エリシオン ~銀の花嫁~

※パラレルです。レンもキョコさんもでますが、メインはヒオウ君とカナエさんです。




冥界の最果ての地エリシオン。

様々な四季の花々や豊かな緑と清らかな泉を湛えた美しき楽園。

冥王が愛する妻のために作り出した昼と夜だけの世界。



「カナエ!」
「ヒオウ様、ご機嫌麗しく。」
「麗しいわけがないだろう!あれ程、迎えに行くから待つように言っていたのに!」
「あら、ここには慣れているもの。ご心配にはおよびません。冥王様からの通行証もあるし。」

この賑やかな会話は最近、エリシオンの美しい野によくみられる光景の一つだ。

すっかりナイト様気分ね。

彼女は天界いた頃から親友だった月の女神カナエ。
彼女の腕には銀のブレスレットが輝き、冥王の許可なくこのエリシオンを訪れる事が出来るのだ。

「でも罪人の亡者もいるのよ。危ないわ。」
「あんたん所には番犬がいるでしょう。黒くてでっかいの?」
「ケルベロス?」
「あら、あんなのはまだ子犬よ。私の言うことも聞いてくれるし、かわいいもんよ。あの3匹は。」
「ケルベロスじゃなかったら………他にいたかしら。わんちゃん。」
「いるわよ。」
「………カナエ、お前だけだぞ。冥王を犬呼ばわりするの。」
「えっ?レン様のことだったの?」
「他にいないわよ。いつも気配を感じるわ。そのせいか、亡者の影すら見ないわよ。」
「あのクソオヤジ。俺に恨みでもあんのかよ……。」
「ヒオウ様何かおっしゃいました?」
「なんでもない!!」

ヒオウったら、レン様にまでヤキモチやいて。

ヒオウは彼女の事が好きなのだ。
それを知ってはいるけれど、私からは言えない。
ヒオウがちゃんと大人になって、自分からその思いを告げられるまで。

「さあ、神殿の中に入りましょう。チオリが美味しいお菓子を準備してくれているわ。」
「私もデュオニュソスからいいワインを分けてもらったから持ってきたわ。」
「楽しみね。」

彼女が手土産に持ってきてくれるのは私が好きだったものばかり。
ヒオウもそれを楽しみにしている。
でもワインは少し早いかしら?



◆◇◆◇◆



テーブルには菓子や果実が並び、今の地上の季節を知る。
全て地上で採れたもの。
大きな粒を揃えた葡萄は最高級のものだし、。真っ赤に色づいた林檎は甘やかな香りを漂わす。
こんがり焼けた焼き菓子も地上で採れた小麦や果物を使っている。
その一つをつまみながら彼女が思わぬ単語を発し、思わず繰り返してしまった。

「えっ?結婚?」
「……っそうよ。うるさいのよ。最近。」

ヒオウはすっかり黙り込んでしまった。

「結婚するの?」
「するわけないでしょ!!」
「でも求婚者も多いんでしょ?」
「しないわよ!めんどくさいもの。」

そっとヒオウの様子を窺うと何とも言いがたい表情をしていた。
結婚がめんどくさいという言葉が衝撃的だったらしい。
自分がカナエを嫁にするんだって言っていたものね。
頑張ってヒオウ。

「カナエ。俺を天界の男どもと一緒にすんなよ。」

ヒオウはレン様の血を濃く継いでいる為か、地上に出ることができる。
そこで偶然、天界の神々に会ったらしく、不快感じたようで怒って帰ってきた事があった。。
ヒオウはレン様と違って、熱くなりやすいから。

「何を笑っているの?キョーコ?」
「あら、笑ってたかしら?」
「笑ってるわよ。他人事だと思って。」
「そんな事思ってないわよ。ヒオウの様子をみてたら、大きくなったなぁって思ったの。カナエ、あなたの話を聞いている時の表情がね……。」
「はっ母上!」

慌てふためく姿が愛おしくてたまらない。

この時間が好きなのよ。
レン様が作って下さったこの地で、レン様が帰ってくるのを待ちながら、一人息子のヒオウと親友と一緒にすごすこの時間がとても好きなのよ。
だから、とても幸せなの。

どうか、この幸せが続きますように。



◆◇◆◇◆



「さろそろ帰るわね。」

彼女は月の女神。
銀の鬣の馬が引く銀の戦車を駆って空に月を昇らせるのが彼女の役目なのだ。

「また来るわ。」
「待ってるわ。いつでも来て。」
「今度来る時は、そうね。もっと長くいれると思うわ。」

月のでない夜にでも来てくれるのかしら?
それならゆっくりできるわね。

「カナエ、送る。」

今度こそ自分が彼女を守るつもりいるみたい。

「じゃ、またね。」

彼女は笑っていた。
清清しいまでの笑顔の彼女を見送った。



◆◇◆◇◆



目指す先に光が見えた。
もうすぐ地上にでる。

「もう、ここでいいわ。」
「上まで送る。」
「頼もしいわね。」
「子供扱いするなよ。」
「してないわよ。」
「俺はお前よりでかくなるんだからな。」
「そうね。」
「天界の神々よりもずっと大きな存在になってみせるからな。」
「そうね。……そうじゃないと困るわね。」

地上に出れば、西の空に落ちかけた太陽があった。
冥界の領域と重なる地。
キョーコが冥王と出会って、恋に落ちた場所。
こんなにキレイなところだったなんて知らなかった。
ここは禁じられていた場所だから、ここに来たのはキョーコが冥王の妻として嫁いでからの事。

今ではお気に入りの場所になっていて、時間があればここにいる。

月を昇らせる時もここから昇るのだ。

草を食みながら静かに自分の帰りを待つ愛馬セレネ。
彼女もここが好きなようだ。
神経質なはずのセレネのすっかり安心しきった様子にここがどれだけ穏やかな場所か計り知る事ができる。
頭の固い神々達よりも、動物達の方が素直で真実を見極める力を持っているわ。

ここは私の大切な場所。
そう言ったら、冥王はお怒りになるかしら?
キョーコとの大切な想い出の場所ですものね。
でも、少しくらいここにいる時間を許して欲しいと思う。

そんな穏やかな時間を壊す声が響いた。

「こんなところにいたのですか?銀の女神。」

最近、言い寄って来る戦いを司る神の一人だ。
ナルシストで、自分より劣る者を蔑む嫌なヤツ。

セレネも警戒している。

こんなところまで来るなんて。

「何をしに来たの?」
「あなたを迎えに来たのですよ。」
「頼んでないわよ。それにここは立ち入りを禁じられているはずよ。」
「それはあなたも同じはずだ。」
「私は冥王様から許可を貰っているわ。」
「天界の神々からは禁じられているはずだが?」
「あなたに指図される謂れはないわよ。」

本当に嫌になるわ。
こんなヤツには踏み入れて欲しくないのに。
ここは特別な場所なのよ。

「お前、誰だ?」

それまで黙っていたヒオウ様が私と戦神の間に割って入った。

「ここが冥界の領域だと分っているのだな。なら立ち去れ。お前の立ち入りは許していない。」

まるで、私を守るように。

いいえ、きっと守ろうとしてくれているのね。

「お前こそなんだ?子供のくせに。」

本当に嫌な男。

「冥王様のご子息よ。」
「冥王の……。

冥王と聞いて怯むところが小さいのよ。
それでも戦神なの?
十二神の一人に数えられる父を持つくせに。

「……冥王の。なら尚更だ。あなたはここにいてはいけない。あなたのご友人の二の舞ですよ。たとえ貴方が大神の娘であっても。」

何を言いたいの?

「あなたのご友人のように天界を追放されますよ。あなたが不幸になるのを見逃すことはできません。」

あの子が不幸だとでも言いたいの?
冗談じゃないわ!!
あの子は幸せなのよ。

冥王様に愛されて、ヒオウ様の成長を見守って……あの子は幸せなのよ!

「カナエ……行け。」
「ヒオウ様?」
「あまり、ここには来ない方がいい。」
「ヒオウ様!?」
「……だけど、たまに母上に会ってやってくれ。お前の父王だって、それくらいなら許してくれるだろう?」

何?
何なの?
それ!

ヒオウ様が私に背を向けた。

「さあ、行きましょう。」

いや!
私に触らないで。
その汚らわしい手をどけて。

待って!
待って、ヒオウ様!!

「ヒオウ様!!」

私は戦神の手を振り払って、立ち去ろうとしているヒオウ様に向かって叫んだ。

「ヒオウ様!見て!!」

手を高く掲げた。

「カナエ?」
「これを見て!!」

天に向かって掲げた私の手には石榴の実が一つ。

「カナエ!それは!?」
「見てて。」
「カナエっ!!」

私はその果実に噛り付いた。

あの子がそうしたように。

「カナエ!お前、何を!!」
「これで私は冥界の住人よ。」

もう誰も私を縛り付けられない。
私は私の好きに生きるのよ。

私が手にしていたのは冥界からこっそり持ち帰った石榴の実。
冥界の果実を口にした者は命がある者でさえも冥界の住人となるのだ。

ずっと考えていた事。
でも、もう少し後になると思ってた。

今日、冥界の果実を持ち出したのは、きまぐれ?
いえ、何かの予感があったのかもしれない。

呆然とする戦神の前で、私はヒオウ様の手を取った。

「あなたが一緒なら、ここからも出れるでしょ?」

彼の手を引いてセレネに近づく。
愛馬と戦車を繋ぐものを短剣で断ち切る。

「乗って下さい。」
「カナエ?」
「もーーーっ!いいから早くっ!!あのバカ神が正気に戻る前に!!」

ヒオウ様を急かして馬に乗せ、私も一緒に乗る。
私達はそのまま天へと駆け登る。



この日、月が天に昇る事はなかった。



◆◇◆◇◆



一晩中、天を駆け巡る。
セレネは賢い子だから、これが私と天を駆ける最後の日だと悟ったのかもしれない。
夜明けが近付いた頃にやっと私達は地上へと降り立った。

「お前はどうするの?一緒に来る?」

騎乗したまま、愛馬の背を撫でた。

「自由にしていいのよ。」

ヒヒンと一声鳴くと、まっすぐに冥界へと続く道を辿り始めた。

「お前も来るの?仕方ない子ね。」
「馬一頭くらい、面倒みてやるよ。」
「あら、この子だけ?私の事は面倒を見て下さらないのですか?」

見ないと言われても私はもう冥界にいくしかないのだけれど。

「カナエ!!」

後ろから鋭い声がして振り向けば、太陽神がいた。

「ヒオウ様、お返事は?」
「カナエ……冥界に来い。そして、いつか俺の妻になれ。」

そう、その言葉が欲しかったのよ。
戦神から事情を聞いているだろう兄へ最後の言葉をかける。

「お兄様!父上に新しい月の女神を据えるよう伝えておいて。ごきげんよう。お元気で!」
「カナエ!」

お兄様も相変わらずね。
余裕ないくせに余裕のあるフリをするから好きな女に逃げられるのよ。
天界の男はみんなそう。

「カナエ……いいのか?」
「見ていたでしょ。私は冥界の実を食べたのよ。もう戻れないわ。」

そんな余裕のカケラもない表情で見つめられて、放っておける訳ないじゃない。

「責任とって、私をちゃんと妻にして下さいね。」

神族の成長は早いわ。
あなたが産まれてからずっと見守って来たけど、どんどん大きくなって、今では私を守ろうとしてくれるくらいに大きく成長した。
私の背を越すのだって、あっという間よ。

「カナエ、必ず幸せにする。」

頼もしい王子様ね。
待ってるわ。
あなたが立派な冥界の神になる日を。
あなたの側で待っているわ。



◆◇◆◇◆



「カナエ!」

エリシオンに着くと青ざめた顔のキョーコとそんな彼女の肩を抱き、支える冥王がいた。

全部バレてるのね。
あの人の事だから私が冥界の果実を持ち帰った事も知ってたのではないかしら。

「カナエ、あなた……。」
「キョーコ。それ以上は言わないで。私が自分で決めた事なのよ。」

あなた達のせいじゃないわ。
自分で望んでここに来たのよ。

「冥王様、私がここで暮らす事をお許し下さいますか。」
「あなたには既に自由に行き来する権利を与えている。エリシオンは広い。好きな所に神殿を構えるといい。」
「ありがとうございます。では、お願いがあります。」

このエリシオンは素敵だけど、私にはもっと魅力的な場所がある。
とても綺麗な場所。
ヒオウ様に案内して貰うまで、あんなに綺麗な場所だったなんて知らなかったわ。
エリシオン以外は暗くて冷たい世界だって思ってたんだもの。
住むならヒオウ様が好きだって言っていたあの場所がいいわ。

「コキュートスに住まう事をお許し頂きたいのですが。」
「カナエ?あそこは氷の世界よ。エリシオンの方が住みやすいわ。」
「あそこがいいの。銀色に輝いて、月に似ているんだもの。あそこがいいわ。エリシオンにも近いし、それに静かで綺麗な所よ。」
「好きに使われよ。……ヒオウ、そなたにコキュートスを預ける。これからは死者達の眠りを守るのがそなたの役目だ。婚約者殿をコキュートスの神殿に案内せよ。」
「はい。」

コキュートス。
そこが私の帰る場所になる。



◆◇◆◇◆



コキュートスは罪を償った者が眠る場所。
エリシオンのように色彩にあふれてはいないけれど、銀色に輝く美しい世界。

ここに来てどのくらいの時が経つかしら。

ヒオウ様の背はとっくに私の背丈を越している。

「カナエ。」

私を呼ぶ声は耳に心地好いテノールへと変わっている。

「綺麗だ。」
「ヒオウ様も素敵ですよ。」

エリシオンから届けられたたくさんの花。

わがままを言って彼に用意して貰った氷の宝冠。

指輪は金よりも銀がいいとお願いした。

「参りましょう。冥王様方が待っていらっしゃるわ。」

今日、私はこの人の妻になる。
大好きだった月の色に似た色彩の中で、綺麗に着飾って。
銀は私を象徴する色。
このコキュートスの色。

私は銀の花嫁。

このコキュートスを統べる眠りの神ヒオウ様の妻になる。





-了-





ども、月華です。
更新したかと思えば、蓮キョじゃないというこの有様。ありゃりゃ。

しかも、ヒオウ君を蓮様とキョコちゃんの息子に設定。

めちゃくちゃですな。


次ぎはエレベーターか強く儚い者達妄想がしたいです。
どっちにしよーかな。

優先はエレベーターだけど。


よろしければまたいらして下さいね。
次ぎは蓮キョでかためますから。



ではまた。



月華



現在アメーバにてスキビの二次を更新しています。
『月と蝶 アメバ出張所』です。
前回のご案内から1つくらい増えてます。
よろしければどうぞ。



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(」゜□゜)」
あっぽちっと頼みます。
スイッチオン

こんなときでもお笑い脳。



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エリシオン 〜春の訪れ〜

闇に閉ざされた死者の国、冥界。
冥王の玉座の前に、月の光りを携えた女神が平伏していた。
「カナエっ!」
閉ざされていた扉が開きそこから軽やかな足取りで、最愛の妻が現れる。
「お久しゅうございます。キョーコ様。」
妻とは対照的に姿勢を崩さない女神。
キョーコがこの地に来てから地上では季節が何度か移り変わっている。
キョーコに謁見を求めてやって来たのは、彼女の長きの友である月の女神だった。
懐かしい友が自分の前に頭を下げたままの姿にキョーコは戸惑っているのが分かる。
「カナエ……。」
己の立場を思い出し、友を呼ぶ声にも力がない。
キョーコの夫たる己は、冥界の王であり、キョーコはその妻……つまりこの世界の女王。
オリンポスの全知全能の神と世界を分け、そのうち一つの世界に君臨する冥王の妻なのだ。
望んだわけでもなく据えられた地位が親友との間にさえ隔てている事に愕然としているのが見て取れた。
「キョーコ。月の女神の立入を許す。彼女をエリシオンへ。」
俺の感情の無い声が謁見の間に響く。
キョーコがまたしても顔を曇らせた。
ここでは、彼女の前であっても、冥王でなければならない。
彼女は俺との間にさえ距離を感じているだろう。
「ありがとうございます。」
自分の立場を思い出し、夫の前に平伏した。
「御前を辞する事をお許し下さいませ。……カナエ、こちらへ。」
後に従う月の女神を連れ彼女は宮殿を後にした。
今日はどうしたら、彼女は俺を許してくれるだろうか?
彼女は俺に微笑みかけてくれるだろうか?
彼女を愛しているという気持ちは変わらずにある事を分かってくれているだろうか。
早く君をこの腕で抱きしめたいと思う。
凍てつく、俺の心に春をもたらす愛しき君を……。



足元を埋め尽くす色とりどりの花々。
ほのかに香る甘い香り。
「何よ、これ。冥界にこんなところが……。」
冥界の最果て地に足を踏み入れた友が目を見開き、驚きをあらわにした。
「レン様が私の為に作って下さったの。ここには亡者達の呻きも届かないわ。」
花咲き乱れる光に溢れた地。
小さな緑の森も、その側には豊かな水を湛えた泉さえあった。
「ここ……見たことがあるわ。一度だけアンタと行った事がある。」
「そうよ。私がレン様と初めてお会いした場所でもあるわ。」
私のお気に入りの場所。
初めて恋を知った場所。
死の国の神とは知らずに愛を交わした場所。
ここはレン様が、私の為に創造した楽園。
この地の名は……。
「ようこそ。我がエリシオンへ。」



白亜の小さな神殿を背後に花の女神が微笑んだ。
キョーコは愛されているのだと思った。
オリンポスにいた時よりもずっと綺麗になった彼女。
その表情はとても幸せそうで、冷酷とされる冥王が彼女を大切にしている事が見て取れる。
促されるまま辿り着いた神殿の前。
入り口には女主人を待ち控えている侍女が一人。
「チオリ、持て成しの用意を。」
「既に調っております。」
「ありがとう。」
神殿の中に入ると小さなテーブルの上には美しく盛られたみずみずしい果実や果実酒が入っていると思われる酒瓶が置かれていた。
「冥王様から直々にお預かりした物で、全て地上で採れた果実です。お飲み物も地上の物。ご安心下さいませ。」
席に着くと侍女が杯に芳醇な香りの果実酒を注ぐ。
「どういう事?」
「冥界でも、僅かだけど果実が実るのよ。このエリシオンにも小さな森があったでしょ。あそこにはたくさんの実を為す果樹があるわ。後でエリシオンを案内するけど、果実を採ってはダメよ。」
「何故?」
「生ある者でも二度と冥界から出る事がかなわなくなるからよ。」
「!!」
「口にしなければいいのよ。生きた者が、この地を踏むこともないのだから。それより頂きましょう。せっかくの果実だわ。」
「アンタは食べたの?」
「……私は、あの人の妻よ。もう、オリンポスに帰るつもりも無いもの。」
「私……アンタがヒドイ目にあっているなら、連れ出すつもりでいたのよ。……もう、無理なのね?」
「無理だわ。それにそんな必要はないもの。」
「そうみたいね。溺愛振りが並じゃないわ。」
「チオリ。今の話しはレン様には内緒よ。」
「承知しております。」
「ありがとう。貴女もお座りなさい。チオリは外には出た事が無いでしょう。一緒に話しを聞くといいわ。」
キョーコは仕えてくれている彼女にも席を薦め、最近のオリンポスや地上での出来事や興味深げに聞き入る。
こんな冥界の奥地では下界で何が起きていても知りようがない。
「トロイヤで戦争が起きているのね。レン様がお忙しいはずだわ。久々にレン様の神殿に行ったのだけど、騒がしかったもの。」
「人間は愚かですね。」
「豊かで、広大な土地が欲しいのよ。神にとっては小さなものでしかなくても彼ら人間には争ってでも欲しいものなの。…オリンポスで、何か代わった事は?」
「あいからずよ。」
本当に相変わらず。
そいえば失恋馬鹿男がいたわね。
「そうね。馬鹿な兄が荒れてるわ。アンタが冥界に来た直後なんて、単身乗り込む気でいたみたいだしね。」
「ショウが?」
「全能神がアンタを冥王に差し出したのは誤算だったみたいね。アンタに言い寄りながら、そっちこっちの女を追いかけ回してるから、こうなるのよ。馬鹿な兄を持ったものだわ。」
本当にめんどくさい兄だと思う。
あんなの男にキョーコを渡すわけにはいかないけどね。
「オリンポスは賑やかなところなのですね。」
「よく言えばそうだけど、正直煩いわ。」
「カナエらしいわね。」
「そういえば、アンタさっきから何を飲んでるの?果実酒…こんなに美味しいのに私しか飲んでいないじゃない。」
さっきから気になっていた。
チオリが、空になる前を見計らって果実酒を継ぎ足してくれるけれど、キョーコの杯はあまりすすんでいない上に、中を満たす液体も酒ではなさそうだった。
「気にしないで。それと、これは果実水よ。」
「お身体に障りますから。」
「?……体調でも崩しているの?」
一瞬不安が過ぎったけれど、フワリとキョーコが微笑む。
「カナエ、耳を貸して。」
「何よ。」
「あのね。………。」
耳元で打ち明けられた事に目を見開いた。
「…って、アンタっ!なんで最初に言わないのよ!!」
「だって、レン様にも、まだお話していないんだもの。だから秘密よ。」
「もーーーーーっ!めんどくさいわねっ!私、何も用意して来なかったわよ!あーーーーっ!とにかくお祝いよ。チオリさん、貴女、本当は飲めるでしょ。付き合いなさい!」
「チオリ、付き合って上げて。」
「では少しだけ。」
キョーコ、アンタ幸せなのね。
ならいいわ。
いつもアンタとは一緒にいたわね。
これから先も一緒よ。
アンタは私の大切な友達なんだから。



――いつもは静かなエリシオンに明るい声が華を添えた。――



もう帰らなきゃいけない。
本当に神なんてめんどくさいわ。
「チオリ、よろしくね。本当は私が送ってあげられたら良かったのだけど。」
「何を言ってるのよ。そんな事したら、次ぎに来た時はアンタの旦那に放り出されるわ。」
「また、来てくれるの?」
「もちろんよ。今度来るアンタの好きなものをたくさん持って来るわ。」
「待っているわ。……母様にも、私は元気だと伝えて。」
「伝えるわ。」
チオリに付き添われ、オリンポスへと帰る私を寂しそうに見送るキョーコ。
また来るんだから、そんな顔をしないでよ。
帰れなくなるじゃない。
今夜が月のない夜だったら良かったのに。
そうだわ、次ぎは月の無い夜にまた来よう。
冥王が何よ!
居座ってやるんだから。



――この夜、月が空に上るのがいつもより遅かったらしい。――



暗闇に光りを燈された小さな神殿。
いつもなら俺を出迎える愛しき妻の姿が無い。
「キョーコ?」
彼女を怒らせてしまったのだろうか。
不安な気持ちのまま神殿の中に入ると妻が嬉しげに笑みを返して出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ。」
謁見の間での事を怒っているのかと心配したが、そうではないようだ。
「今日は格別に機嫌が良いな。友の訪問が余程、楽しかったと見える。」
「はい。楽しゅうございました。」
「俺といるよりも?」
「レン様がお帰り下さったので、尚、嬉しいのです。」
愛しい妻。
冥王はオリンポスの神々に彼女との関係を知られ、彼女だけは手放さないつもりでいた。
兄である全能神と戦う事になったとしても、彼女だけは。
だが、全能神は純潔を失った彼女を許さなかった。
何よりも、忌まわしい死の国の王であり、同等の力を秘めた弟が眼前に存在する事を許さなかった。
結果として、俺はキョーコを冥界に連れ帰えることになったのだ。
愛しい妻の為に創造した楽園。
そこで笑顔で出迎えるキョーコが堪らなく愛しい。
「奥に行こうか。」
キョーコを抱き上げて、そのまま奥の間へと歩み出した。
だが、いつもと違う反応を見せるキョーコ。
いつもなら、抱き着いてくれるのに、俺の胸に身体を預けてくれるのに。
「おっ、お待ち下さい。その前にお話しが!」
「寝所でも聞けるぞ。」
「本当に聞いて下さいます?」
「もちろんだ。」
向かった先の寝台にゆっくりと妻を降ろし、その上に覆いかぶさる。
早く君を抱きたかった。
そんな俺に彼女が思いもしない事を言い出した。
「レン様。しばらく、こういう事はお控え頂きたいのですけれど。」
今、彼女は何と言った?
「………。」
こういう事は控える?
それはつまり……。
「レン様?」
「どうして?」
「あの、ですから、そのお話しを……。」
「俺が嫌いになった?」
「えっ?」
「神殿で冷たくしたから?」
「あのレン様?」
「キョーコ。君を愛している。」
「それは私も同じですけれど。」
「キョーコ。」
「レン様!どこを触っておいでですかっ!」
「キョーコ。何が問題なんだ。どうして俺を遠ざける。」
俺が醸し出す険呑な空気が寝所を満たし、キョーコを抑えつける腕にも力が篭る。
そんな緊迫した空気をぶち破るトーンの高い若い女の声。
「それは、母体と御子に障るからでございます。」
「「えっ!?」」
「冥王様。キョーコ様のお身体が落ち着かれまで、お控え下さいませ。」
「「………。」」
「キョーコ様、カナエ様はご無事に戻られました。ご安心下さい。それでは私は、これで失礼いたします。ごゆるりとおくつろぎを……。」
戸口に姿を現したチオリ。
顔色一つ変える事なく、言うだけ言って、いつものように室外へと消えた。
「……………。」
「……………今のは本当か?」
「はい。」
「そうか。すまない。乱暴な真似をした。」
キョーコが再び笑みを見せた。
その夜は、穏やかな気持ちで眠りに就いた。
愛する妻を腕に抱いて。



キョーコ、君は凍てついていた俺の心を解かす春そのもの。
冬の終わりを告げるもの。








かなり気の早い春の訪れ。
そして正月にはあまり相応しくないこのシリーズ。
すいません。

エリシオンはいつも春なんだろうな。

いつか、蓮とキョコたんか春の陽射しみたいに柔らかく微笑み合うラブラブな姿が見たいです。



月華でした。



エリシオン 邂逅

※ギリシャ神話を元にはしてますが、大幅に変わっています。
ストーリーはほぼ無視。
ご注意を……。





春は好き。
たくさんの花が咲き乱れて、優しい光が地上に降り注ぐ春が好き。
神々の住まう聖なる地をこっそり抜け出して、お気に入りの場所へと足を向ける。
一面に広がる花畑。
その近くには綺麗な泉もあって、たくさんの動物達が遊びにくる。
私のお気に入りの場所。
だけど、母様は近づいてはいけない場所なのだと言っていた。
恐ろしい冥界の入り口が近くにあるからなのだと。

誰も近づかない。
煩わしい求婚もない。
ここにいれば、私は自由になれる。
私の大好きな場所。



それは突然の出会い。
振り向くとそこには背の高い黒衣の男性が立っていた。
見たこともないくらい綺麗な人。

「君は誰?」

素敵な声。

「ここには来てはいけないって言われてない?ここは冥界の領域が半分入り混じった場所だよ。」
「貴方はいるじゃない?」
「俺はいいんだよ。ここの番人みたいなものだから。」
「じゃあ、番人さん。私がここに来ることを許して。心配なら、見張っていればいいわ。これもお仕事よね?それに悪さなんてしないわ。あっ、お花くらいは摘んでもいいかしら?」
「怖くないのか?」
「どうして?」
「冥王がくるかもしれないよ?君を浚っていくかもしれない。」
「冥王様はお忙しい方だと聞くわ。めったにお姿を現さないと。とても怖い方だって聞いたのだけど、貴方はお会いした事がある?」
「あるよ……。」
「どんな方なの?」
「孤独な神かな。誰も信じていない。同じ冥界の神ですら、一線を置いているよ。」
「辛くないのかしら?」
「慣れているから。」
この地の番人と名乗る青年神は少し寂しげに笑った。

「君は冥王の名前を知ってる?」
「いいえ。”冥王”としかお呼びしていないから。」
「そう。」
「そうだわ。貴方の名前を聞いていないわ。教えて下さる?私はキョーコよ。」
「レン。」
「レンね。」



それから私達が恋に落ちるのに、時間はかからなかった。
いいえ、出会った瞬間にはもう恋をしていたのかもしれない。



何度もキスを交わして、夜の闇に忍んで愛を交わした。



「キョーコ。」
「レン。」



誰よりも愛しい人。
私のすべてを捧げた唯一の人。



私達の幸せはずっと続くのだと思っていた。



何度か求婚を迫っていた太陽神が私の後をつけて来ている事も知らずに、レンに会いにいった。
レンはそれにすぐに気付き、姿を隠そうとしたけれど、もう遅かった。



私は初めて彼の正体を知る事になる。



彼はこそが冥王。
死の国の王たる神だった。



お母様は狂ったように泣き叫び、天界の長たる全能神に許しをこう。

何故?
どうして、そこまで禁忌とされなければならないの?
彼は皆が言うような恐ろしい神ではないのに。
足を踏み入れる事を禁じられていたあの地が、それ程までに忌まわしい場所なのだとしたら、どうしてあんなに美しいの?
小鳥が飛び交い、たくさんの動物達が集うのは何故?
どうして、こんなに優しい人を忌み嫌うの?

分からない事ばかりが頭を過ぎる。



父たる全能神は母の願いは聞き入れず、レン……冥王に私を連れて、冥界に帰れと言った。



私はオリンポスを追放された。
初めて訪れた冥界。
そこは暗く、どこからともなく死者達の呻きや叫びが聞こえる。
重苦しい世界。
天の神々すら恐れる死の世界。
この世界を統べるのがレン。
レンは自らを”孤独な神”と言った。
同じ冥界の神にすら、一線を引いているのだとも。

「キョーコ。すまない。」

苦しげな顔。
そんなに悲しまないで。
貴方との仲を引き裂かれなかった事が何よりも嬉しいの。
貴方が私を連れきてくれた事が、これから先、伴にあり続けられる事が喜びなの。
失ったもの多くあったけれど、貴方の存在に比べたらとるに足りないものばかり。
日の光を見ずとも、貴方と出会った思い出の地を踏む事は叶わずとも、あの清らかなせせらぎを感じられずとも、小鳥や動物達と戯れる事が出来なくなったとしても、貴方を奪われる事より辛い事はない。
ただ一つ、母神が心配だけれど。



しばらくして、レンが私の為に神殿を宛がってくれた。
彼と出会った花咲き乱れるあの美しき地とよく似ていた。
そこに立つ白亜の小さな神殿。



この地の名はエリシオン。
美しき最果ての地。




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エリシオン 2

地上に出たのは気まぐれ。
そこで、美しき春の女神に出会ったのは運命。
俺は彼女に恋をした。



冥界を統べる王として、俺は兄弟にすら疎まれていた。
それが普通なのだと思っていた。
彼女に出会うまでは。

「冥王様。」

花の女神キョーコ。
彼女は凍てついた俺の心にすら美しき花を咲き誇らせた。
毎日のように彼女の元へ通う俺に、天に住まう神々は言った。

「冥王たるお前が地上に姿を現す度に生きる者達に死をもたらす。」と……。

半狂乱になって泣き崩れる母神の前でキョーコを差し出し、俺に冥界へ帰れと言う。
俺は彼女を連れ、冥界へ帰った。
亡者達の呻き、叫びが響き渡る闇に包まれた世界。
一筋の光すら届かない地の奥。
彼女に相応しくない死の世界。
そんな世界にキョーコを連れ帰ったのは、彼女が神々により死の神に魅入られた女神という烙印を押された為だ。
天界に残っても彼女は辛い思いをする事になる。
俺と出会って、俺と結ばれてしまったから。
俺と思いを交わし、俺の手を取ってしまったから。
すべては俺のせい。



彼女を連れ帰り、一番最初にした事は冥界の最奥に彼女の為に楽園を築き上げる事。
彼女の為だけに作り出した空間。
偽りの太陽。
彼女が好きだった花の園。
彼女が遊んでいた泉。
彼女と初めて出会った場所を作り上げた。
彼女の為だけの世界。
そこに小さな神殿を造り彼女を住まわせた。

そして彼女を偽り、この世界の果実を与えた。
彼女をここに縛り付ける為に。
彼女が好んでこの世界にいるのではない事を天の神々に示す為に。

彼女は囚われた女神。

けっして俺を愛して、俺の妻になったのではないと示す為に。



「冥王様。」
「……レンだ。」

俺を冥王と知らずにいたあの光溢れる世界で君が呼んでくれた俺の名。

「レン様。」

花よりも可憐に、太陽の光よりも眩しく微笑む彼女。

君は何故、俺に微笑む?
君から光を奪った俺を君は許すのか?

愛しさに彼女を引き寄せて、腕に抱く。
俺に許されたただ一つの温もり。

「レン様。お帰りなさいませ。」
「………。」

君は……。

冥王の花嫁は微笑む。
”この地こそ、自分のいるべき世界”とでもいうように、俺の訪れを待つ。

君に……こんな偽りの世界しか与えて上げられないけれど、代わりに俺の全てを君に捧げるよ。



君こそが、俺の全て。
君さえいれば、何もいらない。



彼女を抱き上げて、彼女の為の小さな神殿へと足を踏み入れた。



また……夜が訪れる。



俺を包みこむ優しい闇……。


昼と夜だけの偽りの世界。

君に捧げるこの地の名は”エリシオン”。



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エリシオン

光溢れるあの世界へは、もう二度と帰る事はかなわない。



知らずに口にした柘榴の実。
それが私をこの地へと縛り付ける。
最初から私を帰す気などなかったのだ。
穏やかな瞳で、偽りの言葉で、優しい囁きで、私を縛り付ける貴方。
私は冥府の王に捕われた花嫁。
もう二度と陽の光を見る事はない。



花咲き乱れる園に一人立つ。
冥府に、こんな場所があるなんて知りもしなかった。
死者達の呻きも叫びも届かない冥府の最果ての地”エリシオン”。
この場所が、唯一自由を許された場所。
ここには私と侍女のみ。
その侍女さえ、冥王が訪れる時にはいずこへか姿を消す。

「チオリ?」

名を呼べば姿を表すはずの彼女の気配がない。



また、夜が来るのだ。



「キョーコ。」

私を呼ぶ優しい声。

「冥王様。」
「……レンだ。」
「レン様。」

その優しい微笑みが私を捕らえて放さない。
冥府の王が私の身体を包み込む。
私は冥王の花嫁。
この地こそ、私のいるべき世界。
あのまばゆいばかりの光はなくとも、貴方さえいればかまわない。
貴方こそが、今の私の全て。



エリシオンにまた、夜が訪れる。



私を包む優しい闇が……。










………☆矢のイメージが未だにこびりついてます。
ちなみに私のイメージではピュプノスがやっしー、タナトスがレイノ……かな??
尚ちゃんはアポロンかアレス。
アルテミスがモー子さん。

蓮はハデス!この設定は譲らん!!これだけは譲らん!!!ギリシャ神話で一番好きなお話なのだ!!


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蓮キョ大好きです。
駄文しか書けませんが、よろしくお願いします。

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