く敦賀さんを何とかしなきゃ・・・と必死に考えていて・・・

・・・そうだ!子供(児童)を叱る時にたまにするアレで・・・

ピコンと軽く敦賀さんのおでこを弾く。
すると敦賀さんは大きく目を見開いた後、エレベーターで別れる時にくれる、あの神々しい笑顔を私に向けた・・・。

・・・ドキンッ!!

ダ、ダメ・・・。
もう自然に振舞うなんてできない・・・!
これ以上ここにいたら、きっと私の心、敦賀さんに見えちゃう!!
チラと腕時計を見るともうすぐ12時。
帰るにはちょうど良い言い訳にもなるし、私は敦賀さんにおいとまする旨を伝えた。



「7階まで送るよ。」
「え?大丈夫ですよ。エレベーターで下に下りるだけですから。」
「いや、送らせて?お願い。」

・・・お願い・・・って、そんなこと言われたら断れない!

「で、では、よろしくお願いします・・・。それと、コーヒーと素敵な夜景、どうもご馳走様でした!」

玄関で軽くコートを羽織る敦賀さんにお礼を言うと、あっ・・・と言いながら一枚の紙切れを私に差し出してくれた。
そこには数字とアルファベットがいくつか並んでいた・・・。

「それ、俺の携帯番号とそのメルアド・・・。いつでも連絡してきて?待ってるから・・・。」

それがすごく嬉しくて・・・、敦賀さんとつながっていられるんだ・・・と思うとワクワクして・・・。

「はいっ!こちらからも後で番号とメルアドを送りますね!」

と、まるで子供みたいにはしゃいだ返事になってしまった・・・。
そのせいなのか、敦賀さんはその後無表情で固まられてしまった・・・。

「・・・あの~・・・敦賀さん??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、うん、何?」
「大丈夫ですか?お疲れのようでしたら、送っていただかなくても構いませんよ。」
「いや、ごめん、大丈夫だよ。さぁ、行こうか?」

でも、その後も敦賀さんの様子が少し変・・・。
あまりしゃべらなくなったし、しゃべってもいつもみたいに目を合わせてくれないし・・・。

・・・どうされたのかな・・・?

沈黙が続く中、エレベーターが14階・・・13階・・・と下がっていく。

―――――チンッ・・・

7階・・・。
いつものように、エレベーターから出ながら敦賀さんの方へと振り返って、

「それじゃ・・・お休みなさい、敦賀さん。」

少しお辞儀をする。

「・・・最上さん。」

・・・あ、今度は目が合っ・・・・・・・・



一瞬なのに全てがスローモーション
敦賀さんの大きな手がドアを押さえたと思ったら
その綺麗な顔が私の顔へと近づいてきて、
その瞬間・・・頬に柔らかい感触が・・・



「・・・おやすみ。」



・・・・・・・う・・・そ・・・!?



◆◇◆◇◆



エレベーター (10)


(Side 蓮)

「おっはよー、蓮!週末どう・・・・・・だった・・・んだ?」

明らかに俺で遊ぶ気満々だった社先生の声が小さくなった。

「・・・どうかしたのか?・・・まさか、ふら「れてませんから。まだ。」・・・・・そ、それならいいんだけど・・・。」

出勤して来た途端に俺にからんでくる社先生もだけど、遠くの席から意味ありげな視線をジトー・・・と俺に送ってきてる琴南先生も、

・・・ちょっと俺をそっとしておいてて欲しい・・・。



あの夜、俺が持ち合わせている理性を総動員しながら、手を出さないように、枷がはずれないようにしていたのに、帰り際に玄関先で見たあの笑顔のおかげで、理性なんてどこかに行ってしまいそうだった。
俺の携帯番号が書かれた紙を嬉しそうに受け取る最上さん・・・・。

・・・期待・・・してもいいんじゃないか・・・?

そう思うと、どうしても最上さんに触れたくなって、我慢できなくて、最後の最後でやってしまった・・・。
頬にとは言え・・・。
あの時は、甘い気持ちがあふれていて、後のことなんか考えている余裕もなかった。
だから余計にショックだったんだと思う・・・。

その後、最上さんから連絡がない上、今朝期待していたエレベーターでの逢瀬もなかったことに・・・。

・・・これは・・・嫌われたか、呆れられたかのどっちかだろう・・・。

そう思うたびに、今まで感じたことのない感情が俺を押しつぶそうとする。
悲しいだけじゃない。もっとこう、心臓を締め付けられるような、心の痛みとでも言おうか・・・。

・・・嫌われていてもいい。
もう一度だけ、最上さんに会いたい・・・。



授業を終え、残業をする気力もなく、主任に一言断ってから5時ちょうどに学校を出た。
少し遠回りになるけど、もしかしたら・・・と思って初等部の正門の前へ出る道に入る。

・・・何を期待して、何をやってるんだか・・・。

自分の行動が少し馬鹿らしいように思えたが、次の瞬間、自分で自分の功績を称えた。
最上さんが自転車に乗って正門から出てきたのだ。方向からして向かっているのは自宅マンション。
近道なのだろう、細い路地に入っていく最上さんを確認して、俺は車をマンションへと走らせた。

・・・自転車置き場か、一階のエレベーター前で待っていれば・・・

最上さんに会える!頭でなくて体と心で行動している自分がいた。

車を止め、階段で一階へ駆け上がる。
自転車置き場は誰でも入れるし、外からも見えるため、しばらく一階のエレベーターの前で待つことにした。
そして、話しかけ方のシュミレーションをしながら、また、コンシェルジュの中年の男性に時折話しかけられながら待つこと5分。
とっくに帰って来ていてもおかしくないのに、まだ最上さんは来ない。

・・・買い物にでも行ったか・・・

と思いながら、自転車置き場の方へ歩みを進めた。すると、

「もういい加減にして!あんたとはもう関係ないんだから!」

という叫び声が聞こえてきた。

・・・この声は・・・最上さん!?

初めて聞く彼女の怒気の混じった声に、心配になった俺は駆け足で自転車置き場へと向かう。
そして、外に出るドアを開けると、そこには最上さんと、最上さんの腕を掴んでいる茶髪の若い男がいた。

「何だよ、お前。こーやって俺が頼んでやってるっつーのに・・・って、あんた何か用?」

俺に気付いたその男は、その不機嫌な顔色を変えることなく俺を睨み付けてきた。
それと同時に最上さんもこちらを振り返る。

「!?・・・つ、敦賀さん!!」
「はぁ~?なんだ、お前知り合いかよ?」

最上さんに無礼な態度を取り続ける男の右手に視線を向ける。

「最上さんは嫌がってるようだけど・・・。その手を離してあげたら?」
「あ~?あんたには関係ないだろ?こっちにはこっちの事情があるんだからよ。」

・・・最上さんとこの男の事情・・・だと・・・?

俺が拳をグッと握る前に、最上さんが勢いよく男の手を振り払った。

「関係ないのはあんたの方よ!私の人生にもうあんたはいないの!二度と来ないで!」
「なっ・・!」

最上さんの悲痛な叫びに彼もそうだが、俺も・・・何も言えなくなっていた。
最上さんは叫び終わるなり、俺と目を合わせることなくロビーの方へと駆けて行き、俺はそれを追う。
後ろから彼の必死な声を聞きながら・・・。

「おい!キョーコォ!!」



エレベーターの前で、深く俯いたままエレベーターを待つ最上さんを見つけて、俺は何も言わずに横に立った。

・・・少し震えている・・・?

できるなら・・・抱きしめて、落ち着かせてやりたい・・・。
だが、一昨日の夜の(俺的には)大失態の後では、それはできなかった。

―――――チンッ・・・

エレベーターが到着する。

二人で静かに乗り込み、俺は7階と15階のボタンを押す。最上さんはまだ俯いたまま・・・。

・・・あの彼は・・・最上さんの・・・

“恋人”だとは考えたくない。
過去の男とも考えたくない。でも最上さんの言っていた

―――私の人生にもうあんたはいない―――

というセリフ・・・。
最上さんがあの男のことを好きだったのは確かだ・・・。

「・・・ました。」

・・・?・・・今最上さんが何か言った??

「え?ごめん、もう一回言ってくれる?」
「・・・自転車に・・・鍵をかけるのを忘れてきちゃいました・・・。」

まだ俯きがちだけど、少し恥じらいながらそう言う彼女には笑みが戻っていた。
その笑みに、俺は心底安心した・・・。
俺はまだ嫌われてはいないかもしれない・・・。
・・・心に少し余裕が戻ってくる。

―――――チンッ

7階。

「自転車のメーカーと色は?」
「え?」
「俺が鍵をかけてくるよ。・・・まだ彼がいたら嫌だろう?」
「・・・・・・でも…ご迷惑では?」
「クス・・・全然。後、部屋番号も聞いて良い?」

閉じかけたエレベーターのドアを押さえながら、部屋番号を聞くのは失礼だったか、と思ったが、鍵を渡すのに聞いておかないといけない。

「部屋は702です。それと・・・自転車はブリ○○○ンの赤色で、鍵にはバイオリンのキーホルダーがついてます。」
「了解。鍵をかけてきたらポストに入れるから。」
「・・・あ、あの・・・。」

ん?と聞き返すも、例の頬を染めて恥らう顔の最上さんに目が釘付けになる・・。

「・・・お世話になります・・・。ありがとうございます・・・。」

――――あぁ・・・どうしてくれよう、この娘は!!

さすがに今回だけは理性をぐぐっと保ち、俯きがちな最上さんの頭をポンポンと撫でるだけにして、「それじゃ」と言ってドアを閉めた。

・・・嫌われたかもしれないと、あれほど恐れていたのに、俺は学習能力が無いな・・・。

悶々と考え込みながら、自転車置き場へ戻る。
幸い、あの彼の姿はそこにはもう無かった。
二人が言い争っていた付近で最上さんの自転車を発見し、鍵をかけ抜き取る。
バイオリンの形のキーホルダーなのは、琴南先生の影響かな・・などと考えながらエレベーターに戻り、7階を押す。

・・・702号室か・・・

思いがけず入手した最上さんの部屋番号・・・。
訪ねていくことはなくとも、どこに最上さんがいるのかを知っているだけで安心できる・・・。

702号室の前に立ち、ポストの入り口から鍵を入れる。
そして、エレベーターの方へ向かって歩き出す。
明日の朝は会えるといいな、と思いながら。すると、後ろでガチャガチャと音がして、

「敦賀さん!!」

勢いよくドアを開けた様子の最上さんがスリッパのまま、そこにいた。

「あ、あの・・・もし、良ければ・・・その、お茶でもいかがですか・・・?」


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『エレベーター』 1~5話

先頃閉鎖されたイデュリスの城のミス・ルイーザ様のSSを頂戴いたしました。
全作品フリーとなっていたので頂戴してしまいました。
こんなお素敵なSSを無くすの惜しいです。
しかも未完のお話は続き書くのもOKとの事でした。
ルイーザ様のSSがお好きな方はたくさんいらしたかと思います。
続きを書かせて頂くにあたり、ルイーザ様の色は消したくないのですが、多分、私の色がたんまりな続きになってしまうかと思います。
お許し下さいませ。
続きを書く前にご紹介もかねて、ルイーザ様のこれまでのお話も掲載します。
どうぞ、お楽しみ下さい。
※都合により数話分を一つの記事にまとめてのアップ致します。ご了承くださいませ。
一つの記事がかなりのテキスト量になりますので、レイアウトも多少変更しております。(ルイーザ様お許し下さい。)
自分の記事と人様の大切な記事を混同するのはどうかと思いましたので、このような掲載方法をさせて頂きます。
※ミス・ルイーザ様のコメントは省かせて頂いています。

ではどうぞ。


『エレベーター』 作:ミス・ルイーザ様



エレベーター (1)



(Side 蓮)

朝、玄関を7時キッカリに出ると、彼女に会える確率が高い。だから今日も、仕事場に早く着きすぎようが、飲み会の次の日だろうが、6時には起きて支度をし、7時に家を出た。

彼女に初めて会ったのは、マンションのエレベーターの中・・・。彼女はいつも7階からエレベーターに乗ってくる。最初の頃は終始無言だったが、何度もエレベーター内で出会ううちに、簡単な挨拶を交わすようになっていった。
少し茶色い肩まで伸びた髪と白い肌、いつも清楚な服装で、ちょっと恥ずかしそうな笑顔が堪らなく可愛い・・・。・・・大学生だろうか・・・?それともOLか・・・。彼女のことをもっと知りたいと思うも、いきなり話しかけて警戒されても困る。だから、今は、まだ、エレベーターという密室の中での十数秒の彼女との時間をこっそり楽しむだけ・・・。


―――――チン・・・


エレベーターが7階で止まった。

―――もしかして・・・

今日はラッキーだ!ドアの向こうに彼女がいた!

「おはようございます。」
「おはよう。」

あ、と俺に気づいた彼女が軽くお辞儀をしながら挨拶をくれた。今日の彼女もとても可愛い・・・。じっと見つめたいのを我慢して、減っていく数字を意識して眺めようとした・・・・が、今日はなぜか彼女からの視線を感じた。ふっと彼女の方を見ると、その大きな瞳で俺をじっと見つめていた・・・。

「・・・あ、の、何か?」

俺がそう言うなり、ハッとして瞬時に顔を赤く染める彼女・・・。

「あ、す、すみません!あ、あの、いつも・・・背が高いなぁと思ってて・・・。」

顔を真っ赤にして俯きがちに話す彼女を見て、自分の顔がゆるゆると緩んでいくのが分かった。

「あぁ、そうだね。日本人にしては・・・ね。190もあるから。」
「え!?190もあるんですか!?」


―――――チン・・・


そう彼女が驚いたところでタイムオーバー。一階に到着。

この後彼女が自転車置き場に行くのは知っている。彼女も俺が地下駐車場まで行くことを知っている。いつもは「それじゃ、お先に。」とペコリとお辞儀して降りていく彼女だったが、今日は一度エレベーターを降りてから、ドアが閉まらないように、ドアが出てくる所を白くて細い手で押さえ、

「あの、身長のこと、もしお気に障ってしまったようでしたらごめんなさい。」

と恥ずかしそうに謝ってきた。

―――可愛い・・・

彼女が必死で押さえているドアの出入り口部分を、俺も押さえながら彼女に近づく。

「クス、そんなこと、全然構わないよ。えーと・・・。」
「あ、私、最上です。えっと・・・。」
「敦賀だよ。」
「敦賀さんですね。あの、それじゃ、お先に失礼しますね。」
「うん。またね、最上さん。」

エレベーターのドアが閉まって、俺はそこに座り込みそうになった。

―――今日は何て日だ・・・!

顔がにやつくのを止められない・・・。彼女が俺に少しでも興味を持ってくれていたこと。彼女の名前が最上さんだということ。彼女が俺の名前を呼んでくれたこと。

車に乗り込んでからも気持ちを切り替えることができない。一分にも満たない出来事に、体が、脳が、心がどっぷり何かに浸かっている感じだ・・・。

明日、明後日、もしまた彼女に会えたなら、彼女をことを聞いてみよう。

そのためにも、俺はまた7時キッカリに家を出て、その日の運にこの身を任せよう・・・。

7階でエレベーターが止まることを、そのドアの向こうに彼女がいることを願って・・・。



◆◇◆◇◆



エレベーター (2)



(Side キョーコ)

7時丁度に家を出ると、エレベーターであの人と会う可能性が高い。

だから、6時50分には身支度を済ませて、ドキドキしてる。会えるか会えないか・・・。その日の運次第。だから、めざましテレビの星座占いにすら頼ってしまう・・・。

―――山羊座が上位でありますように・・・。

と。

あの人に初めて会ったのはマンションのエレベーターの中。モデルかと思うほどきれいな顔だちで、スラっと伸びた手足とバランスの良い体格に、思わず見惚れそうになってしまった。引っ越してきて以来、エレベーターで一緒になることが多くなって、最初は無言だったけど、徐々に目があってニコっと微笑んでくれるようになって、最近は挨拶もしてくれるようになった。それがすごく嬉しくて・・・。

しかもこの間は思わず凝視しちゃって・・・!!背が高いこと、気にしてるかもしれなかったのに、私ったらなんて失礼なことを・・・!でも「構わないよ」と言ってくれたあの人の笑顔・・・ふんわり優しくて、素敵だった。どこにお勤めの人だろう・・・。もっと・・・知りたい・・・敦賀さん・・・のこと。

今日も会えるといいな・・・敦賀さん・・・。


―――――チン・・・


ドアが開いた瞬間、心臓が飛びはねた。今日も一緒だ!

・・・でも、今日は他の女性が敦賀さんの横にいた・・・。とりあえず、軽く会釈だけして、二人に背を向ける形でドアの近くに立った。

―――彼女・・・さんなのかな・・・?

何だか寂しいなと感じだけど、それはすぐに吹っ飛んで行った。

「ねぇ、時々あなたを見かけるんだけど~、何階にお住まいなの~?」
「ご想像にお任せしますよ。」
「ふん、顔に似合わずケチな男。どうせ彼女とかいるんでしょ?」
「あいにくいませんよ。」
「じゃぁ、私が立候補するわよ。一途だから浮気なんてしないし?」
「申し訳ないですが、酔った女性の言葉は信用しないんです。」
「なっ!失礼しちゃう!」

どう聞いても、敦賀さんが絡まれてるだけの会話で、何だか安心しちゃった。

・・・「あいにくいませんよ。」・・・

本当に・・・いないのかな、彼女さん。あんなにカッコいいのに・・・。


―――――チン・・・


一階に到着。すると、エレベーターのドアが開くなり、敦賀さんに絡んでいた女の人が私の肩にぶつかって、ブツブツ文句を言いながらそのままドスドス降りて行った。

それに少し呆気にとられた後、私も敦賀さんに挨拶して降りようと、少し振り返ったら、敦賀さんの大きな手が私の頭の上でドアが閉まるのを止めていた。そのおかげで顔もちょっと近くて・・・

「ごめん、最上さん。肩、大丈夫?」
「え?あ、あの、あんなの平気ですよ!敦賀さんが謝らなくても・・・。」
「いや、俺があの女の人を怒らせちゃったから・・・。」

心配・・・してくれるなんて・・・。すごく・・・優しい人なんだわ、この人・・・。

「敦賀さんが悪く思うことなんてないですよ。あの人がちょっと強引だっただけですし・・・。私は大丈夫ですから。」

今までにない顔の近さに、心臓がバクバクして落ち着かなくて、なのに、綺麗な人・・・とうっとりしそうな自分がいて・・・。だから名残惜しいけど、この場から早く離れようと、「それじゃ・・・」と言ってエレベーターから降りる。そしたら、

「あ、最上さん。」

って呼びかけられて、振り返ったら、神々しいほどの笑顔で

「また・・・ね。」

って手を振りながら微笑んでくれてて・・・。

そこから私の記憶はあいまい・・・。脳にオブラートがかかってる感じで、一日ボーっとしてたと思う・・・。仕事はこなしたけど、いまひとつ身に入っていなかったような気がする・・・。家に帰っても落ち着かなかった。だって、このマンションのどこかに敦賀さんが住んでると思うと、何だか駆け出したい気分になったし・・・、用もないのにエレベーターに乗りたくなっちゃうし・・・。

明日・・・少しだけでも・・・敦賀さんのこと、聞いてみようかな・・・。

いきなりベラベラ聞いて、今朝の女の人みたいに酔っぱらいと勘違いされても困るし。。

そう、お仕事とか・・・勤務先とか・・・ほんの少しだけ・・・。



また明日、7時丁度に家を出よう。

・・・敦賀さんに会えることを期待して・・・。

・・・ドアの向こうに敦賀さんがいることを願って・・・。



◆◇◆◇◆



エレベーター (3)



(Side 蓮)

「おはよ、蓮。今日も早いな・・・・って、暗っ!?」
「あ、社先生・・・おはようございます。」
「なんかあったのか?最近上機嫌だったのに。」

少し・・・落ち込み気味なのは、逆に何もなかったから・・・。

今朝は最上さんに会えなかった。今まで週に一度も最上さんに会えなかったことだってあったのに、それでもこんなに落ち込むことはなかった。挨拶だけでない会話を交わして、名前を教えあって、それだけで毎日会えると、確信も約束もないのに思い込んでいたようだ・・・。


「そうそう、昨日さ、校長先生と飲みに行った(連れて行かれた)んだけどさ。お前に感謝してたぞ?」
「え?校長先生が??何故・・・?」

それはまた不思議な・・・と思っていると、社先生が声を細めて言った。

「お前が早く出勤するようになってから、女の先生方や女生徒の遅刻が激減したんだってよ?」
「・・・それは・・・偶然なだけなんじゃないですか・・・。」
「何言ってる!見ろよ、7時半にもなっていないのに、この職員室の混み具合を!」

・・・確かに、ここ半年ほど皆の出勤時間が早まったなぁ・・・とは思っていたけど・・・。

「お前が早く出勤するようになってからなんだぞ?こんなこと。」
「まぁまぁ、俺のせいかどうかはいいとして、いいんじゃないですか?遅刻が減って・・・。」
「・・・ったく。おまえは自覚が無さ過ぎる。」

その後、社先生が何かブツブツ言いながら席に戻って行ったけど、それは気にせず、特に重要ではない書類の片づけをしながら、どうすれば最上さんともっと頻繁に会えるようになるか、とか、どうやってもっとお近づきになろうか、とか、そんなことをいろいろ考えていたら、声をかけられた。

「あの、敦賀先生?」
「え?あ、はい、なんでしょうか?」

この人は・・・確か音楽の・・・琴南先生だったかな・・・?

「今度LME学園の音楽祭が開かれるんですけど、敦賀先生も良ければ参加してみませんか?社先生も参加されるようですし?」
「うーん、自分はあまり音楽に興味はないから、残念だけど参加は見送らせてもらうよ。」
「そうですか、“人数集め”にはなってもらえないですか・・・。」
「・・・琴南先生・・・、それは・・・どういう意味かな?」
「まぁ、まだ時間はありますし?お気が変わったら私に知らせてくださいね。」

・・・社先生が参加した理由は明白だな・・・。相手は手強そうだけど・・・。

ま、そんなことよりも、まずは自分のことを・・・と、再び重要でない書類相手に視線だけは落とす。

・・・最上さんは今頃何をしているのだろうか・・・



今日も一日終わり・・・と思いながら地下駐車場でエレベーターを待つ。明日ももしかしたら会えないかもしれない・・・と、朝からずっと引きずっている落ち込み気分のまま、やってきたエレベーターに乗り込んだ。それでも、明日も俺は7時に家を出るんだろうな・・・。


―――――チン・・・


一階。

ドアがスーッと開き、そこにいたのは・・・

「最上さん!」
「敦賀さん!こ、こんばんは!」

一瞬で暗い自分が消えるのが分かった。もう意識は目の前の可愛い彼女だけへ・・・。

「こんばんは。えっと、7階だよね?」
「あ、はい。・・・って、え?敦賀さんは15階なんですか!??最上階じゃないですか!」

最上さんの声に驚いた振りをして5階と6階のボタンも押してみる。時間稼ぎ・・・なんて俺も相当せこい奴だな・・・。

「親の持ち家だからね。俺がすごいわけではないよ?」
「フフフ、でも確か最上階は一軒しかないんですよね?すごいです~。」

何だか羨望の眼差しで見られると、親に負けた感じで少し劣等感を感じる・・・。

「いや、俺はしがない一教師だからね。親のでなかったら俺の給料だけでは住めないなぁ。」

ここで見栄は張れないな・・・などと思っていると、最上さんが驚いた顔でこちらを見た。

「え?敦賀さんも先生されてらっしゃるんですか?」

・・・え?・・・「敦賀さん“も”」ってことは・・・。

「私も職業は先生なんですよ。近くのLME学園の初等部の音楽を―――」

・・・えっ!?今・・・何て・・・


―――――チン・・・


「あ、着いちゃいましたね。それでは・・・」
「待って。俺も降りるよ。」

えっ?という顔をする最上さん。当たり前だ。警戒されるに決まってる。でもこれを聞かなきゃ今夜眠れない!

後ろでエレベーターのドアが閉まる音がした・・・。

「あのさ、最上さん、LME学園の先生なの?」
「え、あ、はい、初等部で音楽を教えてますけど・・・。」

なんてことだ・・・。こんな偶然があってもいいのだろうか・・・。建物も正門も別で、簡単に会いに行ける距離ではないけど、一応同じ敷地内で勤務してたなんて・・・!!

「それは…奇遇だね。俺もLMEで先生してるよ?」
「えぇ!?そうなんですか!?!?」
「うん。と言っても高等部だけど。英語教師なんだ。」

今日は最上さんの驚いた顔をよく見る日だ・・・。くるくる表情が変わって・・・可愛い・・・。

「あっ!じゃぁ、音楽のモー・・・いえ、琴南先生ご存知ですか!?」

突然そう言い出した最上さんの顔は、初めて見るキラキラと輝く笑顔だった。

「うん、知ってるよ。長い黒髪のスレンダーな人だよね。」
「そうです~!モー・・・・琴南先生は私の大親友なんです~!」

“バイオリンを弾かせると音色も姿も絵になって~・・・”と嬉しそうに親友のことを話す最上さんの背後から、勢いよくハートマークが飛び出して来ているかと思うほど、その笑顔・身振り手振りは可愛らしく、同時に琴南先生がちょっと羨ましくなった。

おっとりした最上さんと、キリっとした琴南先生は、性格も間逆そうだけど、どうやって知り合ったのだろう・・・。そういえば、タイミングよく、今日琴南先生に話しかけられたな・・・。

・・・と、そこでハッとした。

「最上さん、もしかしてLMEの音楽祭に参加する?」
「はい、もちろんです!5年生と6年生の合唱の指揮者として。敦賀さん・・・敦賀先生とお呼びした方がいいでしょうか?」
「クスクス、いや、学校外は“敦賀さん”でお願いするよ。」
「そうですね。では、敦賀さんで。敦賀さんは音楽祭には参加されますか?」
「もちろん。今年は運よく予定が無くてね。」

・・・嘘も方便・・・

「では、そこでお互い“先生”としてお会いするかもしれませんね。」
「そうだね。楽しみにしてるよ。・・・そろそろ帰るね。ごめんね、引き止めて。」
「い、いえ、お構いなく・・・。」

エレベーターがちょうど上に上ってきているところ・・・。乗り過ごして数分でも最上さんの近くに・・・とも考えたけど、これ以上警戒されないように、上行きのボタンを押す。引き際も肝心だ・・・。

「それじゃ、おやすみ、最上さん。」
「あ、はい、おやすみなさい、敦賀さん。」

丁寧に頭を下げる最上さんを見送ってエレベーターに乗り込む。ドアが閉まるなり、携帯電話を取り出して電話をかけ始める。相手はすぐには出ない。今頃きっと急いでゴム手袋を着用していると思うし。

「どうした、蓮?珍しいな、こんな時間に。」
「すみません、社さん。ちょっと琴南先生に至急の伝言をお願いしたくて・・・。」
「こ、琴南先生に?」
「えぇ、俺も音楽祭参加します、とだけ伝えていただけますか?」



また一つ、君のことを知っても、もっと知りたい・・・という欲がある。
また一つ、君に近づいても、もう少し近づきたい・・・という欲が出てきてしまう・・・。

愛しい愛しい君・・・。

今度会えたら、食事にでも誘ってみようか・・・。

一緒に通勤しないか聞いてみようか・・・。

携帯番号を渡してみようか・・・。

そんなことを考えながら、俺は明日も7時に家を出るだろう。

最上さんに会えることをひたすら願って・・・。



◆◇◆◇◆



エレベーター (4)



(Side 奏江)

土曜日の昼下がり・・・『喫茶 DARUMA-YA』

LME学園の音楽祭の企画会議が続いて忙しかったここ最近。久しぶりに、し…し…親友…の最上キョーコを、LME高等部前にある喫茶店に呼んで、お茶でも思ったんだけど・・・。

「あんた、最近何かあったでしょ。」

えっ!?と驚く顔にはYESと書かれてある。やっぱり。

「な、なんでそう思うの?」
「失恋後にドロドロ・禍々・怨々してたのがスッパリ消えて、今は甘々になってるから。」

・・・そう、この子は約半年前に物心ついた時から好きだった幼馴染に、食費から家賃まで面倒見て(見せさせられて)尽くしに尽くした末、ポイッと捨てられたという、大失恋の過去を持つ。

あの時は大変だったわ。私の部屋にやってきて、で、大泣きしたと思ったら、急に・・・何て言うのかしら・・・怨霊?とにかく女の子にあるまじき顔になっちゃって、しかもそのまま学校に行こうとしたもんだから、慌てて止めたのよね・・・。その後落ち着いたけど、時々・・・怨霊っていうのかしら、それがチラチラ見えてたのに・・・。

・・・今のこの子の顔は、まさに恋する乙女ね。

「好きな人できたでしょ。」

突然顔を真っ赤にして、食べようとしてたケーキを落としたり、変に周りをキョロキョロ見たりして・・・。この子、本当に分かりやすい!!

「もしや、もう付き合ってたりしないわよね?」
「!?・・・しないしない!!まだ、そんな!!」
「そっかぁ、“まだ”片思いなのね。」

こうも簡単に罠に引っかかってくれると逆に心配になるわね。また悪い男にだまされないか・・・。

「・・・で?どんな人なの?」
「・・・う・・・あ、あの、同じマンションに住んでる人でね、エレベーターでよく一緒になって・・・って、あっ!!」
「な、何よ?」
「モー子さんも知ってると思う!その人高等部の先生してるって!・・・敦賀さんっていうんだけど・・・・・。」

あぁ・・・・二日酔いでも風邪でもないのに頭が痛くなってきた・・・。まさか、この子まであの男に惚れちゃうなんて!!

「ね、ねぇ、モー子さん、つ、敦賀さんって学校ではどんな人?」

そう聞いてくる親友の顔はこれでもかってぐらい可愛いもので、毒づくつもりだったのに、毒がどっか飛んでっちゃったわ!

「そうね、あんたも分かると思うけど、女の先生方にも女子生徒にもモテモテね。」
「やっぱり、そうよねぇ・・・。」
「プライベートではあまり良い事は聞かないけど。来る者は拒まず、去る者は追わずって聞くわよ?」
「そ、そうなの?そんな風には見えなかったけど・・・。」
「ま、それは一つの噂だからね。ところで・・・。」

エレベーターで一緒になるだけなのに、なぜ名前やら勤務地やら知ってるのか、問いたださないと!10秒ほどのあの時間でそんなに仲良くなれるとは思えないし、また騙されてるのかもしれないわ!

まったく、なんで私はこの子のことでこんなに必死なのかしら!?

「・・・え、えっとね、どうも出勤時間が同じみたいで、7時に家を出ると、エレベーターで一緒になることが多くて・・・。それで、あの、挨拶するようになって・・・。」

・・・7時?この子のマンションから高等部まで車で10分もかからないわ。敦賀先生なら8時に家を出たって平気なはず・・・。・・・ちょっと待って!?確か敦賀先生はここ最近早く出勤するようになったって聞いたわ。それを聞いたのは・・・半年程前・・・って、この子があのマンションに引っ越したのと同じ時期じゃない!?・・・偶然かしら・・・。

「あ、でもね、高等部の先生だってことは昨日聞いたの。帰りのエレベーターで偶然一緒になって・・・。」

・・・き、昨日!?

「ちょっと、それ何時頃?」
「え?えっと、8時半頃かな?」
「もしかしてその時にあんたの勤務先も教えた?」
「え?うん。初等部で音楽を教えてますって・・・。」
「・・・音楽祭のこと聞かれた?」
「えー!?すごいモー子さん!!なんで分かったのー!?」

あぁ~頭痛い・・・。

昨日夜の9時頃に社先生から電話があったわよ!敦賀先生が音楽祭に参加したいって!これは偶然なんかじゃないわ!もう、何なの?この二人!しっかり両思いなんじゃないの!?

「あのさ、もう一つ聞くけど、あんた、私のこと敦賀先生にしゃべってないでしょうね?」
「・・・・・・・・・・あ、あの、駄目・・・・だった?」

あー・・・・頭痛薬買いに行こ。



月曜日。朝7時半の職員室。

・・・敦賀先生、やっぱり今日も早く来てる。・・・って目があっ(てしまっ)た!

「琴南先生!」

・・・しかも呼ばれた!もう絶対あの子関連のこと聞かれるに決まってるんだから!

「最近、すごく良さそうなお店を見つけて、社先生と行ってみようかと言ってるんですが、良かったら一緒にどうですか?音楽祭のことで聞きたいこともありますし?琴南先生も女性一人で心細いようでしたら、どなたか親しいお友達を連れて来られても構いませんし?」

・・・何これ!!朝からまぶしいほどのキラキラ笑顔なのに、NOと言えない圧力を感じる・・・!!しかもあの子以外を連れてくるな、とまで言ってるような・・・!!??

「あ、は、はい。ではご一緒させていただきます。はい。」

これはヤバイわっ!!早急に二人をくっつけなくては!!でないと、これからずっと私はあの人のキョーコを釣るための釣り餌として使われる!!

それだけは絶対嫌!!

・・・キョーコ!!敦賀先生があんたにふさわしいかどうか全然分かんないんだけど、私の自由を守るために、あんたには敦賀先生と付き合ってもらうわよ!

もーー!なんで私がこんな目に!!



◆◇◆◇◆



エレベーター (5)



(Side キョーコ)

「あれ?モー子さんからメールだ。珍しい・・・。仕事中なのに・・・。」

モー子さん、いつもは就業時間中は携帯触らないって言ってたのに、急用かな??

お昼休み中のポカポカ陽気の静かな職員室って好きだな~なんて思いながら、ラフに椅子に腰掛けて、メールを開いて、私は思わず絶叫しちゃった・・・。

「ぅ・・・え?・・・ええええぇぇぇぇぇ!?!?」
「ど、どうした!?最上先生!?」
「や、あの、何でもないです。すみません・・・。」

だ、だめじゃない!私ったら椹先生のお昼寝時間を邪魔して・・・。でも、叫ばずにはいられないことがメールに書いてあったんだもの・・・。

『件名:今夜7時半。
 用件:食事しに行くわよ。ちなみに敦賀先生も一緒だから。
    高等部前の喫茶DARUMA-YAで待ち合わせね。』

ど、ど、ど、どうしよう・・・。モー子さんには昨日相談したばっかりなのに・・・!・・・はっ!モー子さん、もしや私が敦賀さんのことを・・・ごにょごにょ・・・思っているの話しちゃったとか・・・。い、、いや、それは恥ずかし過ぎる!で、で、でも・・・行ってみたい…し・・・。敦賀さんと食事だなんて・・・・・・。いや、どうしよう!どうしよう!

とか、言いながら一度家に帰ってシャワーまで浴びて、お気に入りのニットワンピなんか着て、7時になったばかりというのにDARUMA-YAにいる私って・・・。多分、私、自分で思っている以上に今夜のこと、楽しみにしているのかな・・・。

ドキドキする・・・。喫茶店のドアのベルがカランって鳴るたびに、私の心臓がドキンって跳ね上がる。

「最上センセ?」
「はいぃぃぃっ!!って、あ、女将さん・・・。」
「あんた、今日はやけに可愛い格好してるけど、デートかい?」
「ぃ、い、いえ、あの琴南先生と彼女の同僚の先生とお出かけなだけですよ。」

ここの女将さんは優しい。マスターも無口だ人だけど、すごく優しい人・・・。失恋した後、よくなぐさめてくれたっけ・・・。

「そうなのかい?私てっきり・・・。まぁ、それはともかく何か飲んでいくかい?」
「はい!ミルクティーをお願いします!」
「まいどあり。」

・・・7時10分。待ち合わせの時間まで後20分。・・・何だか、待ってるこの時間って好きだなぁ~。

「はい、センセ。ミルクティー。」
「ありがとうございます!いただきます!」

・・・ぅん。美味し。ここのミルクティーだけはマネできないのよねぇ・・・。

もうだいぶ暗くなったけど、ここから高等部の正門がよく見える・・・。ここで敦賀さんが先生してるんだなぁ・・・。

―――――カランッ・・・

「・・・あっ!」
「最上さん!」

あれ?あれ?ずっと正門見てたのに、敦賀さんの姿なんて見えなかったけど・・・??ど、どうしよう!突然すぎて心の準備が!!

「こんばんは。琴南先生から聞いたよ。今日は最上さんが来るって。またまた偶然だね。」
「あ、はい、本当ですね。」
「琴南先生ね、ちょっと押してる仕事があるらしくて、10分ほど遅れるって。」
「あ、そうなんですか?今忙しい時期ですものね。」
「うん、でね?最上さんはもう喫茶店にいるはずだから行っててあげて下さいって言われてさ。」

・・・モー子さん!!気を遣いすぎよー・・・!

「二人は本当に仲がいいんだね。」
「え、あ、はい!親友歴5年になりますから。」

そう言うと、敦賀さんは暖かい笑みを向けてくれた。

ドキドキが止まらない・・・。

エレベーターの到着音を気にしなくてもいい、この時間と空間がなぜかとってもくすぐったい気がして・・・。目の前に敦賀さんがいることが信じられなくて・・・。

「こんな風にゆっくり話すの、変な感じですね?」
「クス、そうだね。それに・・・」
「?」
「最上さんがいつもと違って見えるし。可愛いね、その服。」

や、やだ!私の顔きっと今真っ赤だ・・・!ありがとうございます・・・って言いながらミルクティー飲んでごまかしてみたけど・・・。

「あ、そうそう、今日ね、俺の先輩に当たる人も来るんだ。社さんっていう数学教えてる先生でね。」
「あ、そうなんですか?・・・もしかしてその人メガネかけてらっしゃいます?」
「あれ?どうして知ってるの?」
「今、モー・・・琴南先生と一緒にこちらに向かってきている方がそうかな・・・って。」

―――――カランッ・・・

「すみません、遅くなって。」
「モー子さん!!・・・・・・・・・っあ・・・。」

し、しまった・・・。モー子さんって叫んじゃった・・・。

「「モー子・・・・さん??」」

あぁ・・・やっぱり!敦賀さんも社さんと思われる人もビックリしてる・・・。それにモー子さんは・・・ひぃぃ!?怖い顔ーーー!!!

「キョーコ!!あんた!!あれほど人前でそのあだ名で呼ばないでって言ってるのにーー!!」
「ご、ごめーーん、モー子さん!!つい・・・」
「もーー!!“つい”じゃないわよ!!」
「まぁまぁ・・・なんで琴南先生がモー子さんなのかは後で聞くとして、移動しようか??」

そう敦賀さんがなだめて(?)くれて、私達は喫茶店を出た。そこで社さんと自己紹介をし合って、喫茶店の裏にある駐車場に行ったんだけど・・・

「はい、どうぞ乗って?」

と、敦賀さんがドアを開けたのは真っ赤な外車で・・・。

「えぇ?こ、これ、外車ですよね!?」
「あんた、ポルシェっていう車の名前ぐらい聞いたことあるでしょ?」
「あるけど・・・・・・え!?これ、ポルシェなの!?うわぁ・・・すごいですぅ・・・。」

敦賀さんったら、マンションの最上階に住んでるだけじゃなくて、車も外車だなんて・・・。なんだかスゴイ・・・。

「一番すごいのは、これで学校に通勤してきてるってことなんだよね。」

俺だったら生徒が車に何かするかも・・・って心配で心配で無理だね・・・という社さんに皆が笑う。とりあえず、敦賀さんの車に乗って目的のレストランへ向かった。車内での会話がとても楽しくて、敦賀さんと一緒にいてもそれほど緊張しなくなっていた。

エレベーターの中では見ることのできない敦賀さん・・・。

社さんやモー子さんから聞く、敦賀さんの学校での意外な一面・・・。

もっと、もっと知りたい・・・。

敦賀さん・・・。
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蓮キョ大好きです。
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